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第二部 1章『陽光あたらずんば、貴族足り得るか』018



 武装している男達は、仲間がどんどんと倒されてはいるが、それにはお構いなしと、特攻をかけている。

 普通は怯んだりしそうなものなのだが、まるで恐怖だけが取り除かれた様に、一心不乱にアルル達を攻め続けていた。

 そして、近づくと分かった事だが、非武装の男達は劇場で遭遇した繰り人形だ。

 人の動きではない。


「アルルさーん、人形も混じってますネー。武器を持ってない奴ですネー」

 ルビーはアルルにそう声をかける。

 その間、武器を持った男の攻撃を避けつつ、確実にうなじのあたりを手刀で一発。昏倒に追い込む。

 人形と判別がついたものには、変形させた鉤爪状の手で容赦なく木片に還す。


「ああ、そうだね。分かってる!」

 アルルも気付いているらしく、武装男には優しく掌底。人形には、気兼ねなく拳を振るって、弾いてばらばらにしている。


 制圧するのに最早、数分も掛からなかった。


 瞬く間の出来事に、カツサムは札を自身の正面に構えたまま固まっている。

 アルルとルビーは、ふぅと一息ついて、辺りを見回す。

 人形を操っている者は、果たして気絶に追い込んだ者達の中にいるのかどうか。


 ひとまず他の人間の気配は、無い様に感じる。

「お〜い、お前らぁ。くぅぅ、仕事が早いな〜」

 硬直から解けたらしいカツサムは、札を懐にしまいつつそう言った。


「アハー、いやぁでもそうカー。カツは連邦の捜査官だったんですネー」

「いや〜、はは……隠しててすまん! 仕事の性質上、中々打ち明けられなかったんだ……すまん」

 カツサムは改まって、頭を下げる。


「いや、カツさん頭を上げてください。色々事情はあるんでしょうから」

「アルル……すまん」

「アハー、じゃあミカも連邦捜査官なんですカー?」

「ああ、いや。ミカは違うんだ……まあ、それに関してはややこしいから今は説明を省くんだが」

「アハー、まあいいですヨー。色々謎も解けましたしネー。アハハー」

 ルビーは楽しそうにそうころころと笑う。


「なぞ……? え、何が謎なの?」

 アルルは不思議そうに聴いてしまった。

「アハー、まあカツのお金の出所とか、謎の正義感とか、意外と何もかもですかネー、アハハー」

「おおい! 意外と信用されてなかったんだな俺、あはは。まあこっちも身分隠していたし、しょうがないよな」


 アルルはどんな所が謎なのか、首を捻った。しかし、話は続く様なのでそのまま静観に入る。


「しかし、お前らほんとに何者なんだぁ? ……まぁ、利用している形になった事は謝る。すまん」

「アハー、全然いいですヨー。こちらもそれなりに楽しんでますシネー。しかし、連邦捜査官というのは、どういったモノなんでスー?」

「ああ、そうだな……っと、その前にここの処理を済まさなきゃだな。ちょっと仲間に連絡して、ここを処理してから隠れ家(セーフハウス)で話す……で、いいかな?」


 アルルもルビーも別段、その提案に異論は無いので首肯する。


 それからカツサムは、仲間とやらに連絡するべく何処かに行った。

 数分の時間を有して、帰ってきたカツサムは「この場は取り敢えず、後任に任せたから。俺らは隠れ家(セーフハウス)に戻ろう」と言ったので、一行はそのまま隠れ家(セーフハウス)へと戻る。


 戻ると隠れ家(セーフハウス)は燃えていた。


 轟々とした炎が黒い煙を吹いて、丸々一棟を灰燼に帰そうとするが如く。

 両隣の建物の間隔は無いようなものなので、すでに燃え移っていた。

 夕食を終えただろう、野次馬が人だかりと化している。


 勿論、消防車などあるわけは無い。

 だが、火事に対処する人々はいるようで、それらしき十数人が頑張って動いているのが、視認できた。


 アルル達は野次馬の群れの中で、その光景を見ている。

 ある者は氷結させる魔法(白い吹雪が出ている様に見える)で、延焼を食い止めているし。

 またある者は、延焼を防ぐため周りの建物を大木槌で崩した。

 三人から四人を、ひとチームとして数組に分かれて、火事を食い止めるために頑張っている様だ。


「まじかぁ……ここの情報が漏れてる? いや……くぅぅわかんねぇ」

 カツサムはぶつぶつと独り言を言いながら、難しい顔をしている。

「アハー、中がどうなっているか分かりませんが、拘束していた男が逃げた可能性と。違う誰かによって男共々、証拠隠滅の可能性も……陰謀の匂いがしますネー。アハハー」

「くぅぅ……しょうがない、ちょっとお前らのとこの宿に一旦行っていいか? ミカにも事情を話さないとだし」


 アルルとルビーは、またまた異論が無いので首肯した。

 何も言うことがないし、これからの段取りも特に思いつかない。アルルは、悪い癖の一つ、流れに身を任せるが発動する。



 尾行に気を付けながら一行は、街をぐるっと遠回りをして、確実に付けられてはいない事を確認してからアルル達の宿屋に戻った。

 そして、集まったのはアルルの部屋である。


「ええぇ〜、うっそぉ〜!? ーーえっ? あそこ燃えちゃったのぉ〜。ええ〜どうしよう……」

 カツサムより隠れ家(セーフハウス)の現状を聞き、ミカが叫ぶ。

 ミカの叫びに、アルルの膝に乗っていた猫のマーコが、びくっと驚いて耳を立てて顔を上げた。が、やがて何事も無かったように再びアルルの膝でまどろむ態勢に戻る。


「いや〜そうなんだよミカー。どうしようなぁ」

「カツ君、どうしようじゃないよ〜。ええ〜、ほんとどうしよう……」

 家が燃えたので、やはりそれなりに衝撃は強いだろう。


「アハー、まあそれよりも……事態はもっと差し迫った事になっていると思うんで、気にしない事ですヨー、ミカー」

 ルビーはかなり、他人事のようにそう言った。

「ルビー、簡単に言わないでぇ〜! そう言うのヤダッたぁ〜。ええ〜叔父さんになんて言おう……」 

 どうやらあの物件は、ミカの叔父さんの持ち物という事らしい。

 そしてカツサムは、自身の仕事内容を義叔父さんには、稼げない傭兵という事で通しているらしく。それ故に、その義叔父の優しさで、お借りしていたのだと言う。

 ーー叔父さんも気の毒だな……、姪っ子夫婦に貸したら全焼して帰って来る羽目に。


 アルルは猫のマーコを膝に乗っけたまま。近くのアイーニャに、お茶を頼む。

「はーい、アルル様ぁ。茶葉は、リーフ、カシオギ、ビレンと揃えたんですけど、どれが良いですかぁ?」

 アイーニャは、アルルから貰ったお金で茶葉の種類を増やした様だ。しかし、アルルにはどの種類も聞き馴染みは無く、またどれでも良かった為、一番最初のリーフと答える。


「アイーニャの出してくれるお茶は、いつもとても美味しいよ。ありがとう」

 褒め言葉を添えて。

 アイーニャは顔を赤らめて、親指をぐっと立てる(あれ? あんなに嫌悪してたはずの親父(シュバルツ)のヤツじゃん、やはり染み付いているのか?)。

 そして、軽い足取りで台所へ向かった。


 兎に角、燃えたものはしょうがないとカツサムはミカを宥めた。

 そこから、連邦捜査官とは。という、話題に移り変わる。


「連邦捜査官ていうのは、共和国加盟の五つの国。パエル・ダート、ウシロロ・ダート、サイ・ダート、イヤウア・ダート、ハーロ・ダート。この五つの加盟国が、各々を監視したり、治安の安定化を図る為に共同で設立した組織なんだ。権限としては、超法規的な捜査権、逮捕特権を持っている」

 カツサムはそれだけを一息に言って、アイーニャが出してくれたお茶を飲む。隣のミカが「カツ君、かっこよぉ〜」と、合いの手を入れる。


「アハー、なるほど。カツはその組織の命で、ここら辺での調査を始めたんですネー。では、この国……ウシロロでしたっけ? ーーこの国は何もしてないんですカー?」

「おお、ルビー。いいとこつくなぁ。実はそこらへんも合わせて調査してるんだよ。俺らは超法規的に越権行為が許されている分、各国の軍や政治家連中には嫌われ者でさぁ……まいっちゃうよ。ははっ」


 なるほどなぁなるほどなぁと、ルビーはしげしげと頷いている。

 そして、徐に手をぽんと叩き、何かを閃いた様な仕草をして一同の注目を集めた。


「アハー、わかっちゃいましター。ワタシ、わかっちゃいましター」

 何が分かったと言うのだろうか、それぞれで固唾を飲んで、続く言葉を待つ。


「宗教と麻薬。麻薬と国。蠢く陰謀。……そこから導かれる答えは一つ!」

 左手を腰に、右手を高く上げて人差し指で明後日の方向を指して。

 ルビーは高々に言う。

 それはもう自信に満ち溢れる声だった。


「共和国連邦は、近々大々的な国同士の戦争へと発展するでしょう! ーーと、真紅の探偵ルビー・ペインバッカーは推理しまーすヨー!」


 マーコは耳をそっと立てただけで、アルルの膝で再び眠りこける。

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