第三部 2章 恐怖! 国立魔法剣術学院 018
アイーニャとマーコを探し回って三日目。
アルルとルビーは、水上都市カラット内のカフェに居た。
路面に面した店で、テラス席もある。そのテラス席で、二人は休憩がてらお茶をしていた。
ルビーはお勧めされた葡萄酒を、かぶがぶと飲み。アルルは香りの良い、何かしらの茶葉(説明されたが、分からないままにしている)をちびちびと口に含む。
「アハー、どうしますカー」
「うん……」
どうすればいいのか、それはアルルにも分からない。
芳ばしい匂いが、手元のカップから薫って鼻をくすぐる。
小さな英雄は、ふぅと一息。
と、そこで破裂音がする。
「え?」
「アハー?」
二人は、テラス席から身を乗り出して音のした方向を探す。
他に居た客や通行人も、何事かと外へ出たり、あたりをきょろきょろとしている。
そして、ざわっと沸く人々。その目線の先を追って、アルルとルビーもそれを視認した。
遠くの方で黒い煙が、もうもうと上がっている。
「え……何?」
「アハー、なんでしょう……爆発ですかネー」
アルルとルビーは、取り敢えずで席に座り直す。
同じ様な行動をする客も数組いたが、多くの人は動揺と共に煙の発信源に向かう者。集まって話し合う者や、何処かに向かう者。それぞれの右往左往が、見て取れる。
「アハー、アルルさんどうしますカー?」
再度、ルビーからの問いに困るアルル。
「どう、って……アイーニャが関わってるって事か?」
「アヤー、うーん……それは無いと思いたいですガー。一応、見に行きますカー? って事ですヨー」
「うーん……そうだなぁ」
ーーアイーニャが関わってる……事はあるのか?
逡巡するが、もちろん答えは出ない。
「一応……行ってみるか」
「アハー、了解」
二人は、指針を決めたので席を立って会計へと進む。
……
…
そこは、二十分程歩いた場所の、商店が立ち並ぶ一角であった。
すでに野次馬が大勢押し寄せていて、アルルとルビーは遠巻きに、爆発したと思しき場所を見る。
依然、黒い煙はもうもうと上がっていて、数十人の消火活動をする人物達があたふたと動く。
「アハー、ねえねえ。どうなってるんですカー?」
ルビーは、近くの野次馬に声を掛ける。
「あぁ? あぁ……なんだか政府のお偉いさんの……ええ、なんだか忘れたが。そのー、お偉いさんの家だか、事務室だかが何者かに爆破されたらしいぞ」
野次馬の男は一瞬訝る表情で、ルビーを上に下に見定めるが、まあいいかと考えた様だ。
「アハー、政府? なんか政治的な事件か何かなんですかネー?」
「いや〜、分からん……分からんが……」
男はここで、あたりをきょろきょろとして、小声になる。
「実はな、ここだけの話……結構悪どい事をしてるって、前々から噂になってる奴でよ。その偉い奴がよ……で、近々捕まるんじゃないかって言われてたんだ。で、これだよ……」
「アハー、なるほどナー」
何がなるほどなのかと、アルルは思ったが。黙って、ルビーの隣で話を聞く。
「こりゃ暗殺だよ……連邦の何処かの機関が関わってるって、さっきそこの誰かもひそひそ話してたしよぉ」
「アハー、中々派手な暗殺もあったものですネー」
「だなぁ!」
あっはっはと、ルビーと男は笑い合った。
その後も、違う野次馬に話を聞くが。定かで無い噂や陰謀論を聞くだけで、特にアイーニャに関する話は出て来ない。
基本的な骨子は、やはり政府関係や連邦関係に集約される為。二人は、アイーニャとは関係が無いとの結論に至る。
「アルルさん、帰りますカー」
「そう……だな。帰るか」
ーーそう言えば……カツさん達。カラットに行くって言ってたな。今、どうしてるんだろう。すっかり忘れてた。
連邦とかの話を多く聞いた為、アルルは連邦捜査官を名乗る友人夫婦を思い出す。
だが、特に連絡手段も無いので、ひとまずそれは頭の奥底に追いやった。
宿に戻るべく、歩き出すアルルにルビー。
「ア・ル・ルさーん、どうしましょうカー? これから」
ルビーは背後から、歩くアルルに抱きついた。
「おい、やめろよゾンビ。暑苦しい」
「エエー、ひどいナー。ゾンビは、体温無いんでヒヤリとして、気持ちいいでしょうヨー」
「いや、まぁそうだけど……いや、違くって。気持ち的に暑苦しいから!」
アルルは腕力で、ルビーを剥がそうとする。
が、それに抵抗を見せるルビー。
「あ、このっ。何かお前、力強くなった?」
「アハー、分かりますカー。ちゃんと、レベルアップしてる証拠ですネー、アハハー」
しかし、力の差はまだあるので、ルビーはやがて剥がされる。
「ちぇ……もうちょっといいジャン」
ルビーは口を尖らせ、ぷいっとそっぽを向いて歩き出す。
「何だそれ……」
アイーニャが居なくなって、ルビーも寂しいのだろうかとアルルは考える。
「そう言えば……『ワタシはバカだ』って言ってたけど、あれの意味ってなんなんだ?」
問われたルビーは立ち止まり、アルルの方に振り返った。
「アハー……アハハ。それは、ワタシの見込み違いだった……って事ですヨー、アハハ」
何処となく、乾いた調子で笑うルビー。
「え? どういう事?」
さっぱりなので、深く聞こうとするが。
「アハー、いやいいでスー。忘れて下さい、このボンクラ」
「はぁ!?」
あの、口の悪い双子の姉の文言を、ルビーは引用する。アルルは、あからさまに嫌な顔をして唇を尖らせた。
「アハ。アハハハー」
それを見て、愉快そうにルビーは笑う。真紅の髪を揺らして……
……
…
部屋に戻ると異変が一つ。窓ガラスが割られていたのだ。
そして、部屋に転がる拳大の石。その石に、何やら紙が巻かれている。
窓を割って投げ込まれたのだろうと想像はつくが、一体誰がこんな事をしたのか。
アルルはその石に巻かれた紙を広げる。
そこには文字が書かれていた。
◆
お探しのものはサイ・ダート国立魔法剣術学院に。
また深夜の時間に、同じ場所で落ち合いましょう。
フレイ・イーベンゲェル
フレア・イーベンゲェル
そう書かれただけの手紙であった。
「あの子達は、とうとう窓ガラスまで割ってきたよ……はぁ」
アルルは嘆息する。
「アハー、いや。それよりも……お探しの者? なんであの子達は、ワタシ達がアイーニャを探してるって、知ってるんですかネー」
ルビーは、口に手を当て神妙な顔つきで言った。
「ああ……確かに」
アルルも、それには同意する。
「ウウーン……」
「深夜に行けば、アイーニャの情報をくれるって事……なのかな?」
「ウウーン……分かりません。が、行ってみた方がいい気もしますネ。何か嫌な感じがしまス」
ルビーのその言を聞き、アルルの心にずくんとまた、あの言い知れぬ不安感が去来した。
どくどくと、心臓が脈打つのがはっきりと感じ取れる。
アルルは手紙を持ったまま、割られた窓ガラスから空を見た。
もう夕暮れに差し掛かる、そんな時刻だ。
深夜になるまで、何を準備するべきか。
小さな英雄は考える。




