天然カップルと焼きもち
日葵の案内にて待つこと数分。海岸沿いのバス停で待つこと数分、バスに乗って、近くの町へいくことにした。歩いても30分ほどで行ける距離らしいが、暑いのでパス。
「さっきも見たけど、海が綺麗だな。海水浴場とかあるのか?」
「あるよっ。明日サッキーと行こうよ。折角水着を買ったからね」
冷房の効いた社内で景色を見ながら日葵と話をする。
地元のバスよりも座席が多いのは、バス会社の違いなのか地方の特徴なのか、わりとのんびりと座れる印象だ。
「いいな。俺も久しぶりに泳ぎたい。おっきな浮き輪持ってきたんだ。……ん?」
「どしたのイックン?」
バスの後ろにいる車に注意が向く。見るからに高級車が二台も並んで、バスの後ろにいるのだ。
道は三車線で、バス何て抜かすことも容易だろうに。まぁ、景色をのんびり見たいのは誰でも同じだろう。
「いや……なんでもない」
「変なイックンだなー。もうちょっとで町までつくよ。一緒に見たいところがあるんだよね」
海と山の間のような町につくと、日葵が俺の手を取った。
恥ずかしい……諫めようとするも、ニッコニコで上機嫌な日葵を見ると何も言う気が無くなるな。
旅の恥はかき捨てともいう。普段は照れくさくて、恋人らしいこととかあんまりできてないし、俺も頑張るべきか?
「こっちだよ。あのお店でっす」
日葵が指さしたのは、いくつもの暖簾が立っているお茶屋だった。橙の壁が印象的だ。
特産品も色々と売っているて店内の隅で飲食ができるらしく、日葵がすぐに焼き色がついた饅頭を持ってきた。
「焼きもち! とっても美味しいんだよ!」
「見たことないな。食べてもいいか?」
「どうぞどうぞ。ささ、熱いうちにどうぞだよ」
「美味しそうだけど……夏向けじゃないな」
とはいっても、今は午後3時前。小腹も好いてくる時間である。
香ばしい匂いも相まって、かなり美味しそうだ。
「チッチッチ、わかってないなぁイックン。ほい、これも一緒にどうぞ」
水玉のガラスコップに入った飲み物を差し出される。甘く、ショウガの香りがする。
「なんだこれ?」
「冷やしアメだよ。これがあるから、夏におすすめなんだよね」
えっへんと胸を張るちみっ子。自分の好きな物を教える時、日葵は本当に楽しそうに振る舞う。
「随分、通ぶるじゃないか。でも、俺は厳しいぞ」
日葵は俺が食べるまで自分は食べない感じだし、軽口を叩きながら持ちに齧りつく。
「えっ。うまっ」
香ばしい焼きもちと、ゴロゴロと小豆の入った荒い餡がとてもうまい。
餅の皮はかなり厚く。表面はパリっ、そのまま柔らかい食感のコントラストが絶妙だ。
「エヘヘ、でしょー。ハムッ」
「これは、確かに自慢したくなるな」
そして、冷やしアメがまたマッチしている。アメと聞くと甘ったるい印象だが、この冷やしアメ甘くない。いや甘いっちゃ甘いが、甘さは控えめでショウガがかなり効いており、口の中をさっぱりと流してくれる。
この清涼感は確かに夏向きと言えるだろう。
「イックンと来たかったんだよね。……はい、あーん」
「……いや、まだ自分の分を手に持っているけど」
「こ、恋人のやつだよ。イックンはおこちゃまだな~」
わざわざ食べさせてもらう必要はないのに、あーんをしてくる日葵。
ま、まぁ、夏だし、先程旅の恥は掻き捨てと考えたばかりだ。
日葵も珍しくちょっと恥ずかしそうだし、ここは覚悟を決めて食べるか。
「あーん……」
と口を開けて近づいた瞬間。不意に影が落ちる。
「すまない。ちょっといいかな」
振り返ると、髪を金髪に染めた高身長の男が白い歯を光らせていた。
「パクッ……ムグムグ。やっぱ旨いな」
「だよね。あっ、他にも美味しいものあるよ。モグモグ」
「……君たちに声をかけているんだけど、無視はないんじゃないかな?」
「いや、途中だったんで。なんの用ですか?」
ちなみに、日葵は一度食べ始めると、しばらく集中する質だぞ?
「いやね。ちょっと、エスコート役を変わって欲しいんだ。その子がとってもキュートだからね」
……何言ってんだコイツ?
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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