第三部 2章 恐怖! 国立魔法剣術学院 004
「ナーサ、あのナーサ様……と、知り合いなの……?」
双子の口の悪い方のフレイは、口をぱくぱくさせて。その驚愕具合を見事に表現していた。
続く性格が良さそうな方のフレアも、双子ならではの同調を見せ。同じく目を見開いている。
ナーサ・ミ=ショーオと、知り合いであるというその一点が。かなりの大事なのだと、アルルに感じさせるに十分すぎる程の効果はあった。
あっただけだが……
「へぇ、ナーサさん。有名な人なんですねぇ、へぇ……」ぐらいであった。
「……あんた、へぇ……じゃないわよっ! 先に言いなさいよ、そんな重要な事は! あと、有名な人なんですね、ヘッヘッヘ。じゃないわよ、このボンクラ!」
フレイは、似てないアルルの物真似を合間に挟みつつ、アルルを糾弾の構えだ。
ーーえ、オレの真似? そんな顎、出てる!?
「お姉ちゃん、落ち着いて」
フレアが、嗜める様に間に入る。「確かに、驚いたけど……ウシロロの図書館に封印されているのは、みんな知ってるじゃない。それでアルルさんが、歴史を調べてるって事は……ね? 知り合いでも可笑しくないよ、お姉ちゃん」
双子だけが、どぎまぎバタバタしているだけで、他は至って冷静だ。
訳が分からないのだから、当然だが。
「封印……? ナーサさんは、普通に図書館で働いてますよ?」
疑問だから聞いたが、しまったとも思うアルル。自分達はいつ、宿屋に案内されるのかの不安を覚えた為だ。
だが、後の祭りであった。
「あんた、ほんとにボンクラ中のボンクラね! 弩級を飛び越えて、封印指定なみの超弩級ボンクラよ、あんた! あの人が図書館如きに、大人しく納まるっ! ちょっ、止めなさいっ! ちょっ! 何この子っ!? 鼻を、やめっ! 止めなさいっ! やめっ」
アイーニャが、しっしっしっと人差し指を突き出して、フレイの鼻の穴を執拗に責め立てる。
アルルは、アイーニャをそっと引き剥がし、何とも言えない顔をした。
妹のフレアは、顔に手を当てて天を仰ぐ。
ルビーに至っては、手を叩いて笑ってしまっている。
「も、もうっ……なんなのこの子っ。ま、まぁいいわ……いい? 聞きなさいよ、アルル! ナーサ・ミ=ショーオと言えば、連邦きっての大・大・だいっ天才なんだから! あんたみたいな、ボンクラがっ……やめっ、止めなさいよっ! 鼻を狙うな! 鼻を狙うなーーーっ!」
また、アルルがアイーニャを引き剥がす。
ついでに距離をも取る為、両手を持って後ずさる。
そして、話の続きを促すべく。フレイに手の平で合図をするのだった。
「もういいわよっ! 知らないっ」
ぷりぷりとして、フレイは地団駄を踏む。
それはそれで、アルル的には良かったと思う。ただ、封印という言葉は気にはなってはいるが……
「……じゃ、じゃあ改めて宿屋をご案内しますねぇ、はは」
フレアは若干、乾いた声で先頭に立つ。
かくして、一行はやっとの事で宿屋の案内をされるのであった。
あれから、小一時間ほどを掛けて目的の宿屋に着く。
確かに十数メートル離れた場所に、大きな建物と広い校庭と思われる敷地が視認できた。
あれが、サイ・ダート国立魔法剣術学院だとフレアに教わる。
そこで、お礼を言って双子とは別れるのだが。最後も、フレイがボンクラ発言をした為に、アイーニャに鼻の穴を責められる一幕があり。
アルルはアイーニャを、フレアはフレイを。同時に引き剥がして、うやむやの内の別れとなった。
それから三人と一匹は、宿にチェックインをして部屋に案内をされる。
二部屋を希望したが、どうやら家族と見做され。家族用の大部屋を当てがわれた。
観光客も多く来客するので、部屋数は確保したい旨を説明されれば、納得する他ない。
部屋に荷物を置き、備え付けのキッチンでアイーニャがお茶を淹れてくれる。ここで、ようやく一息をつくアルル。
ーーふぅ……これからどうするかな。
「あ、二人はどうする? 夕飯とかまではまだ時間ありそうだけど……」
「アハー、そうですネー。散策も楽しそうですがネー」
「あのぅ、アルル様ぁ。そのぉ……」
アイーニャは、フレイがいないので普通に喋る。
「ん? どうしたのアイーニャ?」
「はぁい、一応ここでも料理はしたいのですがぁ……そのぅ、アルル様に買っていただいた包丁が壊れちゃいましてぇ……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げ、しなだれるアイーニャ。
「え、そうなんだ、まぁ物だしね……。いつかは壊れるか」
「なのでぇ、お許しを頂けるのならぁ。今日の晩御飯の買い出しを含めて、もう一度買っていただけないかとぉ……」
アイーニャは、心から申し訳なさそうな顔をして、アルルを見る。
ーーアイーニャが、最近浮かない顔をしてたのは、もしかして包丁が壊れちゃったからなのかな? それを言い出せなかったから……?
アルルは、そこに気付かなかった自分を恥じた。
「ああ、うん。もちろん、大丈夫だよアイーニャ。早く言ってくれれば良かったのに」
「いえぇ、そんなぁ……」
「アハー、乙女心が分からないアルルさんには、無理ですネー。アハハー、ボンルルー。ぷふっ」
いつもなら、そんなルビーの言に内心毒づくアルルだったが、今日は何となくそんな気分になれない。
と、いうよりは暴言を吐かれ過ぎて、疲弊しているからだった。
アルルは、財布よりアイーニャに渡すお金を出す。
そこで、ふと見ると部屋の端っこでやけに大人しい、猫のマーコが目に入る。
否、視線を感じたので、マーコと目があった様な形だ。
「なんか、どうしたんだマーコ? あんなに隅で。……本当にどうしたんだろ?」
「アハー、猫って家に居着くって言いますし。慣れない環境で、戸惑ってるんじゃないですカー?」
ルビーの言葉は、それとなく説得力がある様に、アルルには感じる。感じるが……
「にゃぁ」
何処となくやる気のない声を聞いて、やはりアルルはそれなりに心配になるのだった。
「アイーニャ……じゃ、これで」
マーコを気にしつつ、アイーニャにお金を渡す。
「アルル様ぁ、ありがとう御座いますぅ。えへへぇ」
「アハー、ワタシはじゃあ、アイーの買い物に付き添いますかネー。散策も兼ねて」
「あ、ほんとー。ゾンビがいれば大丈夫か。オレは……、じゃあ一応学院に挨拶に行ってくるかな。ナーサさんに頼まれた封筒もあるし」
それとなく一行は、それぞれで今日やることを決めていく。
部屋の窓からは、何処までも続く青空に、大きな入道雲が見え。白い鳥が、数羽ほど群れになって何処かへ飛んで行く。
今はまだ、不吉な影は何処にも見当たらない。
今の所は、なのだが……




