赤い王子の秘密
「すみません。ポテト後でお持ちしますね」
女性店員から0円のスマイル受け取り、飲み物だけを持って席へ戻る。
「ほい120円だ」
「俺のバーガーは?」
コーラを目の前に置くと、赤井 錬は顔面蒼白でふざけたことを言う。
その体調で、ハンバーガーなんか食べたらもれなく口から出てしまうぞ。
「金が無かった。買い物帰りなんだ」
実際、漫画を買った帰りだし。そのまま壁にもたれる赤井の前に座る。
駅前のハンバーガー店は二階まであり、周囲から見えずらい通路から遠い席に座った。気を付けないと、ただ座っているだけでもコイツは周囲の注意を引くかねないほどの容貌なのだ。
「百倍で払うぜ。実際、マジで倒れる寸前だったしな。醜態を晒すところだった」
「そこまでして、遊ぶ必要はないだろうに」
限界を超えて遊ぼうとするのは日葵だけで十分だ。
「今日は、ちょっと狙い目の女子がいたんだよ。いい感じに連絡先を交換できたと思ったんだけどな」
「普段から、女子に囲まれているのに、そこまでする必要があるのか?」
「うるせー……今日の女子は北聖の女子だったんだよ」
北聖とは『北の上聖学園』の略だ。この辺では結構有名だし、男子の間では話題になることも多い。お嬢様御用達の女子高という理由でだが。
確かに、北聖の女子と出会いがあるのなら、大概の男子は多少無理するだろうが……赤井が必死になる理由があるとは思えなかった。
「北聖の女子だろうと、君なら余裕でモノにできるだろうに」
「モノにしちゃダメだろ。つかず離れず、特定の相手ができるとイメージが下がる。遊ぶ時は多数の女子相手じゃないと不味いんだよ」
「そんなもんか」
氷で薄まったコーラを飲む。彼女一筋の俺にはわからないが、モテる男にはそれなりに悩みがあるのだろう。
赤井との間に別に会話は無く、無言の時間が流れた。
「すみません、ポテトお持ちしました」
壁際の席だったので、死角から急に店員が現れる。
おっと、忘れていた。飲み物だけというのも悪いので、ポテトを頼んでいたのだった。
「っ……」
女性定員が近づいたその一瞬。赤井の体が硬直し、後ずさるように壁側に寄った。
店員はそれに気づくことはなかったが、赤井の姿を確認すると頬を染めてジッと見つめる、赤井はすぐにいつもの調子で笑顔で会釈すると「失礼しまいたっ」と噛みながら店員は戻っていった。
「……」
「……」
再びの無言タイム。なんだ今の反応は? まるで……いや、そんなまさか……。
学園のアイドルで女子だけの親衛隊がいるような男だぞ。
赤井は気まずそうに横を向き、前髪をいじっている。
「勘違いかもしれないけど」
「勘違いだ」
被せられた。まぁ別に指摘することでもないか……。
「お前、女性が苦手なのか?」
ハッ、つい言ってしまいました。気になると、放って置けないのが以下略。
「……うるせー」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く、王子様。
なんか、知っちゃいけないことを知ってしまったんじゃないか?
そんなことを思いながら、すするコーラはとても薄く、摘まんだポテトは塩が効きすぎていた。
ブックマークと評価ありがとうございます。
感想も嬉しいです。