熱を持つ夏
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もし、卜部に好きな男がいて。そいつが嫌な奴だったらいい。
めちゃくちゃに嫌な奴で、俺が横にいた方がいいって心の底から思えたら、きっと俺はどんな手段を使ってでもアイツを手に入れてみせる。
……でも、俺が好きになったアイツはどこまでも真っすぐでヒマワリのように光を見ている。
そんな卜部が幸せに交際しているなら、俺はどうするだろう?
俺はモテる。そりゃあもうめっちゃモテる。女性に恐怖を抱くほどに。
ぶっちゃけ、卜部だって俺になびくかもとか思っていた。でも、好き合っている二人の間に入って卜部を傷つけたくなかった。もし、お前等が半端な付き合いで俺が入る余地があるなら……その時はもしかしたら俺はこの気持ちに蓋をしたんじゃないかなぁ。
だからさ、すげぇキツいけどさ。歯を食いしばるほどに辛いけどさ。
お前で良かったよ。お前と卜部なら遠慮なんかせずにぶつかれるから。
初恋は苦い味なんかじゃない。最高にスカッとする花火のような、そんな思い出にするから。
二人を傷つけるかもしれないけどさ、多分お前等なら受け止めてくれそうだから。
全部終わったら、一緒にモックに行ってくれよな。
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「「じゃんけーん」」
ポンっ。でチーム分け。泳ぐ前に簡単な運動をした方が良いと森重さんに言われたのでビーチボールでもして遊ぶことにしたのだ。
チーム分けは俺と咲月ちゃん、錬と日葵となった。
「むむ~。敵だねイックン、負けないよ。いきまっす赤井君」
「イエスっ。我が右手イエス!」
あの野郎。露骨に喜びやがって……まかり間違って日葵に触れてみろ。浜辺に埋めて周囲の女性を呼んでやる。ジッと己の手をみて殺意の波動をたぎらせていたが、横にいる咲月ちゃんは安堵した表情。
「……ちょっと安心です」
「あぁ、咲月ちゃんは人見知りするもんな」
俺も仲良くなるまで結構かかったりしたのだ。じゃんけんをする前に配慮すれば良かったな。
「男性はあまり得意じゃないんです。もちろん、樹さんは別ですよ」
「懐かしいな……『お姉ちゃんに近づかないでください』だっけ?」
「あ、あのことは忘れてください」
地味に晴彦さん以上に日葵のことで脅されたりしている。去年は大変だったなぁ。
なんて過去のことを思い出しつつ、咲月ちゃんをからかってみる。
顔を赤くして手をバタバタと振って誤魔化す仕草も可愛らしいもんだ。
「ムム、イックン。サッキーに悪戯していいのはお姉ちゃんだけだよ。よいしょ!」
空気を入れたボールが日葵から投げられるがあさっての方向だ。相変わらず球技はダメダメだな。
「任せとけっ!」
とっさに赤井がカバーに入り咲月ちゃんの方向に修正する。流石学園の運動部代表。
ルールも何も無く、ただボールを弾き合うだけだったが結構楽しい。
咲月ちゃんは日葵よりも運動神経は良いようで、結構動けている。
……問題は。周囲にジワジワと人が集まってきたことだ。
年齢以上に大人びて、スレンダーなスタイルの咲月ちゃん。
背は小さいものの、元気いっぱいにそのダイナマイトな体を弾ませる日葵。
この対照的な美少女姉妹に追加して、高身長かつしなやかで鍛えた体の錬。
そして、特に形容することもない俺。
運動に集中している(錬は日葵しか見ていないが……)他三人は気づいていないが、浜辺の注目をさらっていた。日葵と咲月ちゃん目当ての男は錬に気後れしてしまい、錬を狙っている女性は天然姉妹に圧倒されている。むしろ眼福と静観を決め込む奴らもいるわけで……。
いい加減に準備運動も終わったわけで、そろそろ泳ぎに出てもいいかもしれない。
「ボールも楽しんだし、そろそろ海に入らないか?」
「さんせーい。浮き輪に乗るよ。サッキーと二人でも余裕で乗れるよ。ホライックンも一緒に行こうよ」
「家にあるプールとはやっぱ違うよな。向こうのブイまで泳いでやるぜ」
「わわ、お姉ちゃん。急いだら危ないよ」
ボールを片付けて海に向かおうとすると、周囲の一団から四人ほど男性が近寄って来た。
「行ったぞ」「何て奴らだ」「グッ、タイミングを逃したか」「敬礼っ」
周囲でざわつき始める。赤井が男達を睨みつけ、もちろん俺だって日葵の前に出る。
「ちょっと――」
男達が何かを言う前に、日葵が腕に抱き着いてくる。柔らかな感触に電気が走ったように緊張するが構わず日葵は大きな声で宣言した。
「ゴメンね。今から彼氏と遊ぶのでっす!」
「ブッ!!」
「んなっ!」
「お姉ちゃん?」
初めて日葵に彼氏として誰かに紹介された!?
「エヘヘ、イックン。変な顔でっす」
腕に抱き着いたまま、逆の手で浮き輪を持って日葵が海に誘う。
後ろ姿から覗く耳は赤く染まっていて、日葵も恥ずかしかったことがわかって……。
そのことに気づくともうダメだった。
「このまま海に飛び込むぞ!」
「ヨーソローだよっ!」
二人して、色んな気持ちを海にぶつけて笑いあう事しかできない。
盛大に頭からつっこんで、誰にも見えないようにこっそりと指先を絡めた。
この夏は、あまりに熱い。
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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