甘さは舌の上に
「パフェ、パフェ~♪ パッパラ、ぱぴぷぺパフェ~」
調子はずれの適当な歌を唄いながら、繋いだ手をブンブンと振る日葵の姿を見るとどうにも緊張感が抜ける。だけど、気を引き締める必要がある。コイツが能天気でいられるようにしないとな。
『日下部君……問題……なくなっちゃった。どうしよぉ…』
一年前。鼻血を出しながら座り込んだ彼女の姿がよぎる。解けたはずの問題を自分で台無しにして、より困難な問題に自分で作り変えてしまった天才の姿だ。
困難を求める彼女は加減を知らない。天に七難八苦を求めて、自傷する彼女はもう見たくはなかった。
「ん? イックン、どしたの?」
「誰かさんが鼻血を出していた時のことを思い出してた」
「うにゃ!? ヒヨちゃんの黒歴史っ!」
「バーカ。大事な思い出だよ」
ポニーテールが跳ねて猫のシッポのようだ。
「うぅ~。イックンの意地悪、エッチ」
「エッチは違うだろっ!」
とか話していたらビルの一階に到着した。
「ここの奥なんだよ」
日葵が指さした先にあるのは、茶色を基調した落ち着いたデザインの喫茶店だった。
「割とちゃんとした、純喫茶っぽいけど本当にデカいパフェがあるのか?」
「間違いないよ。雑誌で見たもん」
店内に入ると、薄暗くない程度の灯りがまるで別世界のようだ。
バイトの女の子が席まで案内してくれた。
「モーニングですか?」
おすすめモーニングか、喫茶店のモーニングってちょっと憧れるよな。
「あぁ、いや。えっと……」
「ラブラブカップル☆デカMAX☆パフェくださいでっす!」
「あぁ……かしこまりました。お待ちください」
なんか生温かい目で見られてしまった。言っとくけど日葵は同じ年だからな。
たま~に勘違いされるんだよなぁ。余裕があればコーヒーも注文したいな、とメニューを探すが見当たらない。どうやら、注文の時に引っ込めるシステムのようだ。壁にもメニュー無いな。
キョロキョロと店内を見ると、なんか写真が飾られている。
『デカパフェ一人で完食者。8月!!』
の文字の下にはめっちゃいい笑顔で空のパフェグラスを掲げる錬の姿があった。
あいつ何やってんだ。……日葵に言うのは可哀そうだから止めておこう。
「お待たせしましたー。ラブラブカップル☆デカMAX☆パフェです」
ズドンと置かれたパフェは全長40㎝はあろうかという大きさで、フルーツだのアイスだのがこれでもかと入れられ、隙間なくクリームが敷き詰められていた。
「おぉ~。強敵でっす」
「いけんのかコレ。一キロって聞いたけど、クリームの量が半端ないぞ」
「七難八苦でっす!」
そう言って日葵はスプーンを突き刺した。やらいでか、と俺も食べ進める。
後半のフルーツが中々厄介で二人で悪戦苦闘しているうちに、日葵を見ると鼻の頭にクリームがついていた。
「クリームついてるぞ」
手拭きでふき取る。流石に恥ずかしいのか日葵は無言でモジモジしていた。
フフフ、たまには俺も攻撃できるのだよ。すると日葵が対面の席から横に移動してきた。
「イックンもついてるよ。手が届かないからこっちきて」
「別に言葉で教えてくれたらいいだろ」
「わかってないなぁ。これが大人のデートなんだよ。ホラこっちによって。前向いて」
言われるようにホッペを日葵に寄せると。
ペロリっ。
「んなっ!?」
「エヘヘ、仕返しでっす」
座席から飛び降りてクルリと振り向きベーと舌を出す日葵は、ちょっと、信じられないくらいに可愛い。赤面を抑えきれず。無言で残りのパフェに向き直ったのだった。
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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