おせっかいの帰り道
「どうぞ召し上がれ、イックン。あっ、ソースは酸っぱいからちょっとずつだよ」
「デザートもありますから、食べ過ぎないでくださいね」
卜部姉妹、お手製ハンバーグが目の前に出される。どういう手順なのか知らないが、焼いた後にホイルに包んで蒸しているらしい。ホイルを開けると、ふんわりとしたハンバーグに蒸された野菜が顔を出す。
刻まれた野菜が入った小鉢は、付け合わせではなくソースらしい。
酸っぱいとのことなので、スプーンでちょっとだけすくってハンバーグに掛けると、熱と一緒にスパイスの効いた香りが引き立つ。我慢できずに、ナイフと箸で切って口に入れた。
「えっ、旨っ。……旨っ!!」
それしか言えない。ハンバーグ好きの俺が、ちょっと食べたことのないレベルである、個人的ハンバーグランキングで上位だったびっくりド〇キーを余裕で越えている。ちなみに他上位は日葵のお弁当のハンバーグです。見た目しっかりとしたハンバーグなのに、ふわっふわというか軽い食感で、後から肉汁がやってくるのだ。濃厚な肉汁を酸味の強い野菜ソースがしっかりと支えている。
「あら~、美味しいわね。ウフフ、二人共腕を上げたわね」
「娘二人の料理、父親として嬉しい。娘の彼氏がいることは複雑だけどね。まぁ今日は目をつぶるよ。ビールが進む」
俺達のリアクションを見て、日葵と咲月ちゃんは顔を見合わせてほほ笑む。
「ふっふーん、今日は包み焼きにしたんだよね。イックンは煮込みよりもこっちの方が好きっぽいもんね」
「スープもありますよ。お腹の調子を整えてくれます。あっ、ピクルスを出すのを忘れていました。他には……スムージーも作りましょうか?」
「私のおやつもあるよ。プリンだよっ」
「ストップだ。とりあえず、今はハンバーグと対話させてくれ」
放っておくと、無限に付け合わせとかデザートが出てきそうなので一旦姉妹を止める。
いやぁマジ旨いわ。自分の語彙力の無さがもどかしい、米も旨いぜ。
「イックンは美味しい物を食べるとき、集中するからわかりやすいよねっ。ずっと見てられるよ」
「嬉しいです。お土産にこの前焼いたクッキーを包んできますね」
食事の後は風呂にも入って行けとか、一緒にゲームしようととか日葵に言われたり、無言でモノポリーを取り出した咲月ちゃんとか、無言でパイ投げ用のクリームを用意する晴彦さんとか、いろんな意味で引き留められたが明日も学校があるので、遅くなる前に卜部邸を後にする。
帰り道、すっかり暗くなった坂道を下っていく途中に携帯が鳴った。
「陸斗か、もしもし」
『よっ、イツキ。今大丈夫か?』
級友の陸斗からの電話だった。メッセージを打つのが面倒になると電話してくる奴なので特に違和感はない。
「外にいるけど、周りに人はいないから大丈夫」
『そうか、今さ部活終わりにバッセン行った帰りなんだけどよ。そこに、特進科の奴がいてさ。俺、そいつらの会話を聞いちゃったんだよ』
「わざわざ、俺に電話まですることか?」
『そうなんだよ、明日の部長会あるだろ? 日葵ちゃんが学生会の仕事手伝っているやつ』
「あぁ」
『それさ、特進クラスでは、学生会で不正が行われているって噂になっているらしいぜ』
「一体何に対しての不正だよ」
『学生会が、権限で好き勝手に部費を調整しているって話だよ』
……どうして急にそんな噂が? もちろん根も葉もないことであることは間違いないが、このタイミングであることがわからない。新体操部の部長なら、丸宮が手を回してくれたはず。
文化部で特進クラスを中心に出回った噂……。
「陸斗、その噂。どうして急に出回ったかわかるか?」
『それがよ。特進クラスしか入れない、SNS上の匿名チャットがあるらしくってそこ発信だとよ。しかも急にだぜ。バッセンでたむろしていた特進クラスの奴の後ろで聞いてただけだから、詳しくはわかんねぇけど。ヒヨちゃんが心配でさ、どうする? 仲の良い奴に回して、誤解が広がらないようにするか?』
「頼む。俺は……ちょっと心当たりを調べるよ。どう考えても明日の部長会関係だし。幸い、ヒントはある。じゃあな、連絡は頼んだ」
電話を切って、鞄のポケットから、いつかの視聴覚室で回収した鍵を取り出して、指ではじく。
日葵はここ数日、学校を動き回って学生会の仕事をしていた。それを無下にするようなことは許せない。何事も無ければそれに越したことは無いが、何かあってからでは遅い。
「といっても、俺にできることなんて、たかが知れてんだけどな」
それでも、日葵には笑って欲しい。とりあえず、日葵のIlneにメッセージを送るか。
明日は早起きになりそうだ。
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