天然姉妹と電気街へお出かけ
「……終わった」
口から魂が出そうだ。というか半分出ているだろう。夏休みが始まって7日目の午前、俺はようやく夏休みの課題を終わらせたのだ。一応、加点目的の自由課題も残っているが、必須の課題はこれで終了だ。
机に倒れこむ俺の横でメガホンとペナント持った日葵が飛び跳ねる。
「おめでとー! 頑張ったねイックン」
「凄いです、樹さん。あっ、お祝いにクッキーを焼きました」
「食べさせてあげるよ。あーん」
日葵が差し出してくるクッキーを食べる。甘さ控えめなのが嬉しい。美味しいぜ。
課題に関しては卜部姉妹は俺より早く課題を終わらせていたので、途中からなぜか応援団になっていた。
なんなら日葵は阪神タ〇ガースの帽子とハッピを着てフェイスペイントまでしている。特にファンというわけでもないのは知っているので、多分葉香さんが作ったコスプレかなんかだろう。ツッコム気力もない。
「予定より半日早いよっ。快挙だよイックン!」
「樹さん頑張りましたね。冷やしたカルピスもありますよ」
「そりゃ、常に応援されるからな。頑張るしかないじゃん」
日葵はともかく、咲月ちゃんも律儀にずっと応援しているので、サボろうにもサボれないし、ほぼマンツーマンで日葵が勉強を教えてくれるので理解も進む。なんかこのままテスト受けたらいつもより好成績が出そうだ。ちなみに、勉強終わりには葉香さんによる金持ち相手の立ち回り講座を受けていたので、ちょっとした受験生見たいな気分だった。辛い一週間だったなぁ。
「よっし。これで、色々できるね。どうする、遊ぶ、遊んじゃう?」
「きゅ、休憩を……」
頭がパンクしそうだ。
「話は聞かせてもらったわ!」
バァンとドアが開かれる。開けたのは葉香さんだった。日葵もドアを激しく開けることが多いが、親子そろってドアに恨みでもあるのか。
「どしたのお母さん?」
「実は、九州旅行用に大事な物を注文していたのよ。それができたみたいなの、三人でおでかけにいってらっしゃい」
「大事な物? ハッ、まさかお母さん!?」
「そうよ日葵、例のアレよっ」
「あっ、できたんだ。助かりました。前のはもう使えなかったので……」
日葵と咲月ちゃんは心あたりがあるらしい。なんのこっちゃ?
「やったー。丁度イックンもいるし、こうしちゃいられないよ。兵は神速を尊ぶだよっ!」
「お前はいつから兵になったんだ」
日葵が腕を抱えて引っ張って来るが、非力なので、全然動かないぞ。というか抱え込まれると、その柔らかい一部分が当たっているのだが。
「でも樹さんに来てもらった方が助かります。意見も聞きたいですし」
え? マジで買い物の流れ? 別に構わないが、ちょっと休憩を……。
「いくよイックン。ほらほら、急ぐのでっす」
「ちょ、ちょっと休みを……」
「そうね。なら、休憩時間は私と『授業』の続きをしようかしら」
葉香さんはほほ笑んでいるはずなのに、目が笑っていない。これ以上頭に情報を詰め込むと破裂するぞ。
「わかりました。行きますよ。それで、どこに行けばいいんですか?」
「少し遠いのよ。電車を使うわね」
「電気街でっす」
「えっ?」
というわけで、電車で一時間とちょっと歩いた先に目的地の店はあった。
人が溢れる電気街のメインストリートから少し離れた場所は、ケバブだのカードショップだの色々あるが、大人しか入れないいかがわしいお店も結構あるわけで……見かけお子様の日葵に中学生の咲月ちゃんを連れて歩くのはちょっと抵抗があるんだが……。
とか思っていたら、スマフォでマップを見ていた日葵が歩みを止めた。
「着いたよ。久しぶりに来たからちょっと迷っちゃった。どう、面白そうでしょイックン」
「私も一年ぶりですね」
『コスプレ衣装専門店 メ☆サ☆イ☆ア』
それが目的地であり、出入口のにはアニメ衣装のディスプレイがこれでもかと並んでいた。
「……ちなみに何の目的でここに?」
「水着を注文してたのでっす」
「絶対ここじゃないだろっ!」
胸を張る日葵に今日一番のツッコミを入れたのだった。
ブックマークと評価ありがとうございます。
感想も嬉しいです。




