天然母娘と恐怖するお節介
バーベキューの翌日の朝。香ばしい匂に腹の虫が鳴って目が覚めた。
「……起きるか」
部屋着のままに一階のリビングへ降りると、日葵が朝ごはんを作っていた。今日は隣に咲月ちゃんもいる。テーブルに並ぶ料理の数も、少し多い位だ。
「あっ、おはようイックン。もうそろそろで終わりでっす」
「おはようございます樹さん。特製の健康スムーズをどうぞ、昨晩は良く食べていましたけど胃もたれはありませんか?」
エプロンを付けた咲月ちゃんが、緑のスムージーを渡してくる。
このスムージー苦みが程よく、酸味が効いて旨いんだよな。前にレシピを聞いたが秘密と言われてしまった。一気飲みしてコップを返す。
「ご馳走様。快調だよ、野菜もそれなりに食べてるしな」
「それなら、今日は和食でっす」
味噌汁に焼き魚。きゅうりの漬物と白米。ご機嫌な朝ごはんが並んでいる。
日葵の味噌汁に慣れたら、インスタントなんて飲めなくなる。これ、マジです。この前、何の気無しにインスタントの味噌汁を飲んだけど違和感がすごかった。……胃袋を掴まれつつあることを実感したぜ。
「楽しみだ。葉香さんはまだなのか?」
キッチンにもリビングにも葉香さんの姿は無い。あの人は割と早起きの印象なんだけどな。
ちなみに晴彦さんはギリギリまで寝てるタイプである。
「お母さんなら、朝早くにで車でどこか行ったよ。朝ご飯は先に食べててっててて……舌噛んだ~」
「アハハ、何やってんだ」
「大丈夫? そろそろお父さんを起こしてくるね」
夏だが今日のメニューには熱めの緑茶が合う気がしたので、お湯を沸かしていると食事の準備がととのったらしい。急須にお茶を入れてテーブルに着く。まだ眠そうにしている晴彦さんも座っていた。
「いやぁ、娘の朝ごはんを食べる朝は最高だね……ふぁああ」
「あっ、いいな。イックン、私もお茶欲しい」
「私は野菜ジュースがあるので、じゃあいただきましょう」
咲月ちゃんの号令で四人で手を合わせる。脂ののった焼き魚にしっかりと出汁の土台を持った味噌汁。白米を口に入れる。くぅ、肉もパンも好きだけど、やっぱこっちのがしみじみと好きだなぁと感じる。箸が止まらない。
「イックンって本当に美味しそうに食べてくれるよね。私も嬉しいよ」
「お父さんも良く食べるよね」
「ワハハ、まだまだ若者には負けないぞ。どうだい樹君、どっちがおかわりできるか勝負するかい?」
「食事は楽しみたい主義なんでお断りします」
「なら仕方ないな。漬物が美味しいね~」
なんて話をしながら朝ごはんを食べていると、葉香さんが帰ってきたようだ。
「ただいま、お腹減ったわー。あら、美味しそう。日葵、お母さんにもご飯少な目でよそってくれる?」
「はーい」
全員集合であっという間に朝食は食べ終えてしまった。
「ごちそうさま。料理の上手な娘を二人も持って私は幸せね」
「おそまつ様でした。それよりお母さん、お出かけして何していたの?」
「早朝じゃないと、時間が作れない人達と会っていたのよ。この後も誘われたけど、家族との朝ごはんを優先して帰って来たわ。あっ、そうだこの後、知り合いの呉服屋が家に来るから準備していてね。と言っても、私や日葵に咲月もコス作りでこまめに採寸しているから、準備はできてるの。晴彦さんとイックンがメインね」
「……えっ、僕はスーツがあるよ」
「お仕事のスーツよりも、場面に合わせなきゃね」
パチンとウインクをする葉香さん。単なる服選びのはずだが晴彦さんがダラダラと汗を掻く。
……嫌な予感がするぞ。
「あの、今日の会食に備えてフォーマルな服を用意するだけですよね?」
「そうよ、オーダーメイドは間に合わないから、レディメイドだけどね。大丈夫、会は夕方だから……ギリギリ間に合うわ」
「……えと、これから始めて夕方にギリギリ?」
時計を見るがまだ朝の8時20分くらいだ。9時から始まったとして、何時間もかかる物じゃないだろう。
「そだよイックン。私がバッチシ選びまっす。でも、お時間がギリギリだよ」
「そうですね。お父さんも分もありますし手分けしましょう。樹さんは、好きな革靴の種類はありますか?」
隣を見ると晴彦さんが顔を真っ青にしている。なんか俺も冷や汗が出てきたぜ。
男性にとって理解できない分野の服をとっかえひっかえするのはめちゃくちゃストレスだ。
「あぁ……えーと、種類すらわからないんだけど」
「それならストレートチップがいいですね。カジュアルに外羽根式でしょうか? それとも最初なのでやっぱり内羽根がいいかも」
何がストレートなのかもわからない、革靴なんて合皮のなんちゃって革靴しか知らないぞ。
「咲月は足元から組み立てるの好きねー。スーツを決めてからでいいんじゃない? 靴はレンタルにして後でオーダーメイドで作った方がいいわよ」
「カタログ、カタログが欲しいでっす」
日葵がピョンピョンと手を挙げて跳ねている。なんでそんな気合十分なんだ?
とか言っていると、門に付けられている監視カメラが反応し、壁に着けられていたモニターに外の様子が表示された。……トラックが止まっている。
「お店の人がそろそろ来るから……来たようね。私達の服は確認すればいいから。やっと九州に来てくれた晴彦さんと、こういうのが初めてのイックンの服を選ぶわよっ」
「了解でっす」「わかりました」
湧き合いあいとする女性陣。そして横を見ると判定負けをしたボクサーの様に疲弊している晴彦さん。
「晴彦さん。もしかして、九州に来たくなかったのって……」
「あぁ、お義父さんのこともあるけど、これも嫌だったんだ……十や二十で済むと思わないことだよ」
こうして男二人は、女性陣によって時間ギリギリまで着せ替え人形の様に弄ばれたのだった……。
恐るべし、卜部家の女性陣。
更新遅れてすみません。
ブックマークと評価ありがとうございます。
感想も嬉しいです。
ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
https://ncode.syosetu.com/n9344ea/




