第三部 2章 恐怖! 国立魔法剣術学院 012
たっぷりと運動をして汗をかいた為に、双子は水を浴びて着替えてくると、校舎の方へ去って行った。校庭で待っててくれと言い残し。
アルルとルビーは、取り敢えず修練場から校庭へと場所を移す。
「アハー、アルルさーん。三つ目の校庭の謎……どうです? 掘り返してみませんカー?」
ルビーは、校庭に入ってすぐ物騒な事を言い出した。
「いや、それは流石に……許可取らないと駄目なんじゃないか?」
昼の空を仰ぎ見ながら、アルルは言う。
と、そんな無益な会話をする二人は、正門の方から見慣れた人物がひょこひょこと、こちらに歩いてくるのを発見した。
「あれ、アイーニャだ。どうしたんだろう」
「アハー、本当ダー。アイー」
ルビーは大きく手を振る。
「えへへぇ、アルル様ルビー様ぁ。お昼のお弁当を持ってきたんですぅ。あとシートも持ってきたので、木陰で食べてくださいねぇ」
アイーニャは満面の笑みで、一式をアルルに渡す。
「え、ありがとうアイーニャ」
「いいえぇ、そんなぁ。あ、ルビー様には葡萄酒とコップを入れときましたぁ」
「アハー、アイーはいつも気が利くネー。アイー可愛いよアイー、アハハー」
「あ、そのぅ……一応、あのくそ女達の分も作ったんですがぁ……」
「ああ、あの子達は着替えに行ったよ。ここで待ち合わせてるんだ……え、くそ?」
「あはぁ、よかったですぅ。それでは私は、マーコを一人で置いてきてるんで帰りますねぇ」
それだけ言うと、アイーニャはそそくさと学院を後にした。
「……アイーニャ、よほどあの子達が嫌いなんだね」
「アハー、まぁそりゃあそうでしょうヨー」
「え、なんで?」
「ヤレヤレ、この朴念仁は……アハー」
ルビーは処置なしと頭を振る。
「……」
くそぉと思いながらも気にしない事にして、丁度良い木陰を探す。
適当に並ぶ樹木を選び、その下に麻でできたシートを敷いた。
いつの間にどこで買ったのか、少し大きめのランチボックスをシート中央に置いて、アルルとルビーはそこに腰を落ち着ける。
程なくして、双子はシートを広げているアルル達を見つけて合流した。
着替えたはずなのに、学生服である。
そのまま汗のついた制服を着回しているのか、同じ制服を何着も持っているのか。それは、アルルには分からない所だし、確かめる事でもないので横に置いておく。
そして、アイーニャが作ってくれた弁当を披露した。
「え、あの子が作ったの? へぇ……そうなんだ」
フレイは、なんとなく気まずそうに広げられた料理を見遣る。
「ええー、すごいですね! あの耳がとんがった子ですよね? へぇ〜」
フレアは感嘆と共に、嬉々とした目でそれらを見回す。
四人は輪のようにランチボックスを囲み、それぞれで手をつけていく。
「アハー、そう言えば残りの不思議なんですガー。夜とかは、学院に入れないんですカネー」
ルビーは、コップに葡萄酒を注ぎながら、パニーニを片手に頬張ろうとしている双子に聞いた。
「夜は入れないわよ。鍵とか閉められちゃうんだから」
「そうです……でも、噂になる位だからもしかしたら。夜に入った人がいる……のかもしれませんね。授業の無い夜中に、学院に入る人ってかなり珍しいですけど。調べた所でも、夜中に入る学生はいない……ですかねぇ。昔の人でしょうか……」
フレイにフレアは、わざわざ口に運ぶのを途中で止めて、質問に答える。
「アハー、なるほど。まぁ、正門は閉められても、乗り越えらるでしょうしネー。ただ、校舎は閉まっちゃうのカー。ウーン」
「ルビーさんは、夜中に入ってみたいって事?」
「アハー、そうですフレイちゃん。やはり、夜って限定的な噂が気になりますネー」
「そうですねぇ……うーん」
フレアは少し黙りこくって、片手のパニーニはそのままに、視線をルビーへ向ける。
「もしかしたら……入れるかも知れませんよ、ルビーさん。夜に……」
神妙な顔をするフレア。
「エエ! ほんとですカー、フレアちゃん。アハー、しかしてその方法とは……?」
「はい……確かに、正門は簡単に乗り越えられるんです。問題は鍵の掛かった校舎なんですが……屋上からなら、もしかしたら……」
「フレア、あんた……。確かに、屋上の扉に鍵は無いけど。正気!? 夜中にあそこをよじ登ろうっての?」
「うん、そうだよねお姉ちゃん。それが、一番難しいよね……掴める所も無いし」
双子は、一息をついたのか各々パニーニを齧る。
「アハー、屋上の扉に鍵は無いんダー、ホウホウ」
ルビーはニヤリとしながら、楽しそうに頷いた。双子は、疑問符を浮かべお互いに見合う。
「アハー、屋上に行ける方法……あるんですヨー、ワタシには。フッフッフのフー」
特に不敵でもない不敵な笑みを零し、ルビーは特徴的な八重歯を覗かせる。
フレイにフレアは、もう一度疑問符と共にお互いを見合った。
一方アルルは、黙々とアイーニャの手作りを食べる。三人の話は、右から左へ耳を通過するのみであった。
彼女達は、さらに話を進行していくが。小さな英雄は、木陰から見える空をぼんやりと眺め最後の一欠片を口に放る。
そして、アイーニャお手製のお茶を一気に喉に流し込んだ。
「アハー、では今夜! いいですカー、フレイちゃんにフレアちゃん」
「まぁ、いいでしょう。わかったわ」
「お姉ちゃん……うん。わかりましたルビーさん。ちょっと、なんかワクワクしますね、夜の学院かぁ。初めてだなぁ……」
話がまとまった様で、各々片付けを始める。
「え? どうゆう事?」
それまでぼーっと、空を眺めていたアルルはつい反射で聞いてしまう。
「えっ、ちょっと! 何も聞いてなかったのっ! もう、ほんとあんたってボンクラね!」
「うっ……」
フレイのもっともな言に、アルルは返す言葉もない。
「アハー、アルルさんはいつもこんな感じなんですヨー。まったく、ヤレヤレと言われちゃう系のボンルル系ですネー、アハハー」
「……」
ルビーの茶化しは、聞こえてないフリをするアルル。
フレアは苦い笑いをして、取り敢えずその場の片付けに終始した。
「アハー、まぁアルルさんには後で説明しときますヨー」
そして、一行は片付け終わってその場で解散。各々、夜の時間まで、自宅自室で待機するという事に決まったのだ。
深夜零時に正門前。女性陣はお互いにそう言って、手を振って別れる。
アルルは、最初より軽くなったランチボックスを持って、去っていく双子を見つめた。
ーー流れからいって、オレも行かないといけないんだろうか。
「アハー、ボンルルさーん。一旦宿に帰りますヨー。ボンルルさーん、アハハー」
ルビーに促されて、歩き出すアルル。
「なぁ、ゾンビ。オレも行かないといけないのか?」
「アハー、ボンルルさん。来ないとフレイちゃんが、深夜の時間帯にまた。部屋に突入してきますヨー、アハハ」
「……うぅ」
またまた十数時間後に、あの子に会わないといけないのかぁ。と、思うと何故か胃がきりきりとしてくるアルルだった。
しかし、最初の頃よりかは若干慣れたし。あちらも、口調は少し緩めた印象を感じなくもない。
だが、晴れた気分だったはずの心はもう、うす雲が段々と侵食して。晴々とは、言えない心持ちにはなってしまっていた。
ーー何故だ。
内心でそれだけを呟き、対照的な夏晴れの空を仰いで帰路に着く小さな英雄。
隣で楽しそうにスキップをしている、赤髪の吸血姫ゾンビを苦々しく思いながら。
………
……
…
深夜零時。
サイ・ダート国立魔法剣術学院、正門前。四つの影が、そこにはあった。
夜中の学院にて、七不思議の調査(肝試しとも言えるが)をする為に。




