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第三部 2章 恐怖! 国立魔法剣術学院 010



 アルルにとって清々しく目覚めたはずの朝は、双子の来襲により喧騒に叩き込まれた。

 しかしながら、今は一転。赤髪の吸血姫ゾンビと双子は、謎の意気投合を見せて盛り上がっている。


「あ、ごめんアイーニャ……お茶を飲みたいんだけども、いいかな?」

「はぁい、アルル様ぁ。すぐ、用意しますぅ」

 それまでひたすらに眉間に皺を寄せて、双子の姉の方を睨んでいたアイーニャは、アルルの頼みに顔を明るくして、台所へ向かった。


 アイーニャが湯を沸かす間に、アルルは脱衣所に行って着替えをする。

 着替えながら、今日一日をどう過ごすのか考えた。が、いまいち思い浮かばない。

 ーー学院はどうしよう、何かを得れる気しないんだよなぁ。まだ時間はあるし、アイーニャ達と観光する、かな?

 そして、ナーサの言葉を思い出す。『君の()()()()に付き合っている』

 やはりアルルは、元の世界に帰りたいが為に、無意識に焦っていたのだった。一向に有益な情報が得られない現状に。

 それをナーサに指摘されてから、アルルは少しずつ自分を認識していく。


「ふぅ……」

 軽く深呼吸をして、この旅行の目的を決める。分かっていながらも、(あえ)てあやふやにしていた自分を、再度戒め。

 アイーニャやルビーの為に、カラット(ここ)にいる間は、時間を観光に割こう。そう、決めたのだ。


 そうすると、不思議に心が晴れやかな気分になる小さな英雄は。

 道中の変な空気も、到着してからの双子の絡みや、学院での出来事。それらは全て、旅行中の楽しい出来事だったんじゃないか。

 そんな風に思えてくるのだった。


「よしっ……」

 アルルは、元気よく発声し。着替えを終えて、脱衣場を出る。


「なーに、チンタラしてんのよっ! 今日行く場所は、もう決まったわよアルル!」

 フレイは、そう勢いよく言葉を発し。「へぇ?」と、間抜けな声を出してしまうアルルを尻目に、満面の笑みで胸を張った。


「あ、あぁ……そうなんですね。それは良かったですね」

「何、他人事みたいに言ってるのよ。あんたも当然行くのよ、アルル」

 アルルは聞こえないフリをして、アイーニャの淹れてくれたお茶が置かれる、テーブルへと歩む。

 見るに淹れたて特有の湯気が、ふわりと漂っている。タイミングはバッチリだった。


「って、ちょっと! 無視すんじゃないわよ」

 フレイに肩をガシッと掴まれる。

「……や、あの。離してもらえますか?」

 アルルは、早くお茶を飲みたかった。が、そう言おうとして顔を振り向かせたら、掴まれている手から伸びる人差し指が、自身の頬に突き刺さる。

 ーーうわぁ……子供の時によくやったけども。


「あら、ちゃんと頬は柔らかいのね。もっと硬いかと思って、突き指位は覚悟したのに」

 何を言ってるんだと、アルルは思ったが。それよりも、冷めないうちにアイーニャの淹れてくれたお茶を飲みたかったので、何も言わずに席に着いた。


 一口目を啜って、ふぅと息をつく。そして、アルルはルビーに視線を移し。

「で、ゾンビ。どういう事になってるの?」

 向かいで、二人並ぶフレアとルビー。主に赤髪の吸血姫ゾンビと仲良くなったのは、双子の妹の方なのであろう。


「アハー、いやぁ〜。ここら辺で、何か面白い事件とか、何かないのかなーって聞いてたんですけドー。アハハー、あったんですヨー」

 ーー面白い事ねぇ……。過去の経験からアルルは訝しむが、ルビーに話の続きを促す。

 決心して得られた晴れやかな心持ちが、いきなりフレイによって壊されそうになったけれども、小さな英雄はなんとか持ち直すのだ。


「アハー、ズバリ。……サイ・ダート国立魔法剣術学院に噂される、七不思議! こんな胸踊るワードが聞けて、ワタシは胸がドキわくしますヨー。面白そうじゃありませんカー? アルルさーん。それの調査を本格的にやってみようという流れですネー、アハハー」

 普段であれば即却下のルビーの提言だが、二人のために時間を割くと、ついさっき決めたアルルには無下にできない。


「アハハー、フレイちゃんにフレアちゃんナイスー」

「ルビーさんって、面白い方ですね。話もすごく興味深いですし」

「ええ、そうねフレア。どこかのボンクラとは大違いね。話の分かるお姉さんだわ」

 双子は揃って、ルビーを気に入ってもいるようだ。


 学院にはもう行きたくないなと思ってからの、この展開は実に皮肉めいて、アルルは溜息を零す。

「いや、ゾンビ……観光とかはいいの?」

「アハー、観光? そんなものは馬にでも食わしてやりなさいナー。アハハー、ワタシは心踊る冒険がしたいんですヨー。それが醍醐味でショウー?」


 良かれと思って決めた、そもそもの旅行であったが。ルビーには要らないもののようであった。

 が、アルルはここで。

「あ、そ……そうだ。アイーニャ。アイーニャはどうしたい? どっか行きたい所はあるかな?」

「えへぇ、私はアルル様やルビー様のお世話をできたら、それで幸せですぅ」

 アイーニャはもはや、真理に行き着いているかのように、間髪入れず答えた。


「いや、アイーニャ……でも、何か。何か、ないかな?」

「えぇ……でもぉ。毎日が新鮮でぇ、なんか生きてるって毎日思えるんですぅ……それ以外はぁ……え〜、思いつかないですぅ」

 アルルの決心や、色々なここまでの選択。それらが、全て壊れそうになるのを防ぐ為に、アルルは目の前のお茶を啜る。そして、香ばしいその匂いを必死に脳に送って、精神をなんとか保つ事に成功した。


「ってか、あんた。アイーニャだっけ? なんかちゃんと喋れるんじゃない」

 フレイは、つい昨日。アイーニャによって、執拗に鼻の穴を責められている。

「……ふっ」

 話掛けられたアイーニャは、不敵に笑ってそっぽを向く。

「……え、何この子。やっぱり、腹立つわ〜」

 フレイは青筋を額に浮かべて、ギリギリ笑って見せた。

「お、お姉ちゃん……ま、まあまあ。ね? ね?」

 それを見てフレアは、慌てて執りなす様に間に入る。

 フレイとアイーニャの仲はもはや、改善を見せる事は難しいのだった。

 ……

 …



「昨日の今日で、またここに来るなんて……」

 アルルは広々とした校庭の真ん中で、自分だけに聞こえる範囲でそう呟く。


 四人は、サイ・ダート国立魔法剣術学院に来ていた。

 アルルにルビー、フレイにフレアの四人である。

 アイーニャは、その日の家事を理由に同行を辞退。フレイとの仲の悪さも、多分にあるだろう。


「アハー、アルルさーん。魔法学校なんて、いかにもじゃないですカー。アハハー、いい感じ、いい感ジー。な・なっ不思議ー、な・なっ七不思議ー」

 これまでが嘘の様に、快活に笑って八重歯を覗かせるルビー。

「アルル、あんたちょっと! もうちょっと楽しそうにしなさいよ! あ、あとで……いや。ま、まぁいいわ。行くわよ、アルル」

 あとで、手合わせをできないか。その一言が、どうしても言えないフレイ。

「アルルさん、すみません。あとで、姉と手合わせをお願いできますか? お昼を食べた後でもいいので……」

 姉の言いたい事を、的確に伝えるフレア。


 晴れた夏の空に、川のせせらぎ。趣のある校舎に、誰もいない整った校庭は。それなりの侘び寂びを感じさせる。

 が、アルルは三人に見えないように、嘆息した。


「アルルさーん」

「アルル!」

「アルルさん……」


 小さな英雄はもう一度静かに溜め息を零し、七不思議のあるという校舎に向うのだ。

 名前を呼ばわる、三人のあとに続いて。


 

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