第二部 2章『陰に日向に、人たるは何ぞや』005
屋敷の一階部分で、暴れまくるカツサムとルビー。
カツサムに、霧状になって纏わり付くルビーは、何故か壁やら柱やらをも破壊していく。
壁は穴が開き、柱は折れ、窓は割れて、屋敷内の人々はもはや逃げまどっていた。
屋敷自体は、中央に中庭がある作りで三階建て。中庭をぐるっと囲むように建築されている。
カツサムはそこを、千鳥足でぐるぐると回り、同時にルビーによる破壊も巡って行く。
「くぅぅ、どこなのら〜、悪は〜! どこ〜」
「アハー、もっとあっちの方ですヨー」
「そうか〜」
逃げ惑う人、壊される屋敷内。ひっちゃかめっちゃかになっている。
ルビーは、柱や壁を破壊する事で、屋敷内の者に警鐘と、自身達の証拠隠滅を目論んでいる様ではあるが、上手く機能しているとは言い難かった。
と、そこで若干の揺れが、屋敷内に広がる。
カツサムとルビーはそこで立ち止まリ、辺りを見回す。
「アハー、今揺れましたカー?」
「揺れ〜? あぁ、なんか世界が揺れてら〜……あ?」
違和感は現実に。
屋敷内が大きく揺れる。
そして、通路や床がどんどんとひび割れていく。
まるで下から何かの圧力でもかかっている様に、盛り上がりが広がっていった。
「アア、なんかやばそうですネー」
危機を察知したルビーは、霧状態を解除して、カツサムを掴み翼を展開。
そのまま、近くの大窓を破って空中に離脱する。
滞空しつつ、自分達が先ほどまで居た、屋敷を観察する二人。
カツサムは、ルビーに襟を持たれて連れて行かれた為、現在は詰まった前襟によって、首が絞められて宙吊りの様な形になっていた。
「る、ルヴィィ〜! く、くるしっっ」
じたばたと現状を訴えるカツサム。
「アハー、ごめんごめんカツー」
ルビーは気付き、カツサムの胴を持つ。
そして、改めて二人で、屋敷を見遣る。
屋敷の真下から、得体の知れない巨人が這い出して来ているのを。二人は確認した。
カツサムは酔っているので、正しく認識はしていないだろうが。
その巨人は、今生まれたと言わんばかりに咆哮を上げて、両手を水面でもがくように振ります。
屋敷はすでに、全壊しそうな勢いだ。
ルビーにより殴られ気絶した者は、当然助からないし。逃げ惑っていた者達も、巨人にどんどんと潰されていく。
ルビーは内心歯噛みしたが、この結果は誰にも予測できたものではない。
「アルルさん……は、心配ですが……ひとまずはミカか」
ルビーはこのままだと、ミカが寝ている所まで被害が拡大する恐れを感じて。
「カツー、ミカを見に行きまショウー」
「あえ〜?」
状況がいまいち飲み込めない、カツサムの間抜けな返答を無視して、ルビーは急ぎミカの元に。
そして、この騒ぎの中(屋敷の倒壊する音、巨人の咆哮)呑気に寝息を立てるミカを見て、ルビーは一応の安堵をする。
「アハー、ここからどうしますかネー」
「やばっ、吐く〜っ! おえっ」
地面に着くなり、茂みに胃の内容物を吐瀉するカツサム。
急上昇に、首絞め、急下降と、流石に酔っ払いのカツサムも限界だったのだろう。
「うふ〜、気持ち悪い〜。おぷっ」
そのまま寝転がる。
「アハー、取り敢えずカツミカを、アイーニャの所まで送らないとカー。危なそうだしここ」
ルビーは、アルルの事を考えたが、アルルよりはカツサムとミカの方が、危険に近いだろうと判断して、二人を抱えて一旦宿に戻る事に決めた。
「アルルさん……きっと大丈夫ですよね……だってチート主人公ですもんね? ね、アルルさん?」
誰もいない空間にそう呟き、ルビーは二人を抱えて全速力で飛んだ。
アルルは、崩れゆく屋敷と、咆哮を上げ続けながら、外に出ていこうとする邪神を見ている。
全長で100mはあるだろう邪神レメギス。そのみじろぎ一つとっても、人家などはすぐに破壊できるだろう。
アルルでも、それ位は見てわかる。
「カツさんやゾンビは、上にいるのか……?」
一緒にここの上空まで来たのだから、上に居てもおかしくは無いが。
そしてもし、こいつが街中で暴れたら。
そこまで考えて、ようやく小さな亡国の英雄は、気付く。
こいつは倒さないといけない。
すでに全身まで顕現し終わった邪神は、上半身は屋敷上部を突き抜け。
下半身は地下方向に突き抜けている。
アルルは、上から落ちてくる瓦礫を、ぱっぱと手で払って邪神を見据えた。
こんな巨大なモノをどうすればいいのかなんて、アルルには分からなかったが。分からないなりに、突撃するしかないと。
アルルは突っ込んでいく。
力一杯に。
アルルのいる地下一階部分では、邪神の大腿部あたりがちょうど見える。
そこ目掛け、アルルは全力で拳を振るう。
拳は邪神の大腿部に刺さり、そのまま勢いを失わず、1m程の範囲を抉り吹き飛ばす。
「やったか……?」
アルルの身体能力に依存したパンチは、確かに邪神の防御力を遥かに上回っていて、かなりの部分を抉り飛ばしはしたが。
そもそもの体積比が、アルルと邪神で違いすぎる。
その後の、邪神レメギスの悲鳴の様な雄叫びにより、痛覚は所有していて。そこそこ痛かったのだろう事は、見てとれた。
しかし、抉り取った部分は、急速に再生する。
「……っ!? くそっ、戻るのかよ! だったらー!」
アルルは、ずるいと内心思いつつ、拳を連打した。
人の身ではあり得ない、一撃必殺の猛連撃。
ずるいと言うなら、本来ならアルルの方ではある。
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉおおん!」
腹の底に響く、雄叫びを上げる邪神レメギス。
ーー効いてはいる! ならもっとっ、もっとだ!
アルルの猛攻に、邪神の大腿部は、再生が追いつかないかの様に、どんどんとダメージを与えていると思われたが。
邪神も黙ってはいない。
自身の腕を振り下ろし、何やら下で攻撃しているらしいモノに反撃をする。
側から見れば、地面にただ拳を突き立てただけに見えるだろう。
アルルは、その邪神の拳をジャンプし躱す。攻撃していた大腿部の動きで、何かが上から来ると、察したからだ。
そのちょっとの間隙で、削ったはずの邪神の大腿部は、もう再生している。
「だから、ずるいってそれ!」
アルルは、栓なき事を言って。着地と同時に、振り下ろされた邪神の拳。その手首部分に、今度は照準を合わせてパンチを繰り出す。
深くめり込んだ、そのパンチだったが。邪神はまたも雄叫びを上げるだけで、腕に乗ったアルルを振り回す。
「うおっ……!」
空中に放り出されるアルルは、難なく着地するが。
そこは、もう屋敷内ではなく。広い敷地内の、中央あたりだ。かなりの距離を、飛ばされてしまった。
と、両者の間に間隔ができた事で、邪神レメギスは初めてアルルを視認するのである。
「ぐぎゃぁああああーーーー!」
完全なる怒りを含む慟哭。
そして、自身の復活する要因と、目的を瞬時に理解する邪神レメギス。
ここに、小さな亡国の英雄と、堕とされし古き神が相対する。
邪神レメギスは、直ちにアルルを危険な敵だと認識し、その邪悪な瞳で睨め付け体をゆっくりと起こす。
100mもある巨体が、アルルの方向に向き直るのだ。
その恐怖は、常人であれば到底耐え得るものではないが。
しかし、アルルは平然と邪神に真っ向から対峙した。
「再生とかずるいって……」
どうすればいいのか、未だ考えつかないアルルだったが。
ーーこいつは街に出してはいけない。
ただそれだけを思い、邪神レメギスを睨むのだった。




