天然少女はどこまで本気?
日葵と一緒に会場に入る、部屋の天井は高くいろんなところがピカピカだ。出入口でノンアルコールのシャンパンを受け取る。
「……めっちゃ、見られてんな」
「あっ、イックン。サーモンのマリネ美味しそう。お皿どこだろ?」
会場の視線がグッとこちらに集中するのを感じた。立食形式のパーティーと聞いていたが、年齢層はわりとバラバラだ。初老のナイスミドルから、同年代の男女もそれなりにいるようだ。
後ろからは、まだ招待客が入ってくるようだし俺達が会場に入ったタイミングは早すぎず遅すぎずといった良いタイミングのようだ。
隣の日葵は料理しか見えていないが……コイツ、周囲の視線に疎いとこあるよな。図太いというか、心強いというか……。
「料理が置いてるビュッフェ台が、中央と手間にあるから皿は近くにあるだろ。あと、ちゃんと前菜からとるんじゃないのか?」
「マジメだな~。そんなの気にする人いないよ」
教えてもらったマナーに沿って動こうとするが、日葵は自由に動くつもりだ。
こちとら初心者だぞ。胃が痛くなってきた。助けを求めて後ろを振り向くが、晴彦さん達はすでに参加者と挨拶をしていた。当初の予定通り、咲月ちゃんは晴彦さんと葉香さんか俺達との間を移動する感じで、並べく一人にならない立ち回りだ。一応中学生なので、そこまで強く寄って来る人はいないと言う話だが、ぶっちゃけすでにちらほらと意識している男性は多そうだ。
そんな中で、テンパらずに済んでいるのは、このスーツのおかげで場違い感が無いからだろう。
「はい、イックン。前菜だよ。むむ、このムースいける」
この天然娘はさっさと前菜が入った皿を持ってきやがった。
ナプキンをしいた上にグラスを置いて、小さなフォークでトマトとアボカドの前菜を食べている。
「……まぁ、気を張ってもしょうがないか」
俺もグラスを置いて前菜を食べていると四、五人ほどの同年代ほどの男女のグループが、近寄って来た。男子が二人、女子が三人だ。
「こんにちは。主催の挨拶が始まる前に自己紹介でもと思ってね。INOKO物流の萩原 壮一です。こっちは妹の美也」
「美也です。こんにちは。わ~、かわいい時計ですね。ムーンフェイズって私も好きなんです」
「あっ、ほんと、センスいいですね」「美也ったら。さっきまで緊張してたんですよ。貴方とは気が合うんですね」「ちょっと、止めてよ」
二人が自己紹介したと思ったら、後ろの女子達も体を寄せてきた。肩が露出している程度だが、ドレス姿の女性が近くにいるということだけで、ドキドキするもんだな。横では男性二人が日葵に話しかけている。
「料理はどうですか? カウンターに行けば、その場で新しく料理が注文できますよ」
「ハハハ、お前が食べたいんじゃないか? よければ案内しましょうか?」
一瞬で日葵との間に人が入る。一言も発してないのに一瞬で分断されそうだ。こういうのってこちらが名乗ってからじゃないのか?
まぁ、ここまで露骨だとやりやすいか。社交の場ってのはよくわからないけど、日葵のことなら日頃から想っている。美也と名乗った女子に目線を合わせる。
「ありがとうございます。正直、時計のことはわかっていなくて選んでもらったんです。なぁ、日葵」
はっきりと日葵を呼ぶ。すでに視線を遮るように男性が間に入っていたが、日葵は小柄な体を使ってスルリと傍に戻って来る。
「そうだよ。あっ、まだ自己紹介してなかったでっす。ほら、イックン」
上目遣いでこちらを見てくる。うわぁ、マジか。その仕草が意味することは、男女の連れ合いとして自己紹介しろということだ。
「……挨拶が遅れてすみません。日下部 樹です」
先に名乗って日葵に次を促す。は、恥ずかしい! なんだこれ! 明言こそしていないものの、まるで日葵は自分の物だとアピールしているようだ。
「初めまして、卜部 日葵です。主催の身内として呼ばれているだけなので、家のお話とかはできないんです。ごめんなさい」
もちろん彼等は日葵のことを知っているだろうけど、あくまでここは初対面の体だ。俺の言葉の後に日葵は、ニコニコの笑みを浮かべながら会釈をした。その自然な仕草は見る人を惹きつける。こうして見ると本当にお嬢様なんだな。俺達の挨拶に一瞬ポカーンとした彼等だったが、すぐに口を開いた。
「あぁ、いや、そんなつもりはないですよ。ただ、折角の立食パーティーなのでお話ができればと……」
「あっ、そうだイックン。教えてもらったんだよ。カウンターに行けば他にも料理を出してくれるんだって」
「そうか、じゃあ見に行くか。失礼します」
テーブルに置いたグラスを持って、二人で集団に背を向けた。
歩きながら、ため息をつく。
「ふぅ……自然に切り抜けられたな」
「へっ? なんのこと?」
「意識してなかったのかよ……」
本当に料理を食べるために移動したらしい。俺の彼女はどこまで本気かわからない。
そんな俺を見て日葵は袖を引きながら背伸びをして、耳元へ顔を寄せる。
「……次は言葉でもちゃんと『彼女』として紹介してね」
「なっ!?」
「ニヒヒッ、ほらイックン。クラッカーもあるよ」
本当に……どこまで本気かわからない。
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