王子達は天然少女を想う
樹と日葵がゲーセンでデートをしている最中。錬と玲次は、駅前に近いホテルのフロアで慰労会に参加していた。
『これから、デートなのでっす!』
そう言って出て行く日葵を追って出た二人を迎えたのは、学生会を手伝っている女生徒達に、彼等が誘った特進組の女子達だった。
「きゃあ、赤井君。学生会の片付け終わったんだね」
「青柳様っ。前期のお仕事お疲れ様でした。補助会一同、お手伝いができて光栄でした」
「うっ、お、おう。終わったぜ」
「……待たせてすまない。行こうか」
「おい、玲次!?」
「予定通りに行くしかないだろう?」
高身長の錬だが、女生徒に圧倒されて数歩後退してしまい、日葵を見失ってしまう。
玲次も同様だった。こうなってしまえば、日葵を追いかけるのは難しい。彼等には守るべき立場がある。少なくとも二人はそう思っていた。
錬は愛想笑いを浮かべ、玲次は無表情に女生徒達を相手する。自分達が呼んだ企業の令嬢や権力者の親類とも正門前で合流し、送迎車に乗り込んだ。ホテルについた二人を迎えたのは、終業式で長話をしていた校長だった。
「いやぁ。すまんね。二人共、家内ともども誘ってもらって嬉しいよ」
その言葉に二人はどう返答したのか、彼等自身がよく覚えていない。
料理人達の料理を食べながら、和やかに女子達と話し、夏休みの予定や将来の展望を語らう。
予定通りの進行、予想通りの展開、しかし、望んだ人がいない。
舞台裏の一室、本来なら主賓の着替えの部屋となる場所である。するりとフロアを抜け出した錬はソファーに倒れこみ、大きくため息をついた。
「……彼氏、いんのかなぁ」
思い浮かぶのは、部長会でまっすぐに誤解に向き直った日葵の姿。
自分を連れまわして、部活を回った後ろ姿。
それまでの温かなフワフワした気持ちが『デート』と言う単語の冷たさでギュッと縮み形になった。失うことを考えたら、自覚してしまった。
「ちぇ、俺ってホント。女運がないぜ」
呟く言葉が空気に溶けていく、その呟きを聞いたドアの後ろに人影があった。玲次もまた、思考を整理しようと訪れていたのである。
静かにその場を離れた玲次は、スケジュール表を開く。そこには隙間なく用事が書かれている。
「……やることが多いな」
日葵が入れば、もっと早く終わるのだろうか?
無意識に腹に手を当てていた。素麺の味何てすぐに忘れると思っていたが……。
通路からフロアを見る。自分たちを探す女子達の姿が見えた。例えば彼女なら、この窮屈な世界を壊してくれるのだろうか?
踵を返し、休憩室のドアを開ける。
「あぁ? なんだ、玲次か」
「どうするつもりだ?」
問いかけの意味は『お前は卜部 日葵のことをどうするつもりだ』だと錬は確信する。
起き上がり、頭を乱暴に掻く。
「はぁ? 決まってんだろ。アイツは俺の物にする」
「そんな様でか、やめておけ。卜部 日葵は僕の手駒にする」
玲次の言葉聞いて錬は自嘲気味に微笑を浮かべた。
「この期に及んで、そんなことしか言えないから。お前は……俺達はダメなんだよ。俺は決めたぜ、あいつが誰と付き合っていようと関係ねぇ。お前もさっさと認めちまえよ」
「何をだ?」
「いちいち俺を焚きつけなきゃ自分も動けないのかよ。情けないぜ玲次。俺達は、あのちみっこにやられたんだよ。惚れちまったんだ」
手を組んで伸びをする錬は首を揺らして音を鳴らす。
玲次は苦々し気、眉間に皺を寄せた。
「僕には……そういうことはわからない。所詮、人は地位と金でしか動かない」
「お前の思想何て知るかよ。仲良しこよしってわけじゃないだろ。俺はやるぜ、卜部を振り向かせてやる。つーか、あの卜部が付き合っている男がいるとして、俺の敵になんて、なるわけがないからな」
「僕達の敵だ。だからお前に今後のことを聞いたんだ。僕の敵になるとしたらお前だからな。そこいらの男なんぞ相手じゃない。夏休み中には決着をつける」
「へっ、いいじゃねぇか。うっし、じゃあ戻るか。俺たちが戻らないと暴動がおきるぞ」
「まったく。どうしてこんなことになったのやら」
二人して並び通路からフロアに向かう。その途中錬はふと呟く。
「それにしても、あのちみっこと付き合うなんて、どんな男子なんだろうな」
「龍造寺とのコネクション、もしくは、卜部の能力に目を付けたのだろう。それならば、僕の方がその男より価値があることを示せばいいだけだ」
「あの卜部に対して、そんな上手くいくわけないって知ってるくせによ。調べてみっか……まっ、絶対俺の物にしてやるけどよ」
二人がフロアに戻ると、歓声があがり女生徒が集まってくる。その様子を見ながら二人の王子は、日葵をどのように振り向かせるのかを画策するのだった。
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