表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/167

第二部 2章『陰に日向に、人たるは何ぞや』008



 アルルの眼前に現れた、その光輝く盾は。アルルの左手で操作ができる様で、手を握ると閉じ。開くと、また展開される。


「な、何とかなっ……た。ーーのか?」

 目をしばたき、展開された輝く盾を二度見。小さな英雄は、いまいち事態の理解に至らない。

 後ろを振り返り、街の安否を確認をした事で、ようやく胸を撫で下ろす。

 アルルの理解としては、結果さえ確認できれば、理屈はどうでも良い。

 ーー大事なのは、そこじゃない。

 小さな英雄は顔を上げた。


 《遠き理想と英雄の盾(ノーウェジ・アウッド)

 英雄や勇者に許された、特別な概念武装なのだが。アルルには、もちろん知る由もない。

 この盾は、発動後あらゆる悪意のある攻撃を、無効化。および解消(キャンセル)をして、どんな攻撃も完全に防ぐ。

 しかし、発動条件は厳しく。条件が一つでも揃わなければ、発動しない。

 そして、その条件を全て、アルルが把握する事は難しいだろう。検証できる環境が、とても作りにくいからだ。今を除いては。

 だがアルルは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 邪神レメギスは今起こった現実に、もう一度恐慌状態に入りそうになるが、踏みとどまった。

 もはや、この小さき人間を滅する事は諦めて。その代わり、街を破壊し尽くそうと、邪神は主旨を切り替えてしまう。

 アルルを見遣り、不意に真逆を向く。

 反対方向に、あの闇の波動を撃つ為、また四つん這いになって、口を大きく開ける。


 ただの人間の都合で。堕とされ、名を変えられ、形までも変えられた憎悪を、ただただ吐き出すだけの存在になろうと。邪神は初心を思い出す。

 破壊があればいいのだと、そこのみに思考を集中した。


「《暗黒超光弾(ヴァ・ナ・アキーラ)》!」

 それは、街を。人を。一直線に完膚なきまでに消滅させる。

 はずだった……


 アルルは、疾風怒濤。邪神の射線上に、すでに飛び込んでいた。

 その脚力だけを見ても、驚嘆に値する事なのだが。兎に角、攻撃を防ぐという事にのみ一意専心し、それだけに集中した結果。


 邪神の動く様だけを見て、予測し、素早く行動に移し。先回りをしたのだ。

 単純かつ、常人離れした身体能力あっての離れ技である。


 闇の波動は、光輝く盾によって解消(キャンセル)


 アルルは、着地と同時にまた駆ける。

 邪神は首を90度曲げて、闇の波動を撃つ。

 それにも追いつく小さな英雄。

 今度は、体を大きく逸らし、真後ろに放つ。

 そこにも追いつく。


 小さな英雄は、神経が研ぎ澄まされて、もう予測の範疇を超えてきている。

 もはやそれは、予知に近い。


 三度、四度。

 闇の波動は悉く、防がれる。

 同じことが繰り返され。

 アルルもただ防ぐ。


 しかし、ここで徐々にだが、変化が生まれてきていた。

 邪神の体が、段々と変わってきているのだ。

 邪神は、アルルと同じく。目的を一つに絞って、それだけを渇望するあまり。クラスチェンジを果たす。


 邪神レメギスは、破壊神へと種族分岐(クラスチェンジ)の権利を得て、それを行使したのだ。


 破壊だけに、全てを賭けた存在に成り上がった。

 思考も、意識も全て。

 破壊衝動に変換させたが故に。破壊神として、生まれ変わる。


 体の形態変化がどんどんと進む中、撃っては防いでの攻防も並行して行なわれていた。


 アルルは、その邪神の変化に気づいてはいるが、防ぐのみで対処はできない。

 邪神の手や足は、四つん這いの状態から、木が根っこを生やすように、地面と融合していっている。

 頭と体の境目が、どんどんと曖昧になっていき。羊と鬼を混ぜた様な相貌は、口や鼻が前に突出してきていて、狼の(あぎと)の様にも、大砲の発射口の様にも見える。

 二つあった目玉は、一つに混ざり不気味さをさらに増幅させた。


 それは、城に設置された巨大な鉄砲の様にアルルには映る。

 全身で、破壊だけを追及した存在なのだと。そう思わせる迫力があった。


 そこから放たれる、闇の波動も破壊力が上がっている。

 全てを解消(キャンセル)するはずのアルルの盾が、少しだが欠けたのだ。

「ーーっ!?」

 驚きを隠せないアルル。


 破壊神は大地に固定されているので、二足歩行だった時の様な、狙える角度は限られている。

 しかし、それを犠牲にして破壊だけを求めた結果。解消妨害(インタラプトジャマー)を獲得。

 アルルの盾ーー全てを解消(キャンセル)する効能。を、阻害する効能を得たのだった。


 それ故にアルルの《遠き理想と英雄の盾(ノーウェジ・アウッド)》は、徐々にだが破壊されていく。


「ぐっ……マジかよっ」

 アルルの中で、焦りが積み重なる。じわりじわりと。

 

 破壊神は、もはやニヤリともしない。そんな意識をも捨て去ったのだ。

 ただただ無機質に、闇の波動を撃つ。

 力を溜めて。

 闇の波動を撃つ。


 アルルはそれを先回りして防ぐ。

 その度に、エネルギーの塊のはずの盾は、徐々に少しづつ欠ける。そして、ひび割れていく。


 もう何回目の攻防か分からない。

 発射しては、先回りをして防ぐ。

 それに比例して、焦りもアルルをじわりじわりと追い詰める。


 ーーくそっくそっくそっ! このままじゃジリ貧じゃないか。

 未だ雨が止まず、泥水の中を泥だらけで走り回るアルル。

 時折、泥に足を取られそうになり。挫けそうになるアルル。


 しかし挫けて諦めたら、確実にこの街は滅ぶし。

 もしかしたら国にも及ぶかも知れない。

 アイーニャや、カツサムやミカ。猫のマーコ達の顔が浮かんでは、アルルは奮い立つ。


 瀕死であるにも関わらず。

 アルルは、失いたくないという精神力だけで戦っているのだ。

 それが何を意味するか。は、この時の小さな英雄は、まだ気付いていない。


 ーー駄目だ。駄目だっ! このままじゃ! ……どうする? 逃げる? 無い! それは無いぃ。苦しい……、どうすれば。くそっ! ぁぁぁあああ“……


「あぁぁぁぁぁぁぁっーー」

 アルルは、無意識に叫んでいた。もはや、それは慟哭と呼ばれるものに近い。

 その瞬間……

 

「全・宇宙っ! イ・ナ・ズ・マァー()ぇりぃぃぃぃファイナルー!」

 と、唐突に巫山戯た声がして。黒い何かがまるで流星の様に、破壊神の頭だった所に突っ込んだ。

 否、空中からの飛び蹴りを喰らわした。

 

 ()()は、かなりの威力だったらしく、破壊神の頭部を貫通して、地面につき刺さる。

「アハー、ごめんなさいアルルさーん。ちょっと遅れちゃいましたネー。アハハー」


 アルルもよく知る、その赤髪の吸血姫ゾンビは、片足を地面にめり込ませたまま、呑気に笑った。


 迷探偵ルビー=ペインバッカー。

 アルルは、すぅっと胸が軽くなるのを感じる。

 無意識に笑みが溢れた。


 破壊神の頭部はもう再生しつつある様だが、次弾の闇の波動を撃つには至っていない。再生中には、力は溜められない事を示唆している。

 これは、アルル達には朗報だろう。

 だが、それも。アルルとルビーとの、邂逅の余韻に浸らせてくれる程では無い。


 ルビーの登場などお構いなしで、また闇の波動を街に向け撃つ。

「っのおぉ!」

 すかさずアルルは、それを防ぐ。


「ワハー、アルルさん何そレー? カッコ良さゲー」

「ゾンビ! ーーこの盾は、どんどん崩れるっ! ーー防ぐからそっちでどうにかやれないかっ!」

 数十m離れたルビーに、アルルは大声で。しかも、次弾に備える為、説明も詳しく喋れない。


「アハー、了解ー(ラジャー)了解ー(ラジャー)!」

 ルビーはすぐにアルルの意を汲む。

 またアルルは、自身も気付かず口角を上げた。


 ーー不思議だ……体が軽くなってる。

 体はボロボロで、瀕死の状態。

 それでも、力が湧いてくるのをアルルは感じる。

 

「まだ、やれる」

 それだけを、ぼそっと呟き破壊神を見据えて、次の動作に入った。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ