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第二部 1章『陽光あたらずんば、貴族足り得るか』016



 くすぐりの刑が一通り終わったのだろうか。男はぐったりとしている。

 口に巻かれたハンカチは、男の唾液でべっとりと濡れていた。

 嬉々としてくすぐりの刑を執行していた、ルビーとミカは今。台所付近でお酒だと思われる飲み物に口をつけて、お互いの勲等を称え合っている。


「で、どうするのがいいんだ?」

 お茶を啜って、一息ついたカツサムはそう切り出す。

「はは……そうですねぇ。ーーおいゾンビ。もう遊びは終わったのでいいんだよね?」

 アルルは台所付近の、酒のみ女子に聞いてみる。


「アハー、そうですネー。遊びはここまで。本題と行きますカー」

「遊びだったんだ……」

 カツサムはルビーの言葉に、一応のツッコミを洩らす。


「実は……この男の拠点と思われる場所を、ボク達はもう特定してるんです」

「え! そうなの? ……えっ、じゃあ、この拷問の意味は……?」

 おずおずと告げたアルルに、口に含んだお茶を吹き出しそうになりながら、カツサムは聞く。


「アハー、楽しい時間でしター。ねぇミカー?」

「めっちゃ楽しかった〜。長い時間よく頑張ったよね〜、この男も」

「いや……いいけどさ、まあ。でも最初に言ってくれたら良かったのに」

 カツサムの最もといえば最もな意見。


「そうですよねぇ……ゾンビに何か考えがあると思って……。いや、言い訳ですね。一応、破壊した建物から逃れた後、隠れ家付近(ここ)でこそこそとしてる、この男を見つけたので、逆に尾行したんですよ」


「なるほどなぁ……くぅ〜、尾行に気づかない俺っ」

「ええ〜大丈夫だよカツ君! ミカも気付かなかったし」

「いや、ミカと一緒にするなよぉ」

「はぁ!? 何それ! 酷くない? ねぇカツ君!」

「あぁっ、やっ嘘。嘘だよミカー、ちょっと口が滑って……」

 カツとミカはまたぞろ夫婦喧嘩を始める雰囲気を醸し出す。


「ま、まあまあ。えぇー、それで……この男が尾行を終えて何処に帰るか。それを見てから気絶させて帰って来たって感じです」

「アハー、その通りー。アハハー」

 強引に話を続けたので、夫婦喧嘩の醸し出された雰囲気は鎮火したようだ。

 ーーよかったぁ。強引に話を続けるのもアリだな。


「な、なるほど……うーん。じゃあこの男はどうする?」

「アハー、このままでいいんじゃないですカー? 仲間に連絡取られても面倒ですシー。かといって口封じに殺しマスー?」

「いや、流石に……なぁ?」

「だからミカはグロいのダメだってば〜」

「カツさんに同意です」


 各々の意見を述べた所で、この男は取り敢えず隠れ家(セーフハウス)に勾留しておく事が決定された。

 そして、今度はこちら側が攻勢に出るという事(男が帰ろうとした場所に乗り込む、もしくは調査)も同時に決まる。


 流石に危ないであろう、という意見が出たのでミカについては、アルル達の宿。そこにいるアイーニャと一緒に居てもらう事となった。



 一行はミカを宿に連れて行って、アイーニャにお願いをして。などと、バタバタとしていたら時間は夕暮れ時を回る。


「アハー、すっかり暮れゆく紅色の空ですナー。アハハ」

「誰のせいだと思ってるんだ。ゾンビがミカさんとアイーニャとマーコと、変に戯れあってなかったらもっと早かったよ」

「アハー、アルルさんはツレないですネー。女子が三人と一匹集まれば、何かと楽しんじゃうんですヨー」

 ひたすら無駄と思えた時間に、アルルとカツサムはまたぞろお茶の一杯を頼んでしまって、ひと休憩。それも良くは無かった。


「まぁ、いいじゃんアルル。ミカがあんなに楽しそうなのは、最近だと見なかったからなぁ。ある意味感謝かもな……」

「そうなんですね……?」

 最近まで。その言葉が頭に残ったが、アルルはロングソードを身に付け、いつでも出れる様にする。


「そういえば剣って、持っててもいいんですよね?」

「ん、ああそうだな。一応、傭兵ギルドに登録していたら問題はないんだが。でも日中は、国の警ら隊にいちいち身元確認されるから。面倒臭いんで、よほどでない限り普通は置いて行く」

 カツサムも準備は万端の様だ。一番最初に会った時の、傭兵ルックに身を包んでロングソードを腰に差す。

「アハー、ではでは行きますカー」

 小さな英雄に夜明けのカツサム、赤髪の吸血姫ゾンビはいざ目的の場所へと赴く。


 果たして何をしに行くのか。

 それは誰も決めていなかった。

 攻勢をかけるとは言っていたが、どんな事をするのか。または、どんな事をしたらいいのか。特に誰も聞かないし、言わない。

 アルルは宿を出た所で、夕暮れに沈む空を目を細めて見る。

 風が吹き抜けて、アルルの髪を優しく撫でた。

 ーー出たとこ勝負……って事でいいんだよね?

 

 宿屋の場所が少し小高い丘の上という事もあって、まだ残る太陽の光は若干アルルの目に刺さる。

 この世界で視力が落ちたら、眼鏡などの補助器具はあるのだろうかと。アルルはふと思う。思ってフッと笑った。

 本当に全く、これっぽちも緊張感が湧かない自分に。



 一行は人の視線に注意しつつ、若干遠回りをして目的の場所まで行く。

 遠回りをするのは、ルビーの提案だった。カツの顔はあちらに割れている可能性が高いので、撹乱の為だと言う事だ。

 撹乱になるのか? とは思ったが。真っ向否定する要素もない為、アルルとカツサムはそれに従う。


 実際にその場所まで着いたのは、完全に夜の帳が落ちた頃だった。


「あ、あれっ? こっからどうするって言ってたっけ?」

 カツサムは思い出したかのようにそう言った。

「アハー、そんなの決めてませんヨー。アハハー」

 行き当たりばったりもいっそ清々しい。

「と……突撃?」

 アルルはなんとなくそう口に出してしまう。

「アハー、いいですね! それで行きましょうカー。カツは一旦外で様子を見てて下さいナー。伏兵が居ないか隠れて見ててくれればいいですカラー。最初はワタシとアルルさんで見てきますヨー」

「お、おぉそうか。わかった! ……じゃあ、ちょっと屋根の上にでも登るかな」



 アルルは目的の建物の前まで来て、足を止める。三階建てのその場所に(この街ではおおよそ三階建てが推奨させられているのか、ほとんどが三階建てである)。

 扉の上部には看板らしきものが吊ってあって、金物と書かれていた。どうやら金物店であるらしい。

 ーーフライパンとかが売っているのだろうか。と、そんな事を思いつつ、扉を開けて中に入るアルルとルビー。

 見渡すと、確かにフライパンやその他調理器具や、鉄を加工して作られたものが散見される。


「ああ、悪いね。今日はもう店仕舞いだよ」

 扉の音で気づいたのか、奥から店主らしきオヤジがやって来た。

 少し小太り気味で、頭は禿げ上がっている。


「ああ、そうですか。すみませっ」

 アルルの言葉をルビーは右手で遮り。

「アハー、帰ってこないお仲間でも、待っているんですかネー? 崩れた劇場の?」

「なっ!?」

 小太りのオヤジは驚愕する。そして一瞬の逡巡。しかし、取り繕う事は無意味と、近くのカウンターに隠していたらしい剣を取り出した。


「貴様らは何者っ、だゃっはっ!?」

 ルビーは素早く動いて、オヤジの顎を軽く小突く。

 ぐりんとオヤジは白目を剥いて倒れる。

 が、どんと倒れる前にルビーはオヤジを掴んでゆっくりと、音を立てないようにその場に寝かした。

 どんどん世界に慣れていってるなと、アルルは見てて思う。

 自分はどうだろうかと振り返るが、流されてばっかりだ。

 ーーオレも何かを積極的に、しなくてはいけないんだろうか……。そんな思考が少しだけ芽生える。


「アハー、まあ音は立ててもいいんですがネー。アハハ」

「うーん、急に人を殴るのを注意したものか。そっちの気遣いの方を褒めるべきか……悩む」

「アハー、悩む必要ないですヨー? 普通褒めるべきでショウー」

 ワタシは褒められて伸びるタイプなんですヨー、などとルビーは言ったが、それは無視をした。


 オヤジが寝っ転がっている所より奥に廊下が続いている。店内自体がそもそも薄暗いが、その先はもっと暗くなっていた。

 奥へと廊下を渡る二人。

 そこには二階に行く階段と、地下に続く階段がある。どちらにしようかという話になったが、ルビーは断然地下だと言い出す。


「その根拠は?」

「アハー、悪いやつは大体地下に潜るでショウ?」

「え、そうなの?」

「ハッハッハー、簡単な推理だよアルルくん。アハハー」

 ルビーは人差し指を立てて、チッチッチと右に左に振って答えた。

「……そのー、よく分かんない探偵ノリみたいなやつ何なの?」

 ーーイラっとするわぁ。


 そんな掛け合いをしつつ、二人は地下に続く階段を降りて行った。

 

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