第三部 1章 されど、きらめきは己の中に 002
カツサムもミカも、街を歩く用の普段着の出で立ちである。
「おう、アルルー! なんか、久々だな」
「そうですね、カツさん……元気でしたか?」
カツサムは、端正とは言えないが眼光は鋭く。どちらかと言えば、野生みが溢れているタイプである。
しかし、話すと気さくで。誰からも慕われる様な性格をしているので、アルルはかなりの信頼を、このカツサムに置いている。
そして、表向きはフリーの傭兵を生業とするが。裏では連邦捜査官として、日々人々の平和の為に働く。正義の人物でもあった。
「きゃ〜、アルル! 久しぶり〜。元気だったぁ〜? みんなはぁ〜?」
「ミカさんも元気そうで……はい、大丈夫ですよ。ボクも、ゾンビやアイーニャやマーコも。みんな変わりないです」
矢継ぎ早に、捲し立てるように喋るミカ。栗色の長髪をなびかせ、嬉々としていつも楽しそうなのがミカだ。特殊能力で、およそ誰とでも仲良くなれる。
「アルルも、昼メシか?」
「そうです、なんだかんだ食べてなかったので」
「え、え、じゃあミカ達もだから。アルルもどう? いいよねカツ君? ねっ、ねっ」
「ミカー、強引にすぎるってぇ……なぁ? アルル」
「あ、いえ……ボクも丁度ここにしようと思ってたので。むしろ、いいんですか? 二人の時間邪魔しちゃいますけど」
カツサムとミカのやりとりも、久々に見るアルル。
こういう時は、ミカに寄った発言をした方が。いつもの夫婦喧嘩に発展しにくい事は、今までの経験から学習している。
「おう、アルルがいいんなら決まりだな。よしっ、行こう!」
「きゃ〜、もうミカ。お腹ペコペコ〜」
三人は、食堂に入っていく。入る途中、店の立て看板をアルルはチラリと見る。
「海産物が、この店のウリなんですね。色々メニューが豊富そうです」
「おお、そうなんだ。ここは、ウシロロでも結構な老舗でな。実は、俺らのお気に入りの店なんだよ。なぁ、ミカ?」
「そうなの、そうなの。ここの魚料理は、すごく美味しんだから〜」
「なるほど……それは楽しみです」
店内は、薄暗く。どことなく漂う磯の香り。外からの見た目よりかは、客席も多く、天井も高い。
客が増えるに従って、隣の建物や、二階部分を増築していった様な。歴史が感じられる雰囲気だ。
厨房と客席を隔てる中央にハイチェアのカウンターがあって、そこの奥には生け簀が見える。注文された料理に従い、そこの生簀から魚を獲るのだろう。
「マスター、上のテーブルいいかな?」
カツサムがそう言うと、厨房から顔を覗かせた人物。マスターと呼ばれた男は、無言で頷く。
三人は、増築後に付けられたであろう階段を登り、壁側の席に座る。
………
……
…
「う……、軽めのつもりでしたが。食べ過ぎちゃいましたね……」
アルルは、カツサムとミカに注文を任せてしまって、結局かなりの量を食べた。
「いや〜ん、お腹いっぱい〜。幸せ〜」
「なっ? ここの料理は何を食ってもうまいだろ〜? 今度アイーとかルビーも、連れて来てやれよ、アルル」
「そうですね……確かに。あまりみんなで外に。は、無かったですね」
ナーサに言われた言葉が蘇る。
『君のワガママに付き合ってくれている』
ーーワガママ……そうなのかもしれない。復興の手伝いと、図書館の往復しかしていなかったから、蔑ろにしていたかもしれない。
「さっきも聞いたけどさぁ。アルルは、時間ができたんなら。ルビー達をどっかに連れてってあげてもいいかもな。ナーサの言う通りにさ」
カツサムは、コップに入った水を一気に煽ってそう言った。
「はい……そう、ですね」
「うんうん、ミカもそれはいいと思う〜」
「あっ、で。話は変わるんだけどさ……」
カツサムは急に神妙な顔になり、あたりをきょろきょろと見渡す。
昼もまぁまぁ過ぎた頃で、アルル達のいる中二階には、他に客はいない。一階には、まだ数組がちらほらといる程度だ。
声のトーンを落として、カツサムは喋り出す。
「そのぉ……ナーサの話に出たサイ・ダートなんだがな。ーー実は、俺らもそこに行かなくちゃならなくなってな」
アルルは、まだそこに行くと決めた訳では無かったが。話の腰を折るのも憚られ、無言で続きを促す。
「つーのはさ……、あの巨人の事件。レメギス教団の」
「は、はい」
「思った以上に、きな臭くなってきててさ……」
「きな……臭くですか」
カツサムは、また一瞬あたりを見回す。そして、一層声のトーンを絞った。
「実はな……ウシロロ政府内に、教団と深く関わりを持つ人物がいてな。俺らはそいつを、秘密裏に内偵していたんだ。でもな……」
間を置いて、もう一度周りを警戒するカツサム。
「先週、そいつが自殺を図ったんだ。自分の家で」
何と言っていいか分からず、アルルは難しそうな顔を作る。
「その自殺なんだけどな……、明らかに他殺の痕跡があるんだよ」
「……ん?」
ここでアルルは眉をひそめ、カツサムの口から語られた事の整理をする。
が、アルルには纏められない。
「で、そいつの生まれがサイ・ダート共和国なんだよ……」
ーーうーん、難しいな……どういう事なんだろう。ミカさんはわかってるのかな。
アルルはミカを見る。場の空気に合う様な、重苦しそうな顔をしているが……
「えっ、ちょっとアルル? 何っ? やだ、も〜。もちろんミカはわからないよ〜。あはは〜」
カツサムはテーブルに突っ伏した。
「おいミカー! 昨日あんだけ説明したのに、分かってないのかよっ。なんか変な顔してるなと思ってたら。ーーったく……そう言う所だぞミカー」
「ええ〜ごめんカツ君。なんか食べたら眠くなっちゃって〜。って、カツ君変な顔って何? カツ君?」
「あっ、ちょっ……いや。そ、そういう意味じゃなくて……」
変な方向に火がつくミカに、たじろぐカツサム。
「あ、あのー……ボクも分かりませんでした」
アルルは正直に言った。
「お前もかよぉ〜っ!」
またぞろ、テーブルに突っ伏すカツサムだが、それを見たミカは。
「あっはっはっは〜。ほら〜カツ君! カツ君は説明へたっぴなんだよ〜」
「くぅぅ〜、お前ら〜」
アルルのおかげで、ミカの活火山は休火山になった様だ。
「ま、まあ兎に角だな……。麻薬と教団の繋がりが、政府のお偉いさんに飛び火して。かなりの混乱が起こっててだな。責任問題とかな。ーーもしかしたらミカの親父さん……ウシロロ大統領が、国家転覆の罪で捕まる可能性もあるんだぞ?」
「ええぇ〜っ! めっちゃ大変じゃん、ミカのパパ!」
「ばっ、ミカー。声、声がデカいってっ!」
アルルも何となくではあるが、あの巨人の事件が。街の被害だけでなく、国家の一大事にも繋がっているのだという事は理解した。
「まぁ、それで外部でもある連邦捜査官の俺が、内偵と調査を上に言われてやってたのよ。それで……ええいっもういいかっ。兎に角、俺らはサイ・ダートに行くから。アルル達とあっちでまた、合流できるかもねって事だよ。お会計ぇいーー!」
投げやりになったカツサムは、そのままの勢いで。会計するために、声高に店の店員を呼ばわった。
……
…
「じゃねアルル〜。向こうで会えたら、またみんなで、食事しようね〜?」
「あ、はい。そう……ですね」
ーーまだ行くとは言ってないけどなぁ。
「おいミカー。俺らは別に、遊びに行くわけじゃないんだぞ?」
「え〜、分かってるよカツ君。でも、息抜きとかはするでしょ? ずっとじゃないでしょ?」
「まぁ、そりゃそうだが。うーん、まぁアルル。その時はその時で、だな」
「はい、カツさん。じゃあ、ひとまずボクは、宿に戻ります。カツさん達は……?」
「ああ、今日はこのまま家に帰って、サイ・ダートへ行く為の荷造りとかだな。また暫く、戻れそうにないかもしれないからな」
「大変ですね……カツさん」
「まぁ、な。でも、しょうがない。選んだ道だ」
「カツ君、かっこよ〜」
三人で笑った。
そうして、アルルはカツサム達と別れ。自身が泊まる宿に向けて、歩き出す。
帰ると、ルビーとアイーニャが猫のマーコを取り囲んで、ぎゃあぎゃあと騒がしい。
そんな場面に出くわすのだった。
「え、何? ど、どうしたの……?」




