第二部 1章『陽光あたらずんば、貴族足り得るか』014
「アハー、まず第一に。こいつらは組織である。それも強固な組織でアルー」
ルビーは勿体ぶって、その真紅の探偵とやらの推理を披露していく。
「強固な理由として、この自害を見て欲しー。全く死ぬ事を恐れぬ死に際。間違えたらすぐに死ぬ! まさしく訓練された者の所業と見て間違い無し。アハハハー」
アルルは既に、聞くのを苦痛に感じている。
それと反比例するかの様に、ルビーは身振り手振り口ぶりまでが、大袈裟に芝居がかったものになっていく。先ほどの演劇に影響でも受けたかの様に。
ーー気持ちいいのか? 今、気持ちいいのかゾンビ?
「そして、夜明けのカツサムを知っていた事ー、などから鑑みるニー」
間を置いて、アルル、カツサム、ミカを順番に見た。
アルルはふぅと溜息をついて、頭をぽりぽりと掻く。カツサムとミカは、神妙な面持ちでルビーの答えの先を待ち望んでいる。
「麻薬との結びつきはさて置き、探られたく無い腹はある様ですネー。それはカツの慧眼に拍手せねばですヨー! パチパチー。訓練された組織である事。この男がすぐに死んでしまった事、そしてその後に何も追撃なりの行動が無い事。ここがかなりワタシ達に都合が良かったと言うべき所なのですヨー! ……ンッフッフッフー」
息を飲むカツとミカ。
「アハー、ひとまずこの建物を壊しまショウー!」
とんでもない推理もあったものだ。
『おお〜』
カツとミカは感嘆の声を上げる。
ーーどうゆう事? もしかしてオレだけが理解してない!?
「アハー、カツとミカは危ないから、先にあの隠れ家に行ってて下さいヨー。ここはアルルさんとワタシでやっとくのデー」
「おう、分かった! じゃあ、行くかミカー」
「は〜い、じゃあルビーとアルル、後でね〜」
「え? ……あ、はい」
何かが纏まったらしい事は分かったが、今だに状況について行けないアルル。
カツサムとミカは、瓦礫だらけの劇場を後にする。
アルルは自害した男の所へ寄って、手を合わせ黙祷をした。
「アハー、アルルさん真面目ですネー。危害を加えようとした奴ですヨー?」
「危害……そうかもしれないけど一応……ね。それよりどうするんだこれから? 建物を壊すって、まじで言ってるの?」
「マジマジー。このままここに居る方がリスクですヨー。この死体の説明どうするんですか」
「むっ……そうか。確かに警察にどう言えばいいのか」
「警察がいるかは分かりませんがネー。建物が崩れたどさくさに紛れれば、動き易いんですヨー。あとあとネッ」
ルビーは片目を瞑り、にかっと吸血鬼っぽい犬歯を覗かせる。
建物の破壊をどうするのか、ルビーは簡単に説明した。
ただ全力で壁を殴る。四方八方、殴りまくって倒壊の兆しを見せたら、アルルをルビーが捕まえて空に逃げるという、なんとも言えない作戦を説明した。
「なんだそれ……大丈夫か?」
「アハー、大丈夫大丈夫。試しに思いっきり壁殴って見て下さいヨー」
ルビーに促されるまま、アルルは壁を思いっきり殴る。
どごんと大きな音がして、壁が割れた。壊れ。ひび割れる。
「あ、なんか脆いんだねこの壁」
「アハー、さすアルですネー、クサー。それをもう頑張って、素早く色んなとこでやって下さいナー」
アルルは、頑張ってと、素早くと、思いっきりを、念頭に。殴っては移動してを繰り返した。
目にも止まらない速さで、この劇場は解体されていく。
アルルはなんとなく昔に行ったゲームセンターの、音ゲーと呼ばれる物を思い出し、少し楽しくなる。
画面上に表示されるアイコンを、流れる曲に合わせて目の前のボタンをタイミング良く押す。
そんな光景を思い出して、彼女との思い出の曲を頭の中にリフレインさせて、どんどんと壁を破壊していく。
そして、頃合いを見計らっていたルビー(背中には大きな翼が展開している)によって、体を掴まれ二人は上昇した。
三階建てらしい建物は、一階部分の凄惨な破壊に伴い、自重で倒壊していく。
そして、崩れ落ちる建物の中を強引に上へ飛ぶものだから、途中色々な物体がアルルの頭を直撃する。
「いてっ。おわっ口に入った。ペッペーーいたっ」
実際痛くは無かったが、反射で痛がってしまう。
アルルとルビーは見事、破片やらなんやかんやをその身に受けつつ、隣の建物の屋上に着地する。
そして、ものすごい音を立てて、さっきまで小劇場があった三階建ては、粉砕した。粉砕されたというべきだろうか。
着地してアルルはひやりとする。よく考えてみると、さっきまでのあの建物の二階と三階には人がいなかったのだろうか。そんな事が頭をよぎった。
一応、屋上からそっと下を見る。見ても分からない。ばらばらに崩れているからだ。
そして、ざわざわと人だかりが集まりつつあった。
顔を上げて座り込むアルル。
「アハー、アルルさんどうしたんデスー?」
「……二階とか三階に、人がいたらどうしようって思ってさ」
「アハー、飛んでる時一応見てましたが、大丈夫だと思いますヨー。人も見なかったし、およそ生活感のあるものは見てないですネー。恐らく、小道具の倉庫か何かでショウー」
ルビーの言葉を聞いて少し安堵する。
ついつい後先を考えず、ルビーの行動に乗ってしまう自分を反省した。
「で、ここからどうするんだ?」
「マア、あの感じなら野次馬に紛れつつ、さっと下に降りてカツ達を追いまショウー」
「え、いける? 誰かに見られたら、すげぇ怪しまれるし、危なくないか?」
「アハー、そこはまぁあの第四外区の塀を降りた時みたいに、さっと行けば意外と大丈夫ですっテー。混乱に乗じないと意味が無いですっテー」
と、言ったが早い。アルルの腕を掴んでルビーは、倒壊した所と反対の路地裏に飛び降りていった。さっと、アルルを連れて。
着地した時には、何故かアルルはルビーにお姫様だっこをされている状態であった。
飛び降りている最中、着地をスムーズにする為、ルビーが腕力で以って抱き寄せてたのだ。
ルビーの思い切りの良さはもちろんの事だが、意外と運動神経も良い事にアルルは面白くない顔をする(実際は、お姫様だっこの状態が気に入らないだけなのだが)。
華麗に着地を決めて、いざアルルを下ろそうかという所に。たまたま路地裏を通っていた女性に見られる。
「…………っ!?」
女性は急に上から人が降りてきたのだ。びっくりして固まってしまう。
しばらくの沈黙。
「アハー、もういきなりすごい音がするし、建物が崩れるし慌てて飛び降りてよかったネー、姫。アハハハー。危ない危ない。怖かったカイー姫?」
ルビーは、アルルを姫呼ばわりして、かなり無理筋な状況設定を作った。
姫を助ける、王子とかの設定だろう。
ーーくそっ、くそっ。なんだそれは!
ルビーの腕の中でじたばたするアルル。ただただ恥ずかしい。
「怪我でもしてたら大変ダー。ささ、姫。早く病院へ行かなくてワー」
ルビーはアルルを抱えたまま、女性が混乱のうちにその場を離れた。
混乱を誘い、有耶無耶にする事には成功したと言える。
大通りを出たら、野次馬なりなんなりでそこかしこに人が大勢集まっていた。
これを好機とアルルとルビーは、人混みに紛れる。
ーー駄目だ。ゾンビが飛び降りる時には良い事は起こらない。
アルルは、隣のルビーの肩をぱんと叩く。恨みがましい目を向けて。
アハー、などと笑って誤魔化すルビー。
そして二人は、先に出たカツサムとミカを追って。
隠れ家へとその足を向ける。




