お節介はちょっと頑張る
ダンダンッ、とテンポよくボールが跳ねる。背の高い生徒が、空を走るボールを取ってシュートした。
ボールは枠を捉え、右側のチームに点数が入る。
そして俺は黄色い得点をめくった。言うに及ばず、体育の授業でバスケをしているというわけだ。
緑のネットで体育館の中央を区切り、男子と女子に分かれバスケをしている。ちなみに女子のバスケゴールは男子に比べて低く設定されている。……そして、厄介な話がもう一つ。
「おっ、今のシュートいいなぁ。樹、あいつって元バスケ部とか?」
「いいや、確か卓球部だったはず。しかし、なんで今日は特進科と合同体育なんだよ」
そう、得点板を挟んで立っているのは、『赤の王子』こと赤井 錬だった。俺が得点係なのを知って、わざわざ隣まで走ってきやがった。180を超える長身に並ばれると圧迫感がある。
「なんだよ。嫌そうにしやがって、しょうがないだろ。特進科は人数少ないから体育は普通科と一緒じゃないと、チーム競技できないんだから。ま、秘密を共有した仲だし、気楽にやろうぜ」
「何もこっち来なくてもいいだろ。お前を待つ女子の為にコートに入ってこい」
ネットを挟んだ向こう側では、赤井の活躍を見ようと女子達がこちらに熱い視線を向けている。
これまでは体育で同じになっても接点は無かったが、駅前の一件で秘密を知った影響かこうして話しに来たというわけだ。
「俺が出たら無双だからな。部活ではセンターだけど、ポイントガードでボール回しするくらいでちょうどいいんかな」
「赤井、ポジションの名前言われてもわからないよ」
「錬でいいぜ。フフン、じゃあ教えてやるよ。まずは――」
何、待ってましたと顔を寄せてんだ、勘弁してくれ。名前呼びとかしないからな。とか言っている間にブザーが鳴ってチーム交代。
次は俺の番だ、ちなみに特進科の奴らは普通科のチームに混ざっているわけで、どんな偶然か赤井と同じチームだ。赤井がいる時点で何もしなくても勝ちだからのんびりやろう。
ブンブン、ブンブン。ぴょん、ぴょん。
……なんか、視界の隅でネット越しにめっちゃアピールしてくる小っこいのが見える。
日葵がポニーテールとゼッケンを越しの胸部を揺らしながら手を振っていた。キラキラした目でこっちを見ている。
一応視線先が赤井ではないか確認したが、やはり俺の方を向いている。周囲の女子は赤井を見ているし、日葵よりも赤井に対してアピールしている子もいるため、日葵の奇行はあまり目立っていない。教師は何やってんだと思ったら、女子教師も赤井を見ていた。いいのかそれで?
日葵は相変わらず笑顔でこっちを見ている。クッ……ちょっとくらいは頑張るか。
「お、卜部じゃん」
赤井が反応する。……別に何もないだろうけど、ちょっと気になる。
「知っているのか?」
そりゃ、知っているだろうさ。学生会のことがあるからな。でも、聞かずにはいられなかった。
「ん? あぁ、最近学生会の仕事を手伝ってもらっている女子だよ。というか樹と同じクラスか」
「……そうだな」
「まっ、しょうがないな。アイツ、俺のこと使い走りにしているから。今日は俺様の凄さをちょっとだけ教えてやるか。行くぞ樹」
「俺は球技は苦手なんだよっ!」
結果? そりゃあ、圧勝ですよ。赤井がやる気を出せば誰も何もできない。
一応相手チームにもバスケ部がいたが、赤井の運動能力は頭抜けている。
日葵に少しでもかっこいい所見せたかったけど、一本のシュートも決めることができなかった。
結果、女子達の声援は赤井に集中しているわけで、他の男子達一同は肩を落とすしかなかったのだ。
ただ……日葵はずっと、俺を応援してくれていた。
「ナイスパスだぜ、樹」
「……ありがと」
精々パスを赤井や他の男子に集めるのが精一杯だった。日葵に合わす顔がないぜ。
バシバシと赤井に背中を叩かれ、ゲンナリするしかない。
ちなみに、日葵のバスケはというと。
「へいぱーす。わわ、行くよー。エヘヘ、ぱーす」
「ヨシッ、ヒヨちゃん。シュートどうぞ」
「んっしょ。左手は、添えるだけ!」
ポーンと砲丸投げのようにシュートしているが、明後日の方向にボールが飛んでいく。
添えるどころか、左手を使っていない。恐らく、両手シュートでは筋力が足りないからボールを普通に投げているのだろう。その様子を見て、丸宮という名前の長身の女子が日葵の肩に手を置いた。
「ヒヨちゃん。私、肩車しよっか?」
「マルっち。情けは無用でっす。グヌヌ、絶対シュート入れてやる。七難八苦だよっ」
と気合を入れるものの。そもそも、ドリブルができていない。パスは明後日の方向に行く。背が小さすぎてシュートが撃てない。そもそも、ゴールまで届かない始末。それでも、誰よりも声を出して笑顔で楽しんでいた。
「へぇ……やっぱ、面白い奴だよな。卜部って」
「……あぁ、いつも明るくて、周囲を巻き込む奴なんだ」
「おい……お前等。得点板をめくれ」
二人してネットに張り付いていると、教師にどやされるのだった。
帰り道。いつものように学生会の仕事が終わるまで日葵を待って一緒に帰る。
「ねね、イックン。今日のバスケ、頑張ってたね」
夕日の中、上目遣いに体を寄せてくる日葵。体育授業があったからか、制汗剤の匂いが鼻孔をくすぐる。
「一本もシュート入らなかったけどな。赤井は大活躍でだったけど」
「でも、イックンも真ん中のあたりでいろんな人にパスしてたよね」
「そりゃあ、俺がドリブルしてもボール盗られるし、パス回すしかない」
「頑張ってパスを受けやすい位置まで走ってたじゃん。褒めてあげましょう。なでなで」
日葵が手を伸ばすも頭に届かないので、肩を撫でてくる。何この可愛い生き物、俺の彼女です。
「日葵も楽しそうだったな」
「ムー、シュートが届かないんだよ。マルちゃんに抱えてもらってやっと、届いたのでっす」
「今度、ゲーセンでバスケのボール投げるゲームやるか」
「あっ、それ賛成っ。約束だよイックン」
「はいはい」
他の誰が見てくれなくても、日葵が見てくれるならそれでいいか。
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