二人の王子の探り合い
樹が固い握手を日葵の父親と交わしていた時、学校から少し離れた高級レストランの個室にて赤井 錬と青柳 玲次はテーブルを囲んでいた。
錬はシャツにジーンズとカジュアルな恰好だが、玲次はジャケットにパンツとドレスコードを意識した格好である。
「そんなの着て熱くないのか?」
「そっちこそ、恥ずかしくないか?」
軽口は叩くものの、二人とも慣れた様子で食事を平らげていく。
幼い時から上流階級の在り方を学んでいるという点では、二人は共通しているのだろう。
「個室で誰が見るってんだよ。堅苦しい奴だな。それで、わざわざこんな場所に誘うなんて、どんな要件だよ。女の子の一人や二人はいると思ったんだがな」
「必要があれば揃えるが?」
「よせよ、バカバカしい。おっさん見たいなこと言うな」
絵になる二人の食事は進み、デザートが出るタイミングで玲次が口を開いた。
「学生会のことだが、滞っていた仕事は明日の会議でほぼ終わるだろう」
「あん? まぁ、そうだな。部長達もすでに部費にOKを出しているし、形だけってところだな」
「悔しいが、我々だけでは間に合わなかった可能性が高い」
「卜部のおかげってのは同意するぜ。あいつを誘って正解だったな」
錬が相好を崩す。普段とは違う自然なほほ笑みを玲次は冷ややかに観察した。
「そうだな」
玲次がケーキを口に入れる。誤魔化すようなタイミングであり、そのことに錬は違和感を覚えた。
「……」
「……」
おおよそ、二人が言いたいことは同じだろう。しかし、どちらが言うかで今後の動き方が変わる。
別にそんなこと気にすることもないのだが、染み付いた帝王学とでも言おうか、教育が二人をそうさせていた。しかし性格柄、先に動くのはやはり錬だ。
「学生会の仕事ってのは、少なくとも来年の三月まではあるわけだ。特に引継ぎとか面倒だし、卜部には引き続きいてもらってもいいかもな」
高校生には好まれづらい、苦みのあるブランデーケーキに顔をしかめながら錬はそう言った。
女子が苦手という自身の欠点を補佐してくれるだろうし、一緒にいてストレスにならない日葵のことを知りたいと思っている。何より、そんな自身の変化に錬は戸惑いながらも好ましく思っていた。
「……賛成だ。できれば、秋の文化祭に向けての手伝いも願いたいと思っていた。となると、一時的な助手というよりは、正式に学生会へ補佐として入ってもらう必要があるな」
玲次にとって日葵は、家での自身の地位を高めるための絶好の相手だった。家柄も良く、仕事もこなす、接点を増やして将来的にも自分の手元に置いておきたい。その為には好意を相手に持ってもらうのが良い。これまで幾人かの女性をそうしてきたように、玲次は日葵を都合のよい女性として手に入れたいと思っていた。
「正式な補佐ね。なら運動部と文化部、どっちかの代表の補佐になるわけだけど、俺が誘ったし運動部代表の補佐でいいぜ」
「文化祭は、文化部が主導になる。ならば文化部代表の僕の補佐になるのが都合が良いだろう」
ほぼ同時の発言、二人共が日葵を欲しがった。
「……あ?」
「なんだと?」
ここで二人は視線を合わせる。二人にとってこれは意外な展開だった。
(あれだけ卜部を学生会に入れることに反対していた玲次が自分の補佐に欲しいとか、どういうことだ?)
(……錬は特定の女子と関わるのを避けているように思っていたが、どういう風の吹き回しだ?)
「玲次は学生会に入れる人間は『資格』がいるって言っていたよな。前任は名家の人間だった。まさか、卜部もそうなのか?」
「……別に、能力を評価することもあるさ。そっちこそ、特定の女子と関わりを持たないようにしていたんじゃないか。背中を刺されても知らないぞ」
「嘘だな。家同士の関係でお前とは結構長い付き合いだ、能力を評価するにしても、まずは家柄に血筋だろ? こっちでも調べるから無駄だぜ」
錬が獰猛に笑う。こうなっては隠せることではないと、早々に玲次は諦める。
「フン……彼女の母方の実家は龍造寺の本家だ。血筋に関しても優秀ということだ」
「『龍造寺』ってエネルギー関連の龍造寺グループか。……マジか、驚いたぜ……」
それなら、自分と良い関係になったとしても家から何か言われることがない、と一瞬飛躍した思考が錬の頭をよぎるが、すぐに振り払う。そこまで考えるとちょっと恥ずかしい。
「僕が先に目を付けた」
「学生会に誘ったのは俺だ。そんで目を付けたのも俺が先、悪いけど、あのちみっこは俺がもらう」
「錬、今まで女子を融通してやったはずだ」
「別に、俺だけでもどうにかできたさ。いいじゃねぇか、卜部に選んでもらおう。じゃあな、コーヒーはキャンセルしといてくれ。飯旨かったぜ、デザートはいまいちだけどな」
錬が席を立ち、振り返らずに部屋を後にする。
玲次は無言でスマフォを取り出し、何かを確認した。
「どうにかして、夏休み中にこちらへ引き寄せるか……ん? このメッセージ……」
ニヤリとほほ笑み、玲次は残りのケーキを口に入れた。
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