天然少女とゲーセン
「左手は添えるだけっ!」
「添えてないじゃん」
ゲーセンのバスケゲーム。制限時間以内に、転がってくるボールをどれだけ入れられるかのゲームだ。この手のゲームって興味無いけど、やってみると案外面白いんだよな。
そんで、我が彼女は例によって砲丸投げスタイルである。学校のバスケゴールよりもずっと近い距離であるにもかかわらず、全然入っていない。
ちなみに二人共制服でなく私服だ。帰り道にそのまま寄り道をするつもりだったのが。
『ダメだよ、イックン。ちゃんと着替えてからだよ』
と日葵が言うので、面倒だが着替えてきた。といっても俺はTシャツにジーパン、スニーカーと男子高校生あるあるの恰好。対して日葵は、白のレースシャツにデニムのスカートとなんかおしゃれ。
夏らしい服装なのだが、デンと盛り上がっている胸元の主張が激しい。
それが、ボールを投げるたびにゆっさゆっさである。さっき通りかかった中学生が凄い目で見てたぞ。
日葵曰く、低い身長に合わせると胸のせいでパツパツに、大きな胸に合わせるとダボダボの服になるとのこと。なので、元レイヤーの葉香さんと買った服を直すこともよくあるらしい。
努力のかいあって、俺の彼女は今日も可愛い。だけど、無防備なのも心配になる今日この頃です。そんな俺の気持ちなんてまったく意に介さず、日葵はゴールを外しまくっている。仕方ないので、後ろに立って投げ方をレクチャーしてみるか。
「この前、バスケ部の奴に教えてもらったんだけどさ。手の上にボールを置いて、後は膝を曲げてジャンプする要領で押し出すんだよ」
一球もらって、投げると綺麗に入った。……まぁ、赤井に教えてもらったんだけどな。
あいつ、教えるのも上手いんだよ。
「ほほー、なるほどっ。おりゃ!」
構えを真似することで少しはマシになったが、やっぱりゴールには入らない。
それでも本人は満足気だ。
「ふー、いい汗かいたね。次は何する?」
「そうだな。あれなんかどうだ?」
休憩の意味も込めて、レースゲームを提案する。本格的なものではなく、簡単な操作で遊べるものだ。
「フフフ、レースクイーンヒヨちゃんの出番だね。この前やった時、勝ったし」
「たまたまコースを外れたら、ショートカットになっただけだからな」
「甘いねイックン。実は、家庭版をサッキーと練習したから、負けないでっす!」
「へぇ。そりゃ楽しめそうだ」
結果、一発逆転のアイテムを連続して使用され、僅差で俺の負け。
「……卑怯だろ。なんで連続してヒトデのアイテム拾えるんだよ」
「最初はゆっくり走って、良いアイテムを拾う作戦なのだよ。あれ~イックン、さっき余裕だったのに。アハハ、悔しそう。いや~ヒヨちゃん、手加減したほうが良かったかな~」
「……いいだろう。別のゲームで勝負だっ!」
半目に指さしで煽ってくる日葵に乗せられて、バトルゲームを連続して行う。
シューティングゲームに格闘ゲーム、太鼓を叩く音ゲーと遊び、戦績はイーブン。
「次で区切りにしようか」
「そうだね。あっ、あれがやりたい」
日葵が指さしたのはエアホッケーだ。四人対戦の大きなものだが、一応マレット(手に持つ器具)を両手に装備することで二人で遊ぶこともできる。
「オッケー。でも、広いぞ。子供用の小さい方でするか?」
「私は大人なので子供用では遊ばないのでっす。ほら、イックンあっち回ってっ」
「はいはい」
というわけで、100円入れてスタート。出てきたホッケーを側面の壁に当てるように打つことで、角度をつけて相手ゴールを狙う。
「わわっ、エイッ」
スカッ。日葵のマレットは盛大に外して空ぶり。そのままゴール。
……これ勝負にならない気がするぞ。タイミングも場所も全然あっていない。しかし、日葵は気にすることもなく、新しく排出されたホッケーを目の前に置く。
「次はこっちの番でっす。そりゃ」
カンッ、と小気味のよい音がして真っすぐに来るホッケーをマレットで受け止める。
そのまま、軽く打ち返し。またもや得点。どうやら、日葵はこのゲームが絶望的に苦手らしい。
まぁ、本人が楽しそうだからいいか。
一方的な展開になりつつあるが、楽しくホッケーをしていると、日葵のエリアの真ん中辺りでホッケーが止まってしまった。
「やった。チャンスだよっ」
そう言って、日葵が台の横に回り込むがホッケーに届かない。
「グヌヌ……」
「取ろうか?」
「ダメだよ。ゲームの途中だからね、おりゃ、うーん。あとちょっと……」
懸命に手を伸ばしてホッケーを引き寄せようとする。
……するとどうなるか、はいそうです。豊満なそれが台に押し付けられるわけである。
ムニュムニュと形を変えており、目に毒なわけだが、本人はホッケーに手を伸ばすのに夢中で気づいていない。周囲の男子が色めきだつのを感じた。
「ひ、日葵。俺の負けでいいから、終わりにしよう」
「えっ。まだ、ポイント残ってるよ?」
「いいから、休憩しに行こうぜ」
ゲーム中断のボタンを押して、日葵の手を取る。これ以上、周囲の視線に日葵を晒すわけにはいかん。
二階にある自販機コーナーで一息。一階はゲーム機が多いが、二階はプリクラやメダルゲームが中心となっている。心なしかカップルも多そうだ。自販機でオレンジジュースとサイダーを買う。
「ほい、オレンジジュース」
「わーい。ありがと、はいお金っ」
「おごりでいいよ」
ベンチに二人で座って、ジュースを呷る。自覚は無かったが、結構遊んだこともあり喉が渇いていたみたいだ。サイダーが染みる。
「プハー。遊んだねー」
「だな。こんなに遊んだの久しぶりかもしれん」
「最近忙しかったからね。時間が取れなくてごめんねイックン」
「いいよ。日葵ががんばってたの知ってるし、今日から夏休みだ。一緒にいられるだろうさ」
「エヘヘ。そうだね。九州旅行もあるし、やることは一杯だよ。あっ、夏祭りも楽しみだねっ」
「いいな。一緒にまわろうぜ」
「あったり前だよっ。よっし、元気が回復してきたよ。じゃあ明日からは宿題だねっ」
「はぁ?」
腕を突き上げる日葵。揺れるポニテには決意がみなぎっているようだ。
「……せっかくだし。ゆっくりしようぜ」
「ダメだよっ。夏休みを楽しむために、宿題は最初の一週間で終わらせるのがヒヨちゃん流でっす」
「俺はパス。せめて最初はのんびりとだな……」
「ムー」
頬を膨らませ、日葵がズイッと顔を寄せてくる。ほのかに柑橘系の香り、近くで見てもその肌にはシミ一つ無い。
「お付き合いして最初の夏休みなんだよ? 私はちょっとでも長くイックンと遊びたいな。イックンは?」
「……そりゃあ、俺も日葵と遊びたいけど」
そう言われたら弱い。というか、そう言ってもらえることが嬉しくて、顔が熱い。
「なら、明日から宿題でっす。サッキーも一緒にしたいって言ってたから私の家で勉強会だよ」
「はぁ……わかったよ」
勝てるはずも無い。こうして、俺の夏休み最初の一週間の予定が決まったのだった。
ところで。
「せっかくだし、プリクラでもしていくか?」
「……イックンのスケベ。ちょっとだけだよ」
「だから、何でそんな反応なんだよっ!」
エアホッケーの方が断然恥ずかしい事になっていたはずだろっ!?
なぜかプリクラを恥ずかしがる日葵と撮ったプリクラは、二人して緊張してしまい。変な顔になっていた。
ブックマークと評価ありがとうございます。
感想も嬉しいです。




