第二部 2章『陰に日向に、人たるは何ぞや』010
『アルルさーん、いけそうかもでスー!』
頭の中で、声を受け取るアルル。
何とか、7mのサーベルを駆使して破壊神に攻撃をしては、再生されるのイタチごっこを繰り返していた。
ほんの数秒、数十秒。
アルルは息継ぎをせず、ただひたすらに斬りまくる。
闇の波動を阻害し、遅らせる為に。次はもう防げないだろうと、直感で思ってしまっているからだ。
闇雲に斬りまくる。
「やってくれぇーーっ!」
アルルは叫ぶ。止まる余裕は無い。
漆黒のロングサーベルは、アルルの手の中で大剣に形を変え。そして、一回り大きくなる。
10mを超えた大剣になって、急激にズシリと重さが出てきた。
だが、アルルは先程よりも剣速を上げる。
堆積の伴わないサーベルは、軽すぎたのだ。軽すぎたが故に、取り回しが難しく。そちらの制御に、力を削がれていた。
「もっとだっ! もっとぉぉぉっ!」
大きくなって、重さも乗るようになったアルルの攻撃は。
徐々に、破壊神の再生能力を上回ってきている。
『アイヨー』
さらに大剣は、一回り大きく重くなった。
斬られ続けている破壊神にも、変化が起こり始める。
闇の波動が阻害され続けていて、それを対処しない事には。この破壊衝動が、十全に行使できないからだろう。
頭部辺りから、にょろにょろと触手が生えてきた。
その触手が、先端から黒い何かを、アルル目掛けて発射する。
それは、アルルの頬を斬り、腕や脚。無数の触手の、無数の黒い何かは、アルルを斬り刻むかのように、集中する。
「もっとっ! もっと大きくぅーーーっ!」
アルルは、そんなかすり傷など気にせず、ルビーに催促を指示。
『ぐぬぬヌー!』
さらに大剣は、数十mに及ぶ大きさを獲得する。
その重さに、アルルの足元はばきりと、割れた。
しかし、小さな英雄は大きなソレを振り切る。
信じられない速度でもって。
破壊神の頭部ごと、根を張る体部分までをも切り裂いて、大地まで斬る。
否、もはや叩き割っているに等しい破壊を。アルルは見せつけた。
だがそれでも、再生は止まらない。
触手はより一層、黒い何かを飛ばし攻撃を続けるし。再生能力自体も、急速にレベルが上がっている様に早まっていた。
しかしそれは、アルル達の絶望というよりかは、破壊神が焦っている様にも感じられる。
アルルは、十数mの大剣を素早く正眼に持っていき、横薙ぎに振るう。
根を張る体部分を狙った剣は、かなりの部分を削り斬ったはずだが。やはり、急速に再生を始める。
「もっとぉぉーーーーっ!」
アルルは叫ぶ。無数の黒い何かを、全身に受けつつ。致命傷には、なり得ない程の攻撃だが。所々、出血はしてしまう。
雨と泥水。それに血が混じって、それでも小さな英雄は意に介さない。
『ウヘー、アルルさ〜ん!?』
「もっと大きくっ!」
『なヌーー!?』
アルルは、強く叫び、大剣を大上段に構える。
「ルビィィィーーーーーーーっ! もっとだぁっ! もっとぉおっ!」
その名を呼ばないと、決意したはずの英雄は無意識に絶叫していた。
『……アハッ』
もはや、アルルの持つ大剣は、そう呼べる代物ではなくなってしまった。
100m程にまで、巨大化したものを。誰も、剣だとは思わない。
重量で言えば2トンを超えるだろう。
それをアルルは、上段に構えている。
足元は、さらに大地を割って沈む。
『グヌヌヌ……アルルさーん、三秒も維持できないカモ〜』
ルビーも限界まで力を使っている。
「ぁあああああああっーーーーーーっ!」
アルルは気合いを込めて、その巨大なモノを振った。
決して、2トンの重さに負けて、手を離した訳ではない。
しっかりと両手で握り込んで、足を前に踏み込み。
その巨大なモノで、大上段に斬ったのだ。
重さ、大きさ、それに合わせたアルルの膂力。
その一撃は、破壊神を言葉通りに真っ二つにして、勢い余って大地を深く抉る。
そこで、力尽きたのか大剣は瞬時に、本来の適正だと思われる大きさまで縮小してしまう。
『ふしゅるるルー、……アハー』
巨大な剣が消えた空間に、空気が急激に吸い込まれていく。
そしてアルルは、両断された肉の断面が微かに動いたのを見逃さない。
「もう一回だルビィィィーーーー!」
この間、刹那。
大剣を横に構えている。
『ウヘェェ! ーーもお、やったりますヨーーーーー!』
今度は、横一文字に大剣を振るアルル。
力尽きたはずのルビーは、力をもっと極限に振り絞って。巨大変化と、重量の倍化を瞬時に行う。
急激な巨大化に、アルルの剣速が合わさって破壊神に向かっていく。
その一撃は、音速を超えた。
二つに分かれた破壊神を真横に切断し、合わせて十字に切り裂いたのだ。
音速を超えたが故の空気の振動が、衝撃波となって。
追撃の効果を生む。
破壊神は、さらにばらばらに真空の斬撃を喰らい。暗雲の彼方に、塵ほど刻まれて飛んでゆく。
上空の雲ですら、それに混じって彼方に吹き飛んでしまう始末だ。
邪神レメギス改め破壊神レメギスは、もう二度と復活する事はない。
完膚なきまでに、滅せられたからだ。
小さな英雄と、赤髪の吸血姫ゾンビに。
常軌を逸脱した、この二人組に。
メタメタのボッコボッコに、滅せられてしまったのだ。
もう、あの豪奢なレメギス教団の屋敷は跡形も無い。
街の被害が皆無とはいかなかったが、死人の数で言えば。最初に許したレメギスの闇の波動の一発で、数千人程である。
その被害は、少ないのか多いのか。
残された人々に、委ねる他はない。
全てが終わったらしい事を確認して、アルルはすぐさまその場に倒れ込んだ。
否、倒れ込む途中で、手を離れた大剣がルビーに戻り。アルルを支えた。
アルルは、眠るように気絶する。
ルビーは、それを見て取り。
そおっと優しく自身の膝に、アルルの頭を誘導させて自分も座り込む。
それは、膝枕と呼ばれる形になっていた。
泥だらけで、血まみれの小さな英雄は。
赤髪の吸血姫ゾンビの膝に頭を置いて、静かに眠る。
「……頑張ったねぇ、アルルさん」
眠るアルルの、泥だらけで血だらけの顔を。ルビーは手で拭う。
「……ルビーって、呼んでくれたねぇ。ちょっとドキドキしたぞぉ? アルルさーん」
ふふっと笑って、さらに髪の毛についた泥も拭って、髪を気持ち整える。
「……また。呼んでくれるかなぁ。ルビーって……」
ルビー=ペインバッカーという名は。自らが、その場の思いつきとして名乗ったはずだが。
まるで、もう一度呼んで欲しい理由があるかの様な言い回しで、ルビーはそっと。
アルルの額に、自身の頬を当てる。
「……やっぱり、体温は感じないかぁ」
寂しそうな真紅の瞳で、そう呟く。
「アハー、今はゆっくり休んでくださいネー。……アルルさん」
ルビーは寝ている小さな英雄の頭を、優しく撫でた。
もう雨は降ってはいない。
アルルが、破壊神ごと吹き飛ばしてしまったのだから。
ルビーは、雲が一つも無い空を見上げ。どこまでも続く様な奥行きを感じさせる星々に。わぁと、感嘆を零す。
「……あははぁ」
キャラを作らず、赤髪の吸血姫ゾンビは。
静かに笑った。




