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第二部 2章『陰に日向に、人たるは何ぞや』013



 警戒を一応解いてくれたらしい、ナーサと名乗る図書士。

 どうやら、ここの図書館を案内してくれる様で。手招きをして、アルルを呼び寄せる。


「それでは、礼儀正しいアルル君。ーー君のここに来た目的は何だい?」

「あ、はい。……ええと、歴史などを見れたらなと思っているんですが……」

「ふむ……歴史、歴史。少年にしてはそれもまた、珍しい……。このウシロロの歴史かい? ーーそれとも、連邦全体のかな?」

「あー、全体を……ですかね」

「ふむむ……」


 歴史と一括りにしたが、アルルが知りたいものは元の世界に帰る方法である。

 今の所は、手がかりが何も無い。

 よって史実を元に、何かしらを探ろうと考え(ルビーからの助言でもある)歴史と言ったが。果たしてそれでいいのかは、アルル自身にも不明である。


「ふむ……よかったら。で、いいのだけれど……よかったら。そのー、わざわざ()()()()()()()()君が、ここの()()()()()()()()、歴史を知りたい理由を教えてくれないかな? ーーもちろん、良ければの話なのだけれどね」

「え……それは。その」

 どうやらナーサには、アルルがウシロロ・ダートや連邦の生まれではない事。

 また、ここの育ちではない事を見抜かれている様である。


「え、えーと……」

 アルルは言葉に詰まる。

 ーー理由? ……なんだろ。全てを話すか? 話しても問題は無いよな……? うーん。うーん……?

 ここまでの長い道のりや境遇を話すのは、些か骨が折れる。しかしながら、嘘などでこの場を煙に巻くのか。アルルは考える。

 

「あ、そのー。話すと長くなって……、その割に。なんというか、信じて貰うのも。ーー信じて貰えないのも……えぇと。嘘を言うのも……なんだか違う……かな? 嘘つく? いや……煙に巻く、ええとーその。一言で言うと……歴史を知りたいのです」

 途中から、自分でも何を言っているのか分からなくなってしまって、知りたいと言う情報だけを、もう一度口にするアルル。

 ナーサからの質問には、結局答えてない形になってしまう。


 暫くの沈黙。

「……ぷっ、あっはっはっはっはー」

 ナーサは、堪えきれない様子で吹き出してしまう。お腹に手を当てて、うっすら涙を浮かべている。


「あっはっは……ふぅぅ。な、何だいそれは……ああ、何年振りだろう、こんなに笑ったのは。あっはっは。ーーいや、すまない。これは、君を馬鹿にしているという訳では無いんだ。あっはっはぁ」

 アルルは、ただただ笑うナーサを見ているだけだ。そして、ナーサは続ける。


「ああ、なんだろう……君は面白いね。うん、理由は人それぞれだ……あれこれ、根掘り葉掘りという訳にはいかないよね。これに関しては僕は君に、全面的に謝るよ……ごめんなさい」

 

 笑ったかと思えば急に謝るナーサに、何が何やら分からない。と、いう戸惑いの表情しか、アルルは浮かべられなかった。

「あ、いえ……あの。そんな……謝る事でもないです」

「いやいや、気になった事はついつい聞いてしまう。人の気持ちも考えずにね。僕の悪い癖なんだ。ーーどうか、この通り!」

 ナーサは、また深く頭を下げる。


「いえ、そんな……」

「ふふっ、いやぁ……君はなんだか、落ち着くね。見てるとなんだか、安心してしまう雰囲気を持っているよ。まだ少年だろうに、大したものだ。ーー僕の名にかけて、君をちゃんと目当ての本に会わせてあげるよ。そこは心配しないで?」

「あ、や。そんな……ありがとうございます」

 ーーむしろ、こっちは変な人だと思ってます、すみません。

 アルルはそう、心に添えた。


 それからナーサによって、アルルは一通りの館内の説明を受け。

 目当ての歴史書が置いてある場所へと、案内された。




 時間は少し前に遡る。

 アルルが丁度、通行人に道を聞いている頃だ。

 ルビーとアイーニャ(猫のマーコはアイーニャが抱えている)は、自室に戻っていた。


「アハー、買い出しを行く前にやる事があるんですヨー。いいかなアイー?」

「はぁい、もちろんですぅルビー様ぁ」

「じゃこっち来てアイー」

 ルビーは、アイーニャを部屋の中央に連れて行く。


「アハー、よしっ。じゃ、くつろいでる所悪いねマーコ。この子抑えてくんないアイー?」

「はぁい、ルビー様ぁ」

 アイーニャは、マーコの胴を掴んでルビーに差し出すような格好で抑える。

 にゃごにゃごと鳴きながら、きょろきょろと首を回すマーコ。


「アハー、マーコちゃん……()()()()()()()()ですカー?」

 薄く笑って、ルビーは吸血鬼特有の犬歯を覗かせる。

 マーコはアイーニャの手の中で、にゃあにゃあと身じろぎをして、そこから脱しようとジタバタした。


 ルビーはアイーニャの手に手を重ねて、殊更に薄く笑ってマーコを逃さない。

「アハー、マーコちゃーん。アナタは普通の猫じゃないですよネー? ワタシにはわかってるんですヨー、アハハー。……一回も、()()()()()()()()()()はいないでしょうカラー」

 二人の手の中で、余計に暴れようとするマーコ。にゃあにゃあだった鳴き声は、すでに敵意を表す様な鳴き声に変わっている。


「アハー、……この時の為に、伏線として温めていた。くすぐりの刑をしますかネー、それー。コチョコチョコチョコチョー」

 伏線云々などと、軽口を叩きつつ。ルビーは片手をそのままに、もう片方でマーコの腹をくすぐった。

 マーコはさらに暴れて、掴まれていない後ろ足で抵抗を試みる。じたばたと。


「アハー、ムダムダムダムダー。なんちゃってー、アハハハ」

 ぎゃんぎゃんと鳴くマーコ。薄ら笑って猫をくすぐるルビー。

 それを何にも言わずに、ただただ前に突き出した手でマーコを掴むアイーニャ。

 側で見たら、さぞかし可笑しい絵面ではあるだろう。

 そして……


「ぎゃごぉぎゃゃにゃ、ギニャー!は、は……にゃ!にゃハハハハハハハハハハ!にゃーーっ、やめっ!やめろ〜〜〜〜」

 堪らずマーコはその正体を現す。

 否、現してしまう。


 猫そのものの姿から、人間の様に見えるシルエットが浮かび上がり。それに乗じて、ルビー達の手からも逃れる事ができたので、その場から宙返り二回転を決めて距離をとった。


「に“ゃああっ、もうっ! いい加減にしなよ、吸血鬼にエルフ娘っ!」

 そこに立っているのは、猫ではない。

 人間の女性の様な体格に、猫の耳と思しきものが頭に付いている。そして、両の手もまた猫の様な肉球が付いていて、鋭い爪が伸びていた。

 腰からは、先ほどの猫の姿の時と同じような模様の、長い尻尾が生えている。


「アハー! やっぱり、ケモ耳娘だったかぁ!」

「にゃっ!?」

 ルビーは瞬時に、猫耳娘との距離を詰めてガシッと両腕で捕まえる。

 猫耳娘は、反応ができなかったらしく、驚愕すると同時に慌てた。慌てたが、ルビーの腕力に抗えない。


「にゃ! まじ? ぐぬぬぬ……」

 ルビーの拘束を振り解こうとするも、ピクリともしない。


「アハー、ねぇねぇ。ケモ耳触っていいかナー? ねぇねぇ?」

 ルビーは、相手の了承を待たず。片腕で拘束したままに、もう一方で猫耳を触る。

 片腕になったからとて、その拘束は緩まない。

 猫耳娘は、体を右に左に暴れて抵抗するが腕力の差は大きく。やはり抜け出す事は無理であった。


「アハー、嘘みたいっ……まさかケモ耳を直に触れる日が来るなんて……アハー。ほらアイーも触ってみなヨー」

 心から感動するように、ルビーは猫耳娘の猫耳をもふもふと触る。

 ついでに何故かアイーニャにも、この感触を勧めた為。吸血姫ゾンビとエルフの娘は、二人して猫耳を堪能した。

 もふもふと一心不乱に、その感触を確かめ合う。


「に“ゃあっ! やめっ……やめろ! やめろ貴様にゃっ、やめっ……やめてぇぇぇ」

 もはや、身動きすら取れず。猫耳娘は、その尖った猫目にいっぱいの涙が浮かんでいる。

 吸血姫に抱きとめられながら、二人に前後より猫耳を触られている絵面は、やはり奇妙の一言に尽きるだろう。


「アハー、マーコが何を企んでアルルさんに近づいて来たのか……まぁそれは置いておいて」

「にゃ!?」

 ルビーは不敵に笑いながらそう言うのだ。何を企んでいるのかが重要ではないと、言外に言い含めるように。凄惨に笑う。


「アハー、ケモ耳成分は手放したくないので、アルルさんには内緒にするから。これからも一緒に居ましょうネー! アハハー」


 と、非常に自分本位な事を言ったのであった。

 

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