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第三部 3章 有限である事…… 004



 三つ頭は悠長に、少年と赤髪を見ていた訳ではない。

 加速の世界に、難なく割って入るこいつらは何者なのか。それを考える。

 人を捨てて、脳みそを三つにしたのにも関わらず。

 結論は出ない。

「ぐ、ぐっ……グフゥゥ」

 忌々しげに嘆息した。


 三つの脳は、魔法演算や思考処理速度を飛躍的に向上させる。

 主となる人格だけを核として、あと二つの脳は計算機としてのみ機能すれば良かったので。二人の娘には、自我を消す為の薬物投与も行った(若干、消しきれていなかった事にも多少は驚く)。

 

 人を辞める事と、娘たちを生贄にして、人類では到達できない万能の力を手に入れたはずだ。なのに……

 その言葉が三つ頭の脳裏に、ぐるぐると巡る。


 ふと、唐突に我に帰る三つ頭。否、フレッドネア・イーベンゲェル学長。

 何故……娘達を、私は……? 

 意識が混濁して、倒錯した感情が溢れ出てくる。


 しかし、フレッドネアが奇跡の肉と呼ぶ、破壊神の肉片の憎悪と破壊衝動が。我に帰ったフレッドネアの意識を、一瞬で飲み込む。

 激流の様なその憎悪は、小さな英雄へと向かう。

 壊せ……殺せ……全ての元凶である、()()を滅殺せよ。

 三つ頭はよだれを垂らして、アルルへその激情をぶつけるが如く、咆哮する。

 人らしき自我は、もう無い。

 全ては、暗い憎悪の海に沈んで、もはや浮かんでくる事はないだろう。


 そして……魔人が誕生した。

 全身がどろっと、溶けて崩れ。その中から脱皮した様に、鈍色に輝く肢体が出現。手は六本、足は二本、一つの頭に、顔が三つ。

 どの顔も、憤怒の表情でアルル達を睨んでいる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーっ」

 まるで、産声を上げる赤子の様な叫び。

 人造魔人アシュラ。

 融解と合成までのプロセスしか経ていなかった、フレッドネアの研究の産物は。ここに至り、破壊神の憎悪に後押しをされて、抽出を達成させてしまう。

 いや……元になった三人の人間の、絶望と悲運も。それを()()させたのかもしれない。


 憎む様に地を踏み締め、憎む様に踊る。

 六本の腕は、整合性なくばらばらと動いて、それぞれに光の剣が生えてきた。

 憤怒の瞳からは血の涙が溢れて、アルル達をその激情のまま睨む。


「『時よ無限に伸びて(フルーオン・ヒール)我を救え(アローグ・ハイ)』」

 アシュラは力ある言葉を、三つある口で一斉に唱える。

 その呪文は、時に干渉して、時間をどんどんと引き延ばしていく。

 ()()()()での加速の世界に、今。

 人造魔人アシュラは、到達した。


 その引き延ばされた時間の中では、アシュラを除いて全てが遅くなる。

 伸ばされた時の中を、アシュラは移動してアルル達へと近づいていく。

 そして、魔法で創り出した六本の光る剣を、ゆっくりとアルルへ突き刺していくのだ。


 五本を心臓に、角度を変えて突き刺した。

 残りの一本で、額を貫く。

 それから、一足飛びで後方に。元の位置まで戻る。


 ここでアシュラの魔力は尽きて、無限に伸ばされていく時間は解除された。


 時が完全に止まった訳では無い。

 限りなく静止に近かったというだけで、時間経過は確かにある。

 なので心臓に五本、額に一本。時間経過の判定で六回。

 つまり、小さな英雄は六回死んだ。


 そして次に、アシュラの移動自体で、実際では音速に達している。

 それが何層もの空気の壁を破壊し、ショックウェーブとなって、周囲に爆風を撒き散らした。

 校舎の窓という窓は、吹き飛んで。校庭に植林された木々は、薙ぎ倒され。

 造りが弱い部分の建物から、ひび割れていく。

 すでに六回は死んでいる、小さな英雄は。その爆風に、体が天高く吹っ飛ばされ、落下。

 地表に叩きつけられて、七回目の死を経験する。


 食いしばりLv5が発動。ーー十二回までの死を回避して、体力を瀕死に戻す。そしてその都度、全耐性に一段階の強化(バフ)


 隣に居たはずのルビーも、爆風により遠くへ吹き飛ばされるが。こちらはダメージは無く、すぐさま翼を展開し空中で制動を掛けて(こら)えた。


 よろよろと立ち上がる小さな英雄。突き刺さった光の剣は、すでにその役目を終え消えている。


 人造魔人アシュラは、その光景を視認し。血の涙を流したまま、薄く笑った。

 触媒として使われた破壊神の肉片には、細胞レベルでアルルとの戦いは刻み込まれている。

 アシュラが言葉を話す事は無いが、人間だった時の感情の残滓が。

 どちらが化け物だというのか……

 そういった、複雑な思いを溢れさせた。

 

 もう一度、時を引き伸ばす術を使えれば、アシュラは英雄に勝利できた可能性はある。

 しかし、すでに魔力は底をつき。魔法剣の最上位とされる、魔法エネルギーのみによって、剣自体を生み出す手法すらも、もう使えない。

 それ程の消耗をすでにしてしまって、打つ手は無かった。


 最強種族のドラゴンや、魔神であっても、瞬殺できる術技コンボ。それを真正面から受けて、まだ立ってくるのだ。

 人造魔人アシュラは、憤怒や憎悪から誕生できた魔人なので、笑うという感情は無いはずなのだが。

 笑うしかなかった。

 

「ぐ……な、何が……?」

 瀕死のままのアルルは、何が何やら分からない。だが、取り敢えず何とか体を起こす。

「アルルさーん! 大丈夫ですカー?」

 慌てふためいた様子で、ルビーが空より降りて、アルルに寄り添う。

「あ、ああ……何が起こった、の?」

 七回も死んで、瀕死のアルルが大丈夫な訳は無かったが、本人の自覚的には大丈夫なのだろう。

 それを見て、ルビーは若干安心する。


「アルルさん……今のはヤバいです。多分、時を止める術か何かでショウ。アイツから視線は外さない様に気をつけていたのに。気付いたらアルルさんは、吹っ飛ばされて、ワタシも吹っ飛ばされて……」

「と、時を止める……?」

「ハイ、まさかこの世界に時間に干渉できる術が……いえ、可能性としては考えてましたガ、まさか……」

 ルビーの憶測は、的を得てはいなかったが、遠くはない。しかし、真相を究明する時間は無いだろう。

 

「いや、ゾンビ……理屈はいい。どうしたらいい?」

 アルルはルビーの焦りを感じ、具体的な助言を請う。

 アシュラとの距離は、十数メートルは離れている。相手はこちらを、睨んで出方を伺っている様にアルルには見えた。

「ハイ、多分……時を止める術の連発は、出来ないと見まス。出来てたら、ワタシ達はすでに、終わっている……筈でス」

「なるほど……じゃあ」

「ハイ、攻めまショウ」

 アルルは、固めた決心を再び呼び起こし、強く拳を握る。


「アルルさん……いいですよネ?」

「ゾンビ……ああ。うん……倒さないと。ダメなんだろう? 分かってる、倒すよ」

 握った拳の反面、アルルの力の無い言葉。しかし、視線はアシュラから外さない。

 その目を見て、ルビーはそっとアルルの手を握る。


「罪は……一緒に背負いまス」

 そう言うとルビーは、漆黒の長剣(ロングソード)に変化。

「ゾンビ……」

 アルルはそれを手に取り、装備した。

『モウ、アルルさん! ルビーって呼んでヨー』

 頭に響く声。

「やだよ……オレは、ボンクラだからな……」

『アルル……』

 漆黒の長剣を携えた、小さな英雄は。力一杯に大地を蹴り、駆け出した。

 人造魔人アシュラを目掛けて。

 

 


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