天然少女と露天風呂
車内で気合を入れ直し、今後のことを考え……。
「スピー……スピー……」
ようとしたが、日葵は俺の腕を抱きかかえたまま爆睡していた。……レンタルのスーツに涎が着きそうなんで止めてくれないかな? 晴彦さんが血走った目で睨みつけてくるのが怖いんだけど。
「……お姉ちゃん。今日も早起きでしたから」
「フォロー入れなくていいぞ咲月ちゃん。ったく、流石にドレスのままベッドに運ぶわけにも行かないし、帰ったら起こすか」
大物なんだか天然なんだか、ほどなくして屋敷についたので日葵を起こす。
「ほら、起きろ日葵。ついたぞ、寝るなら部屋着に着替えてからにしろ」
「むにゅ…イックン、だっこ」
「するかバカ。ほら起きろ」
ここ数日は本当に甘えたがりだな。まぁ、それを可愛いと思う俺も大概のぼせているのだが。
寝ぼけた日葵が咲月ちゃんに連れられて自室に向かう。
俺も着替えるかな。ネクタイを緩め、ワイシャツのボタンの一番上を外すと葉香さんが声をかけてきた。
「イックン。お風呂が沸いてるわよ。お父さん自慢の露天風呂があるの、屋敷の二階と三階の階段の間に中部屋があるから、一番風呂をどうぞ」
「なぬ、一番風呂は僕がもらうよ。なんなら樹君と入ってもいいな。案内しようじゃないか」
すでにジャケットも脱いでいる晴彦さんが、大きく手をふって奥に行こうとするが葉香さんが肩を掴む。
「あ・な・た? 私達はやることがあるでしょう。関係各所に状況の確認と、ふざけた噂に対応するわ。すぐに着替えてシャワーで済ませるわよ」
「い、いや。お風呂から上がったやるつもり……」
「仮にも娘の問題を片付ける前にくつろぐ親がいますか! ……やることをやったら、後で労った上げるから」
晴彦さんの耳元に口を寄せて何かを言う葉香さん。次の瞬間晴彦さんの態度が一変した。
「ハハハ。もちろん頑張るさ。任せてくれ給えよ」
パチンとウインクする葉香さん。完全に手綱を握られているな。まぁ、本人が幸せそうだし傍から見ても仲の良い夫婦だ。
「……風呂行くか」
卜部家の両親を見送り、一旦部屋着に着替えた後。葉香さんが言っていた風呂を目指す。一階には普通の家族風呂もあるし、二階にはシャワールームもあるってのに、さらに露天風呂まであんのか。外観からはわからなかったな。階段の途中に、横開きの木製の扉があった。
「おぉ、凄いな」
開けると脱衣場になっており、ウォータークーラーに扇風機付きだ。
さらに奥のすりガラスの扉を開けると正面から見て屋敷の反対側、庭を望む形で露天風呂があった。これ多分あれだ、檜ぶろってやつだ。めっちゃいい匂いがするぞ。銭湯ほど広くはないが、人が数人なら余裕で入れるほどの大きさだ。テンション上がるな。
誰が見ているわけでもないが、一番風呂に入るならキチンを体を洗わないとな。
時間をかけたしっかりと身体を洗い。足先からゆっくりと風呂に入る。
「ふぃ~」
そりゃ変な声も出る。今日は色々あって気も張ったからな。目をつぶり檜の香りを堪能する。
……なんかこのまま寝てしまいそうだ。
ガラリ。
背後から扉が開く音がする。まぁ、晴彦さんだろう。用事を抜け出したに違いない。
「お疲れさまでし……た!?」
「やっほー。イックン、どして敬語?」
バスタオルを巻いて髪をアップに結った日葵がそこにいた。
「どうしたはこっちだ! なんで入ってんだよ。着替えが脱衣場にあっただろ?」
「うん。さっき、お母さんが露天風呂をすすめていたから、私もイックンと入ろうと思って」
とか言いながら、かけ湯をして躊躇なく湯舟に入る日葵。あぁ……なんかもう倒れそうだ。
とりあえず、傍に置いていたタオルで股間を隠す。湯にタオルを入れるのはマナー違反だがそんなの言ってられるか。
「待て待て、いくらなんでも不味いだろ?」
「大丈夫だよ。じゃーん」
そう言って、日葵は景気よくバスタオルを解いた。
顔を背けるべきだろうが、普通に見てしまう俺は弱い男です。と思ったら、その下は水着。
デンと盛り上がった胸元は変わらず凶悪だ。
「ちゃーんと。水着を着てきたんだよ。びっくりした? シャワーも浴びてきたから、お目めもシャキシャキ。このまま一緒に浸かろうよ」
「こっちはなんも着てないけどな」
「おー。私は大丈夫でっす!」
「こっちが大丈夫じゃないわ。ちょっと待ってろ、水着を着てくる」
「大丈夫なのにー」
何と言われようとこのままは色々と不味い。脱衣所に退散し、パッパと身体を拭いて、部屋から水着を取って来る。深呼吸して戻って日葵の横に座った。少し湯冷めした身体が再び温まる。夏だとはいっても、海が近いからか風は涼しいな。
「疲れた。寿命が縮まったぞ」
「えへへ、お疲れ様。はいお水」
ペットボトルを差し出してくる。情緒は無いが機能的だ。冷えた水を流し込み。もう一度大きくため息をついた。
「……」
「……」
なんとなく二人して黙り、庭園を眺める。変な緊張感も無く、ただ気持ちよさが体に染み込んでいく。そっと肩に当たる感触。日葵が頭を乗せていた。
「何でこんなことしたんだ?」
日葵は身持ちが固い。天然なのでたまに露出の激しい衣装を来たり、水着なら恥ずかしくないみたいなそういったラインが独特だが、流石に一緒に風呂に入るのは恥ずかしいはずだ……多分。
「理由? 別にないよ。ただイックンと一緒にお風呂入りたいなーって思っただけ」
「それならいいけど。変に気を遣うなよ」
水音が響く、前にでて一段下がった場所で日葵がった。ムーと頬を膨らませていた。
「イックンはおこちゃまだなー。そういうのは言わないのがアダルトな大人なんだよ。私はイックンだから一緒にお風呂に入りたかったの!」
腕を振って威嚇してくる。水着でそれをやると色々攻撃力が高いので止めていただきたい。
「頭痛が痛いみたいな文章だな。悪かった、デリカシーがなかったな」
「……なんかイックン。余裕がある。むー、ドキドキさせようとサプライズしたのに」
もちろん、実際はドキドキしている。男ってのは好きな女性に自分の下心を知られたくないんだよ。
そもそも水着だって結構ドキドキするのだ、しかも今は風呂だ。海水浴場で見るのと風呂で見るんじゃあ見方も変わる。言っとくけど必死で焦点を後ろの松に合わせることで平静を保っているだけだからな!
「えいっ」
しかし、日葵は気に入らないのか、肩ひもに指をかけて少し引っ張った。それだけ布地が柔らかな胸に食い込み、肉感が強調される。
効果はバツグンだっ!!
「脱ぐ?」
「脱ぐなっ! ちゃんとドキドキしているよ」
「ならよしっ!」
「ったく、のんびりしようぜ」
「そうだね。改めて、今日はお疲れ様イックン」
「お疲れ様、日葵」
「ハハ」「エヘヘ」
改まった挨拶がくすぐったくて二人して笑ってしまう。
うすうすわかっていたけど、真の強敵はいつだって日葵なんじゃないか?
そうなら、幹久って叔父さんや赤井や青柳にどうこう言っている場合じゃないよな。
その後は、パーティーの衣装についてや料理について話した。少しのぼせたので、そろそろ上がるか。
「結構話したし、そろそろ上がるか。先に上がってもいいぞ。ちょっと汗かいたから頭を洗い直そうかな?」
「なんどもシャンプーを使うのは髪の毛に悪いんだよ」
「そっか、流すだけにするよ。なんなら背中でも洗いっこするか?」
先程までの会話の延長で軽口を叩くが返答がない。見ると、日葵は耳まで赤く染めていた。
えっ? まさかこれはダメな奴なのか。
「背中を洗いっこなんて……イックンのドスケベっ! イックンのカブト虫がヘラクレスだよっ」
「何言ってんの!? っておい」
「うにゃああああああ、そゆのはもっと大人になってからでっす! 来年とかっ!」
そのままグルグル目のまま走り去っていってしまった。今のは俺が悪いのか? というか来年はできるのか?
相変わらずよくわからん。まぁ、下手に突っ込まない方がいいだろう。
今は脱衣所で着替えているだろうし、水でも飲んでもう少し浸かるか。
しばらく、湯につかり風にあたる。もうちょっと浸かるのもありか?
とか考えているとすぐに時間が経ってしまう。月が綺麗だな。風を受けるのが気持ち良い。
「あっ、隣よろしいですかな?」
「えぇ、どうぞどうぞ」
「ふぅ。良い風ですな」
「そうですね~」
……えっ? 横を見ると、小柄で豊かな髭の老人が座っていた。
「うぇ!?」
「にょ!?」
俺の声に驚いたのかこちらを向いた老人としばらく見つめ合う。
「誰?」「どちらさまですかいのぉ?」
もしかして、日葵の爺ちゃん!?
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