天然家族と危険なコスプレ
商店街を抜けて、また坂道を登る。小高い丘の住宅地を進むと、さほど歩くことなく日葵の家が見えた。
この辺りでは大きな家で、本宅と離れがある。離れは日葵の両親の趣味の作業部屋らしい。
本宅は木材多めで、今風の建築ながら縁側とか土間みたいなスペースがあるのが印象的だった。
それなりに年季の入っている我が家と比べると、新しいし庭も含めて倍くらい広い。
「……久しぶりに来たな」
数か月ぶりか? あの時は日葵と付き合ったばかりで大変だったぜ。
「熱いのですぐに入りましょう。すぐに冷たいお茶を出しますね樹さん」
ニコリとほほ笑みかけてくる咲月ちゃんに癒される。ほんと出来た子だよ。
「エヘヘ。私のとっておきのおやつも分けっこしようね。あれ? 鍵がかかってる」
日葵が扉を開けようとするも、鍵がかかっているらしい。
すると、ピロリンと日葵と咲月ちゃんのスマフォが鳴った。
「ん、先に私達だけ入れって書いてるよ」
「まったく、お父さんたら。すみません樹さん、すぐに戻ります」
咲月ちゃんが鍵を取り出して、姉妹が先に入る。
手持無沙汰なので、縁側に座りぬるい風を受けて待つ。15分ほどしたくらいだろうか、俺のスマフォが鳴った。
『入っておいでってー。暗いから気を付けてね( *´艸`)』
ご丁寧にも電灯のスタンプまでついている。
「嫌な予感がするな」
意を決して、扉を開ける。玄関を開けると、土間のような空間で上は吹き抜けになっている。
相変わらず面白い造りだな。日光が入る窓を閉めているようで、薄暗い。居間へ通じる廊下は電灯がついているので、コケることはないだろうけど。
靴を脱いで、恐る恐る廊下を進み、ドアを開ける。
部屋はより暗い。暗幕でもしているのだろうか、とにかく全く見えない。
「あの……日葵? 咲月ちゃん?」
とりあえず名前を呼ぶが、返答は無し。え? 何これ?
ボワンと露骨な起動音がして、赤い電灯がつく。その陰に照らされたのはサングラスをかけた、似合っていない顎鬚の男性。
「遅かったな。イツキ」
あぁ、うん。これは知ってるやつだ。
「……ええと、なぜ碇ゲ〇ドウ?」
「……遅かったな。イツキ」
「聞きました。というか、流石に他にセリフあるでしょ!」
ゲ〇ドウのコスプレをしたおっさんに向かい合う辛さってある?
そして、さらに起動音がして今度は緑の光がつく、後ろからゲ〇ドウコスプレのおっさんの首に手を回すのは白衣にワイシャツ姿のの妙齢の女性。まぁユ〇のコスプレだけど、もう世界観が酷い。元が美女の為、絵になってるのが質が悪い。
「久しぶりね、樹君。エ〇ァに乗りなさい」
「それはミ〇トさんのセリフでは!? あの、葉香さん。これ一体何の冗談です?」
ブゥン。
「またかっ! 次はなんだよっ」
「……こんな時、どんな顔すればいいんでしょう。樹さん?」
暗幕の後ろからモジモジと恥ずかしがりながら光の元へ出てきたのは、すらりとした体躯をピチピチの白スーツに閉じ込めた。綾〇レイコスの咲月ちゃんだった。
いや、ちょ、エッッッッッ!!!
めっちゃ似合っている。この短時間でここまでのクオリティっとかヤバイぞ。元々が、中学生離れのモデル体型なので、それが逆に本編とマッチしているというか。前二人のグダグダが嘘のような一品(?)となっている。声もウィスパーっぽい感じで、寄せてない所が良い。
本人は恥ずかしいのか、目から光が失われているけど、それもまたグッド。
「凄くいい。笑えばいいと思うよっ!」
「なんで、このタイミングでノリノリなんですか!?」
ブゥン。と追加の起動音、暗幕から飛び出してきたのは、トレードマークのポニテをツーサイドアップにして、眼帯をしたア〇カコスの日葵だった。ウィッグではないので黒髪だが髪質はにているらしい、猫耳帽子、ジャージと言った格好でそこまで違和感は……いや、その主張の激しい胸のせいで台無しだわ。ジャージを内側からこれでもかと押し上げて、パッツンパッツンである。それなのに、腰は以外なほどに細く……メリハリのついたちみっこボディで……ご馳走様でっす!俺の彼女が世界一可愛い!!
「えと、イックン。『あんた馬鹿ぁ』」
「イントネーションが違う! 今度一緒にDVD見ような」
そこは譲れん。可愛いけどねっ!
パッと部屋の電気がつく。エアコンが良く聞いた室内の全貌が明らかになった。
暗幕にLEDライトを仕込んで、パソコンで点灯させていたと。
「勘弁してくださいよ。葉香さん」
「娘たちのコスが完成したから、見てもらいたかったのよねぇ。いらっしゃい樹君」
妖艶にほほ笑むのは、卜部 葉香さん。日葵と咲月ちゃんの母親である。
「いやぁ。すまないね。付き合ってもらって、僕は普段カメラ係だからさ、コスプレするってのは新鮮だねぇ。クオリティは許しておくれよ、僕ってば撫で肩だからね」
タハハーと緩い雰囲気で付け髭を剝がしているゲン〇ウ姿の男性が、晴彦さん。卜部家の大黒柱である。日葵は父親似、咲月ちゃんは母親似なんだよな。
「ねね、イックン。この衣装似合ってる? 可愛い?」
グッと体を寄せて上目遣いで日葵が聞いてくる。ジャージの胸元が大きく開き、ピチピチのスーツが見えて……流石に目を逸らす。
「……可愛い。コスとしては微妙だけどな」
「イックン照れてるー、そうかー、ヒヨちゃんが可愛いかー。ヘブッ、痛くなーい」
調子に乗ってきたので、チョップで黙らせる。痛くないように注意しながらだけど。
「樹さん。私はどうですか?」
咲月ちゃんもおずおずと寄ってくる。いや、君は本当に色々な意味で危険なので気を付けて欲しい。
体のラインがこれでもかと強調されているのだ。手足の長さとか、腰の細さとか、これが中学生とか犯罪じゃね? むしろ俺が犯罪者か。
「完璧だけど、ちょっと……目のやり場に困るので、着替えてください」
「ッ! す、すみません! お姉ちゃん。着替えましょう」
「えっ? もう、折角苦労して着たんだよ? 胸がつっかえて……」
「わわ、お姉ちゃん! 行くよっ!」
「ハハハ、許せないなぁ樹君。殴っていいかい?」
「冤罪というか、出来レースじゃないですか晴彦さん?」
「ウフフ、じゃあ、片付けてご飯にしましょう」
卜部家の騒がしさに頭痛がする思いだ。……まぁ、とても良い物が見れたので良しとしようか。
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