天然少女のDIY
「おっはよー。イックン、良い朝ですよー」
「いつも通りの朝だな。おはよう日葵」
いつもより早起きしたせいか無性に眠い。
商店街への分かれ道で、日葵がブンブンと手を振っている。あの腕取れないんだろうか?
「眠そうだね。早寝は万病の薬だよ」
「昨日、漫画を読んでいたらからな。あと少し早いし」
「お昼休みに向けて、ちょっと準備があるんだよね。手伝ってよイックン」
二パッと笑う日葵は今日も元気印。この体力はどこから来るのか……。
昨晩Iineで『イックン、明日はお弁当ハンバーグにしてあげるから、早起きして手伝って欲しいことがあるのです』と連絡が来たので早起きしたという経緯です。ちなみに何をするかは聞いていません。
「別にいいけど、なにするんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
その質問を待ってましたとばかりに、胸を張る元気っ娘。重たげなそれが確かな質感を伴って揺れる。
思わず視線が吸い寄せられそうになるが、なぜか負けた気になるので、視線は下げない。ポニテがふわりと揺れていた。
「棚づくりでっす!」
「うん?」
というわけで、学校に着くと荷物を教室に置いて西棟へ向かう。
部活や学生会への届け物が届く一階の事務所へ向かい、日葵が受け取ったものは、DIY式の棚だった。かなり丈夫な作りで、それなりに重い。
「経費で買いました! 学生会御用達のお店のカタログで注文して、即日発送してもらったのでっす。その日の夜には届くという高速っぷりです。すごいねっ」
「怒られるぞ」
「青柳君は『もう好きにしてくれ』って言ってくれたのです。太っ腹でした」
「諦められていたか」
哀れ青柳、きっと日葵に押し切られたのだろう。
「部屋の景観を損ねるとか言われたので、普段はそれっぽいシートでもかけて置く予定なの」
「了解、じゃあ組み立てるか」
「わーい。授業まで後40分だよ」
「多分無理」
「諦めたら、そこで授業開始だよ」
「時間切れしてるじゃん」
なんて馬鹿なことを言いながら、部品を並べて手分けして棚を作っていく。
よほど良い物なのか、DIYの癖にすでに素材がしっかりしているし、仮のネジ穴もズレなくしっかりとしていた。これなら簡単に作れそうだ。
「ヘイ、イックン。まだかい? 私のパーツはできたよっ」
「早いな、もうちょいだ。あと邪魔だ」
「ピャ、痛くない!」
体を揺らしながら急かしてくる日葵をチョップで黙らす。相変わらず無駄に器用だな。ちなみに、うちの犬の小屋も日葵に作ってもらっている。
『犬小屋職人のヒヨちゃんだよっ』とか言って、ホームセンターで板から揃えたそれは、台風でもびくともせず、内窓のおかげで換気も掃除もしやすいガチの作りとなっていた。
ドライバーでネジを締め、ネジ穴を隠す為のパーツをはめ込むと、俺のパーツも完成だ。
「できたぞ」
「後、12分です」
西棟は文化系の部活で使う部屋が多く、吹奏楽部なんかの朝練もあるのだが音が聞こえなくなっている。時間がないのだろう。
「もう、後で良くないか?」
「この状態で放置は気持ち悪いよ。ほらそっち持って」
「はいはい」
一気に組み立てると、それなりに立派な木製の棚が完成した。
「倉庫に運ぶのです。あと5分」
「多分遅刻だぞ」
「まだいける。諦めるなイックン」
近くの倉庫の中に棚を入れたら、カギを閉めて、事務所の受付に置いて全力ダッシュ。
階段を昇ったところでチャイムが鳴る。
「おっと」
「大丈夫、まだセーフ!」
うちの学校では、チャイムが鳴り終わるまではセーフ扱い。
ラストスパートで教室の後ろのドアから駆け込んだ。
チャイムは鳴り終わってない。
「やったー。セーフ!」
「危なかったな……」
万歳して飛び跳ねる日葵と、胸を撫でおろす俺。そして……。
「何がセーフだ。廊下を走るな、教室へ駆け込むな、朝から跳ね回るな!」
名簿をバシバシ叩きながら、青筋を浮かべる担任と来たもんだ。
「いや、最後は卜部さんだけですけど」
「はいっ。先生ー、日下部君が私を売りましたー」
「黙れバカ二人、書き取りの宿題を出すからなっ!」
「えー」
「えー」
というわけで、二人仲良く国語の宿題を追加させられたのだった。
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