俺の彼女が話しかけられたようです
春、桜舞う季節。俺は一人の女性に告白をした。
「あの、卜部……好きです。付き合ってください」
クセ毛だからとポニーテールにしている髪の毛をゆらし、僕の好きな人『卜部 日葵』は満面の笑みを浮かべ手を合わせて驚いていた。
「わぁ、これが告白だね。すごいね、小説みたいだよ」
「いや、返事を……」
「あっ、そうだった。コホン……私でよければ、よろしくお願いします」
やや、天然な彼女はそのまま何を思ったのか鞄ごと飛び込んできたため、抱き留めた俺は盛大にコケてしまった。
……ということがあってから早数か月。夏休みを前にして、それなりに学生らしく恋人として過ごしていたわけなんだけど。
「ごめんイックン~。なんか学生会からヘルプが来たのです。しばらく放課後遊べないかも~」
放課後のラウンジ、ここはフリースペースがあって、話だか勉強とかをする学生で放課後それなりににぎやかだ。そんな中、俺の彼女はどうやら疲れ切っている様子。
「あー、なんか書記の子が休んでいるんだっけ? 日葵に仕事が回ってきたんだ」
「そそ、なんか特別な内容らしいって、夏休み前までちょっと忙しいかも~」
勉強時にかけてる赤い縁のメガネがずれるのも無視して、彼女が机に倒れこむ。
ムニュリと制服越しでもわかる何かが潰れる。そして、上目遣いで何かを要求してくる。
無言でワシワシ、彼女は乱暴に頭を撫でられるのが好きなのだ。
「うううう”、頭皮マッサージ」
「何言ってんだか……ここの制度の弊害だよなぁ」
この学校には少し変わった制度がある、というか漫画みたいな人達がいるんだけど。
っと……噂をすればやってきた。モーゼが海を割るように人が割れ、彼らの為にテーブルが空けられる。
学生会の連中……その頂点の二人だ。
「おっと、悪ィな。別に席が必要なわけじゃねぇんだ」
校則に触れない程度に着崩したブレザー、嫌みを感じさせない笑み。周囲に手を振っているのは『赤井 錬』
高身長で運動神経抜群、それでいて鼻筋は高く、目は大きく、猫のような愛嬌があると女子達からの人気は天井知らずのアイドル顔負けの男子だ。なにげ同中なので彼がどれだけモテているか知っているが、その人気は高校生になってからも右肩上がりのようだ。
「まったく、呼び出せばいいものを……おい、錬。さっさと用事をすませるぞ」
周囲の歓声なぞ、うっとおしいと不機嫌そうに眉間に皺を寄せるのは『青柳 玲次』。
赤井とは対照的な襟を正したようなきっちりとした服装。愛想なんて浮かべようのないむすりとした表情。切れ長の瞳に細い顎は女性のようで、整っているとしか形容できない容貌は、遠目からも目立つ。赤井ほどモテるというわけではないが、熱狂的な支持者がいるとか。
「おう、わかってるって。クラスの連中がこの場所にいるって話をしてたんだよ。どこいっかなぁ」
二人の男子。もとい、『王子様』だ。
この学校どころか、近隣一帯でも度々話題に上がる二人の家はこれまた超が付くほどのお金持ちときている。一回でいいから、二人と人生を変えてほしいもんだ。
「イックン。何遠い目しているの?」
「人生の不条理について考えていた」
「アンフェアだからこそ、人生は楽しいよね」
ニパッと笑う日葵、なんていうか……俺、このままでいいや。
多少天然かもしれないけど、かわいい彼女がいて、そこそこ仲の良い友達がいるってのも良い青春だ。
人生の不条理についての問いが解決したら、今度は下の問題が発生した。
「悪い、トイレ行ってくる」
「うん、パン食べて待ってる」
「……太るんじゃね?」
日葵は学食も大盛りだったりする。この小さい体のどこにそんなに入るのだろうか?
人生に新しい問いが生まれた。
「その分、イックンが動くからいいのです」
「何も良くないよな。まぁほどほどにな」
っと、本当にトイレに行きたくなった。
急いで、ラウンジを出てトイレに向かう。
数分後、ラウンジから戻ると、少し騒がしい。
まぁ、二大王子が来ていたしな。多少はざわつくのもわかるが、ちょっと様子がおかしい。
さきほど、日葵といた場所に人垣ができている。
人をかき分けて前に出ると、信じられない光景が広がっていた。
「君を学生会に招待したい。無論、規則に則っている。拒否権は無いぞ」
「俺らの仕事を手伝ってくれるんだってな。よろしく頼んだ」
二人の王子様の前にいるのは、パンを咥えた体制で固まる日葵だった。
その日、目立たない女子が王子二人に学生会へ招待されたニュースが学校中で広まった。
ってそれ俺の彼女っなんだがっ!?!?
見切り発車します。