青い王子は宣言した
「へぇ、お酢が効いてるよ。確かにシャンパンに合うでっす」
「おーい。食べるのがメインになってんぞ」
ファーストコンタクトを何とか乗り切り、カウンターにたどり着いて一息つく。
周囲の視線はここに入って来た時よりは、落ち着いている。もっとも、先程の日葵の発言のせいで俺の胸は高鳴っているわけだけど。必死に落ち着かせているが、日葵にはお見通しなのはわかっている。
そんな日葵はケーキの様にカラフルな野菜料理を美味しそうに食べている、所作も綺麗だ。この天然め、こっちの気も知らずに……。
「ん? イックンも食べる? あーん」
特に意識もせずにフォークを差し出してくる。いや、流石にマナー違反……いいや、めんどくさい。
顔を近づけて口にサラダを入れる。野菜だけかとおもったけど、生魚もあったのか、確かに酢が効いてるな果物感も感じるし、味が複雑でよくわからないが美味しいのは美味しい。
「旨い。この果物感って何なんだ?」
「バルサミコ酢かと思ったけど、ワインビネガーなのかも? 他にも何か交ぜてそうだね。今度研究するから味見してね」
「もちろんだ。肉系でも良さそうだな」
いつもの会話なのにドレスにスーツを着ていると、妙にこそばゆい。
でも、悪くない。
楽しそうに手袋をつけた腕を動かしながら、料理について話す日葵はやっぱり可愛い。
その後も、数人の男女に話しかけられたが、特に意識しないのに向こうから離れて行った。
二杯目のグラスをもらっていると、咲月ちゃんがやって来た。
「お疲れ様です。樹さんにお姉ちゃんも、話題になってますよ。あんまりにも仲がいいから、近づきにくいって、作戦成功ですね」
「あっ、サッキー。お父さん達は?」
「お父さんとお母さんは、会場を回りながら色々話をしてます。行く先々で紹介されるのに疲れたから二人の所に来たんです
見かけ日葵よりも年上に見える咲月ちゃんは、周囲からの注目も強いようだ。
顔色が悪いわけではないが、それなりに疲労している様子だ。
「座って休むか? 付き合うよ」
「そだよ。サッキー、お水飲む?」
「ありがと、でも大丈夫。それに……そろそろ叔父さんのお話があるらしいよ」
咲月ちゃんが会場の奥に設けられたステージに目線を向けると、先程幹久と名乗った日葵の叔父がマイクを持っていた。
会場も静まり、注目が向けられると幹久さんが口を開けた。
「あぁ、いや。すまないね。談笑を止めるつもりはなかったんだが……では手短に、本日はパーティーに集まってくれてありがとう。知っての通り我がグループの会長である父の催しの前に少し顔合わせをと思っていたのだが……予定より人が来てくれたようで本当に嬉しい。大いに飲んで、食べて、楽しんで欲しい。おっと、未成年はほどほどに、ハハハ」
軽やかな雰囲気で話が進んでいく、このまま終わるのかと思っていたが不意に視線がこちらに向けられた。日葵を見ている? いや、その視線は明らかに俺を見ていた。
「今日は特別なゲストが来ている。知っている者もいるとは思うが『龍造寺』の秘蔵っ子だ。私の姪を紹介したい。日葵、咲月、どうか前に来てくれ」
……マジかよ。周囲を見るが晴彦さんと葉香さんはいない。二人を見ると日葵はいつも通りだが、咲月ちゃんは緊張しているようだ。周囲が拍手をし始め注目が集まる。会場の雰囲気は完全に姉妹を前に押し出すようになっていた。
「およよ、呼ばれちゃったでっす」
「咲月ちゃんは疲れてるし、遠慮した方が良くないか?」
「この雰囲気では無理です。行きます」
一瞬目線を下げて、咲月ちゃんが目線を上げる。この場合、俺はどうすればいいんだ?
どうすることもできず。ステージ前まで付いていく、二人がステージを登ると拍手は一層大きくなり、幹久さんがマイクを口元に近づけると穏やかに止まった。
「来てくれてありがとう。こちらが日葵で隣が咲月だ。二人共私の自慢の姪達だ。立派なレディになった。咲月はまだ中学生だが、日葵はもう高校二年生か、先の催しでは日葵が主役になる予定だ。ここだけの話だがね。私は近い将来、彼女たちにグループのポストについて欲しいと思っている」
ザワリと空気が重く動いた気がした。他の企業の御曹司が多くいるこの会場でその言葉の意味はあまりに衝撃的だ。
「叔父さん。ちょっと待って欲しいんだよ。私は別にそんなこと考えてないでっす!」
「叔父様、急に言われても困ります」
マイクを通さず日葵と咲月が抗議するが、客たちには聞こえない。そして再び歓迎するように拍手が沸き上がった。チッ! やられた。言ったもん勝ちかよ。なんで日葵を引き入れたいのか意図がわらないけど、この状況が良くないってのはわかった。いっそステージに駆け上がるか。
気合を入れて前に出ようとすると、横にいた給仕のスタッフに腕を掴まれる。そのまま人の壁を作られステージに近づけない。そうしていると、幹久さんの後ろから人影が飛びだした。
「待っていただきたい!」
「あいつ、青柳!?」
眼鏡を触りながら飛び出してきたのは、青の王子こと青柳 玲次だった。
日葵と幹久さんの間に入り、日葵を庇うように立つ。
「すみません。そのお話の前にどうしても、伝えたいことがあるんです」
「君は……青柳の所の…、今は大事な話の途中なんだが、失礼じゃないかね?」
「わかっています。しかし、どうしてもこの場で伝えたいことがあるのです」
そう言って、なんかそのままマイクを受け取っている。
くっそ、この人壁ビクともしないんだけどっ! なんとか押しのけようとしているが全然動けない。
青柳はそのまま日葵に向き直った。
「青柳君? どしてここにいるの?」
首を傾げる日葵に青柳が一歩近づいて止まる。それはまるでドラマのワンシーンのようで、傍から見れば絵になっていたのかもしれない。
「……君に言いたいことがある。僕と将来を共にして欲しい」
律儀にもマイクを通し、青柳は日葵にそう宣言した。
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