天然カップルと神社
細い顎に整った顔立ち、金髪も似合っている。外国の血が入っていると言われても納得するだろう。
だが、どこまでも軽薄な印象を受けるその男。
男の言葉が理解できず、日葵共々フリーズしてしまう。
「そんな顔をされるのは心外だな。一緒にデートを誘っただけだろ?」
あろうことか金髪は日葵の肩に手を伸ばす。止まっていた体が考えるよりも先に動く、手を払い日葵と男の間に立つ。ちなみにまだ自分の分の焼きもちを持っている。
……なんならまだ食べている途中なので、モグモグと咀嚼中だ。日葵も小さな口を細かく動かしてながら俺の後ろに隠れた。
「モグモグ」→日葵。
「モグモグ」→俺。
「……困るなぁ。あー、えっと、そういうことか」
笑みを崩さず、金髪はどこに控えていたのか後ろの付き人から財布を手に取って開く、ぎっしりとつまった札から無造作に束を取りして差し出してきた。
「いくら?」
絶句。鳥肌が立つ。一体どのような環境にいたらそんな言葉が出るのか。
ゴックン。焼きもちを飲み込む。金で日葵の横を譲れとか……怒る所なのかもしれないが、思考が理解できなさ過ぎて、嫌悪感しかない。横をみれば日葵も焼きもちを食べきったようだ。
「一杯100円だ」
「なっ、ちょ!?」
お札の上に冷やしアメのコップを置いて、日葵の手を取る。とっさに置かれた冷やしアメをこぼさないように怯んだ金髪を置いて日葵の手を引いて店を出る。
「な、なにあの人。怖いんだよっ!」
基本的に警戒心が明後日の方に作用している日葵でさえも引くほどらしい。
「とりあえず、逃げるぞ。相手にしちゃいけないタイプだぜ。日葵は土地勘あるんだよな。任せたっ!」
「うん。任されたっ。こっちでっす!」
バス停前を通り過ぎて、海沿いの道から山の方へ抜ける大通り。
後ろを振り返ると、金髪たちがゆっくりと歩いて車に乗り込んでいた。
「太い道はダメだ、車で移動してるぞっ!」
「大丈夫。商店街に車は入れないから」
入り口にどこぞの熊のクリーチャーの像がある商店街を途中で抜けると、すぐに参道に出た。
「この先の小さな神社なら、大丈夫だよ。おっきなクワガタが取れる場所なんだ」
「狭い道だけど、確かに地元民向けだな」
金髪の姿は見えない、多分商店街をまっすぐに行ったのだろう。
「有名な神社は海沿いの道の先にあるから、ここは地元の人しか知らないんだ。お爺ちゃんに教えてもらったの」
息を整えて、参道を登る。石段は綺麗に掃除されており、それほど歩きにくくは感じない。
10分ほど登り、鳥居をくぐった。木陰にベンチがあるので、そこに座って一息だ。
「まったく、なんだったんださっきの奴は? 見るからに金持ちって感じだけど」
「もしかしたら、お爺ちゃんの関係なのかな? とっても気持ち悪い人だったよ」
首を傾げる日葵。まぁ、そうだろうな。催しまで一週間はあるはずだが、すでに日本全国津々浦々の御曹司達が来ているとか?
まさか……そんな漫画見たいなことあるわけが……。
横を見ていると、海からの風を受けて気持ちよさそうに目を細める日葵。
なんでコイツこんな危機感ないんだ?
「日葵、多分だけどさっきみたいな奴らが、もっと来るかもしれないんだ。気を付けてくれ」
「そうなの……怖いもの見たさっ! 七難八苦だよっ!」
「バカっ。冗談言ってる場合じゃないぞ」
「でも、ちょっと楽しかったね。エヘヘ、走っている時、ずっとイックンが手を握ってくれるからドキドキしたでっす」
「あっ……悪い」
とっさに手を掴んでしまった。手に残る感触は小さくびっくりするほど柔らかった。
ずいっと日葵が顔を寄せる。澄んだ目に俺が映っていた。
「謝らないで」
真剣な声音。鼓動の音とセミの鳴き声。
日焼け止めと日葵の匂い。
「……日葵?」
「イックンが手を握ってくれたから、私は怖くないんだよ。嬉しいが溢れて全部が楽しいの」
そして俺の彼女はニカッと笑う。
「好きだよイックン。不安になるなら、何度だって言うからね」
鼻の奥がツンと痺れる。
「……わかってる。俺も……好きだから」
「うん。エヘヘ」
日葵が肩に頭を乗せてくる。
鼓動の音と、セミの鳴き声。
木陰に吹く、海からの風。
頬の熱と、触れ合う肌の暑さ。
少しでもこの時間が続いて欲しい。
「後で、お参りするか」
「うん、でも……もうちょっと、このままがいいでっす」
お願い事なんて、決まっている。願わくば、二人共同じ願いだったらいいのにな。
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
https://ncode.syosetu.com/n9344ea/




