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第二部 1章『陽光あたらずんば、貴族足り得るか』015



「アルルさん、カツ達追うのは追うんですが……少し様子を見て行きましょうカー」

 人混みに紛れ、カツとミカを追って隠れ家(セーフハウス)を目指している途中。ルビーはそんな事を言うのであった。


「ん? ……なんで?」

「アハー、ワタシの見立てではカツとミカには、多少の尾行がついてる筈でスー。その割合は高いと思ってますヨー」

「尾行?」

「アハー、そうそう。あそこまでお膳立てて口を封じようとしてたんですヨー? 念の為、見張りが何人か。もっと言うとそもそもが誰かに付けられていた可能性も高いデスー」

「え? ……そうなんだ。へぇ……ん? じゃあカツさん達危なくない!?」

「エェエェ、そうですね。だから建物を破壊して貰ったのもありますヨー」

 アルルとルビーは、若干小走りしながら会話をしている。しかし、いまいちルビーの言わんとする意図を図りかねて、アルルは足を止めた。


「アハー、仮に見張りが何人か居たとして。……カツとミカが出てきて、すぐに建物が謎の倒壊。どうすると思います?」

「んー……分散する?」

「アハー、取り敢えずはそうするでしょうネー。それに尾行してすぐに行動を起こす事は、あまり考えられないですネー。居場所を特定できたら、準備した後にやればいいでスシー」

「なるほど……とすると、様子見るって言うのは、尾行してる奴を尾行する為?」

「正解! アハハー」

 人差し指をびしっとアルルに向ける。

 ーーくぅぅ、なんか腹たつー。



 カツサムとミカは隠れ家(セーフハウス)に戻って来ている。

「ね〜カツ君。アルル達大丈夫かな〜。すごい音がしたけど、あれってやっぱり建物が壊れる音なのかな」

「う〜ん、多分そうだろうな。でも、だとするとあの一瞬でマジで一棟壊しちゃうって事だもんなぁ……すげぇなぁあいつら。まるで伝説の勇者か英雄だなあいつら」


「ねぇカツ君。もしかしたらアルルとルビーなら……」

「あぁ、ミカ。もしかしたらあいつらなら……」

 カツとミカはソファーに座ってお互いを見やる。そして、しばらくの沈黙。


「あっ! そういえばお茶っぱ買ってきたの〜、カツ君飲む〜?」

 ぱんと手を叩きミカは立ち上がった。

「え、じゃあお願いしようかな。頼むよミカー」

「は〜い」

 楽しそうにミカはるんるんと鼻歌まじりに台所へ。お湯を沸かす為、薪に火をつける。どうやら薪に火をつける魔法をミカは習得している様だ。

 竈門に放り込まれた薪は、しばらくするとぱちぱちと音を立てて燃え上がる。


 カツサムはお茶が出来上がるまでの時間、一旦ここまでの事を整理しようと街の地図を開いて、テーブルに置く。

「う〜ん、ここが情報通りで……とすると、ここもか? ……う〜ん」

 ぶつぶつと思考を続けるカツサム。眉を寄せて指を顎にかけて険しい表情だ。

 鼻歌まじりのミカは、ついでに昼食の準備も始めた。


 程なくして、ここの隠れ家(セーフハウス)の扉が開けられて、アルルとルビーが入ってくる。

 そしてルビーは、謎の男を担いでいた。気絶はしている様だが……


「あ、おかえ……り。ええ!? 何その男っ!」

「アハー、カツ達を尾行してた奴ですヨー。見かけたので、取り敢えず気絶して貰いまシター、アハハ」

「ええっぇ、尾行!? マジ?」

「そうです、カツさん。本当です」

 丁寧にも、気絶させた後に口の中を探って、自害できる薬を取り除いてもいる。

「アハー、取り敢えず縄とかありまスー? この男が暴れないように……あ、あと猿轡(さるぐつわ)みたいなのもあるトー」


 猿轡はなかったが、縄はあったのでぐるぐるに縛って、口にはハンカチを巻く。


「ふぅ……しかし、こいつどうするんだ?」

 一息ついてカツサムは、そう皆んなに問いかける。

「マア、聞けるだけの情報を取り敢えず引き出しましょうカー。拷問デー、アハハー」

「ご、拷問!?」

「ちょっとやだルビー、ミカはグロいのとか駄目なんだからねっ! 全然無理なんだからそれは!」

 拷問という言葉をウキウキで吐いたルビーに、各々否定的な顔をする。

 言葉それ自体にパワーがありすぎて、反射的に拒否反応を起こした。

 拷問の仕方など、アルルもカツもミカも知っているとは思えないし、それに自分の部屋で拷問などされたら、堪ったものではないだろう。


「拷問なんて物騒すぎるってゾンビ。却下でしょ」

「アハー? そうですカー?」

「いや、駄目に決まってるだろルビー! そんな残酷な」

「そうよルビー! ダメっ、絶対ダメ〜」

 カツもミカも腕でバッテンを作って反対している。


「アハー、そうですカー。血とか出ないように、くすぐりだけの優しいものをと考えて居たんですガネー」

 ルビーはくすぐりの刑を考えていたらしい。

「えっ、なんだぁ〜。そういうのか〜、もうルビーったらそうならそうと言ってよ〜! グロくないなら、オッケ〜! なんならミカも参加するし〜。あはは、楽しそう〜」

 ミカは反転、この拷問にノリノリになった。


「なんだそれミカー、はっはっは。まぁ、部屋が汚れないなら俺も別に、否定はしないよルビー」

 隠れ家(セーフハウス)は一点、拷問賛成の流れに寄っていく。

 

「あぁ、いやいや。確かに想像してた拷問ではないですけど……逆にそれでこの男が、何か情報を流すと思いますか?」

 アルル自身も残酷なものでなければ、特に拒否をする理由は無いといえば無い。

 しかし今度は逆に、そんな生やしい拷問では、そもそも拷問をする意味すらない、と思っての意見を述べる。


「アハー、いやいやアルルさん。吐く吐かないじゃないんですヨー。一生に一度は、こういう輩を使って、笑い死にさせるまでくすぐりの刑をやって見たかったんですヨー、アハハー」

 情報云々ではなかった。ただ死ぬほど、くすぐりの刑をしたかっただけだった。


「いやっ、死なせたらダメだろ!」

「あ、大丈夫大丈夫。笑いすぎて死んだ人間は今の所見たこと無いからミカは」

 咄嗟に突っ込んだアルルに、被せるようにミカがそんな事を言う。

「ねぇルビー……ミカもこの男を使って、どこまでくすぐりに耐えられるやってみたい! すごく楽しそう〜」

 目を爛々と輝かせたミカとルビーは、お互いの手を高く挙げハイタッチをする。


『いや、なんだそれ』

 アルルとカツが綺麗にハモった。


 そこからの出来事は、気絶から覚めた男には最悪だった事だろう。

 赤髪の女と、栗毛の女がこちょこちょと薄ら笑いながら、両の手をわしゃわしゃとさせて、自分をくすぐりに来るのだから。

 その時には全身ぐるぐる巻きであった縄は、手と足に。そして体は、そのままソファーに括り付けられていて、くすぐるのにちょうど良い態勢にさせられていた。


 寄せては返す、波のような波状攻撃。ーー否、くすぐり。

 男はどうやら、くすぐられる事に耐性が無いようで、恐怖と共にその寄せては返す、くすぐりの荒波にぶるぶると体を震わせていた。

 口角に泡を吹いて白目を剥く。

 白目を剥いたら、少しの休憩が挟まれる。


 そして目が覚めたら、赤毛と栗毛の女の波状攻撃が再び始まるのだ。

 口をハンカチで縛られている為、その叫びは最小に収まっているが。本来、得られたはずの情報も、最小に収まっているのかもしれない。

 喋るから喋るからもう勘弁してくれと、聞こえなくもない叫びが聞こえたような気がしたが、それは誰の耳にも入ってはいなかった。


 赤毛の女と栗毛の女は、なんでそんなに楽しいのだろうという程、激烈に楽しんでいる。

 男の罪は如何程なのか。この罰ゲームは、それに釣り合うのか否か。

 誰もそれには答えてはくれない。

 楽しいような、苦しいような。そんな男の声が響くのみである。


 アルルとカツサムは、()()には決して立ち入るまいと、淹れられたお茶を啜った。


「そういえばカツさん。ここら辺は結構、天気は晴れが多いんですかね?」

「ああ、そうだな……晴れが多いというよりかは、天気が崩れにくいのが共和国連邦の特徴って方が的を得てる。まぁ、過ごし易いって言うのかな。いい所だよほんと」

「なるほど……いい所ですね」

「あぁ……そうだなアルル」


 ずずっと二人はお茶を啜る。

 昼下がりのライライローの街には、暖かく穏やかな風が吹いていた。

 外に干している洗濯物達が、それを体現しているかの様に、ゆらゆらと揺れている。


 そんな感じだった。



 

 

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