青の王子は圧倒される。
「ある程度片付けれたならば、口の堅い応援を数人都合できる。まずは書類の整理から……おいっ、話を聞けっ」
表情をコロコロと変えながら、部屋をチョコチョコと動く日葵に声を掛けるが、まるで聞く気配がない。無視されるという経験も玲次にとっては記憶に無い経験だった。
「うーん。よしっ、決めた。折角だしもっと使いやすくしよう。ねぇ青柳君、部屋の模様替えしましょうよ!」
ピョンと飛び跳ねてながら、近づいてきた日葵に玲次は眉をしかめる。
「君にはわからないだろうが、この部屋の調度品は一級のものばかりだ。棚の配置も考えられている。必要なのはリフォームでは無く原状復帰だ」
「え~、だってこの部屋とっても非効率的ですよ。散らかっている書類って最近のものばかりだよね。散らかした人がいて、その人は直近の書類に腹を立てて投げて、その勢いで棚の資料をばら撒いたと。それなら、えーと、ここからパソコンを投げて……こっちで作業してて……うん、この辺りの書類から順番にまとめられるね。でも何枚かは机に置かれていると」
下手くそなパントマイムを交えながら、部屋を荒らした人物の行動を辿る日葵。
そして、無造作に散らばった書類を取り上げた。
「何をしている?」
「はいどうぞ、これが部屋を荒らした人が取り組んでいた書類だよ。前年度の決算の確認? 処理の終わった書類を見直していたの? しかもわざわざ紙ベースで?」
差し出された書類をひったくる玲次。
「なるほど、錬の言っていたこともまんざらデマと言うわけでもないようだ。確かに優秀な人材かもしれないな。だが、この場で知ったことを口外するなら――」
「やっぱり、机は絶対こっちだね」
「話を聞けっ!」
「それにしても、青柳君も頑張ったね」
「……何が言いたい」
「だって、机の上に少しだけ書類が揃っているもん。一人で集めようとしたんでしょ? 大丈夫、一緒にやればすぐ終わるよ。うーん、やっぱ、棚がもう一つ欲しいかも」
言い終わる前に、日葵は指で窓を作って覗いている。
まるで人の言うことを聞かない女だ。放って置くと、部屋がどうなるかわからない。
結局、その日は部屋の片づけは驚くほどスムーズに進んだ。
玲次が日葵に抱いた印象は得体の知れない女子。しかし、予想よりずっと優秀だった。
そしてもう一つ驚いたことが……。
「じゃあ、帰るね。ばいばーい」
帰りに誘われないどころか、さっさと帰ってしまったことだ。
これまで学生会に来て手伝いをした女子は、何かしらの見返りを期待していたのだが、彼女はそんなこと考えにも浮かばないといった様子だった。今回は状況が状況だったので、どのような要求が来るのかと思っていたのだが……。
それは、普通の男子であればよくあることかもしれないが、少なくとも玲次と恐らくは錬にとっても珍しいことだったのだ。
「卜部 日葵……か、変な奴だ」
※※※※※
……机に突っ伏して寝ていると、頬っぺたを突かれる。
「ん? 日葵か?」
しゃがんだ状態で、指先を伸ばす日葵がそこにいた。……眠っていたのか。
「おはようイックン。先に帰ればよかったのに、ハッ? まさか、また夜更かしですか、ダメだよ。ちゃんと寝ないと、お肌に悪いよ」
「いや、違うよ。まぁ……なんて言うか、帰るか」
日葵を待っていたなんて言えなくて、横を見る。
なんだか、告白して付き合うようになってから、どんどんかっこつけたくなっている。
日葵には恥ずかしい場面を色々見られているってのになぁ。
「そだね。じゃあ、一緒に商店街行こうよ。今日ね、とっても疲れたんだ。あっ、でも学生会のことは秘密って言われたから喋れないよ。うん、でも疲れたから、甘いものでも食べようよ」
「いいぞ。……あんま無理すんなよ」
本当は青柳とか赤井とかのことが聞きたかった。でも聞けなくて、そんな自分が嫌になる。
「えへへ、そだね。困ったら助けてね」
「わかったよ卜部さん」
無性に恥ずかしくなって、昔の呼び方で誤魔化す。
「あー、懐かしいっ! 頼んだよ樹君」
そう言って笑う君は、多分俺の悩み何て絶対わからないだろうな。
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