天然少女の宣言
「それで、どこ行くんだよ?」
デートする男としては最低の言葉かもしれないが、目的がある以上ノープランである。
肝心の日葵は肩に下げた鞄にワンピース姿で笑顔を浮かべる。どうでもいいけど、鞄の紐が胸の間に挟まっているのでなんとかしたい。
「ニシシっ。えっとね、明々後日のパーティーなんだけど、多分叔父さんは私達を蚊帳の外にして勝手に話を進めると思うんだよね。私を神輿に担いで、話を勧めたいはずなの」
「そんな感じするな。パーティーでも目に見えて俺達を無視したし」
「問題はなんでそんなことをするのかってことでっす」
ビシっと指さしてくる。そりゃあ日葵の能力が目当てで……うん? 確かにしっくりこない。
自分が社長なんだからそのままトップにいればいいじゃん。グループも順調だし、お爺さんも負担がかからないように人員配置をしていたはずだし。日葵が欲しいならもっと力技もできたはずなのに、まるで正面から衝突をさけるような迂遠な方法だ。仮にも、巨大企業のトップがするかそんなこと?
「……確かに、『問題』だな。単純に日葵の才能が欲しいってわけじゃないのか?」
「そだよイックン。叔父さんが固執していることを知ることが大事でっす」
「ふむ。その反応からするに、日葵は察しがついているのか?」
「……うーん。ずるだけど、お母さんから昔叔父さんのことを聞いたことあるんだよね。叔父さんは――」
日葵の口から出た説明は至極……単純で、子供っぽい理由だった。あれだけ自信たっぷりに動く一人の大人とは思えない。だけど、まぁ、納得できる。そして、日葵がやろうとしている馬鹿みたいな反撃についても説明され……理解できてしまった。
「そっか。それなら……やり様はあるか」
「うん、だから下準備でっす。二ヒヒっ、ヒヨちゃん悪い子。協力してくれるよねイックン?」
「マジか……ま、地獄の底までいてやるよ」
「イックンがいないとダメだからね。私を止めてね」
そう言って日葵が腰に抱き着いてくる。ポンポンと頭を叩く。
まったく、こいつは俺に対して遠慮がないよな。
「わかった。だけどさ、俺からも相談っていうか頼みがあるんだ」
「ん? 何? 珍しいね、イックンからお願いなんて」
「一発、ぶん殴らなきゃならない奴がいる。日葵の計画に差し込んでくれ、ケリは俺がつける。いや、俺達がつける」
日葵の告白を茶番では終わらせない。どれだけ、醜くても見たくなくても、そんなの知ったことじゃない。……結構怒ってんだからな。
「わかったよ。じゃあ、手始めにお母さんがピックアップしているから。午前はネカフェだね」
「またデータと格闘か……。その前に軽くなんか食べようぜ」
「わーい。あのね、駅の近くのビルに夏のデカパフェあるんだよ。一キロあるの」
「デカすぎだろ。糖分の取りすぎで倒れるぞ」
「持ち帰りもありでっす」
「もはやパフェなのかそれ?」
なんて話しながら手をつないでビルを目指す。夏の風は頬を撫で、日葵の香りを運んでくる。
絶対もっと良い方法はある。でもこの天然少女は常に面白いことに全振りで、想像を超えてくる。
幹久は想像できただろうか、日葵が数分前に言ったセリフのことを。
『――だからねイックン。おじさんが正面から私達と向き合うために、龍造寺の企業をぶっ潰しちゃおう』
思わず笑みがこぼれる。世界有数の企業をたった二人の高校生がどうすると言うのだ。
夏の風は強く吹く。不安に立ち止まる暇すらない。ただ、必死でこの小さな掌を掴み続けるだけだ。
あけましておめでとうございます。物語もいよいよ佳境となってまいりました。
最後までしっかりと書いていくので何卒本年もよろしくお願いします。




