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第二部 1章『陽光あたらずんば、貴族足り得るか』010



 ミカはこっちだと、換金所の方向へアルルを誘う。

 時刻は昼を過ぎた頃だろうか。道行く人々はここに着いた頃よりも、若干少なくなっている印象だ。


「ミカさんはここの街に詳しいんですか?」

 何となくアルルは、思っていたことを口にする。アイーニャを担ぎ込んだ宿は、ミカの誘導によるものだし、今目指す換金所も同じだ。


「ああ〜、まあ実はねぇ。隠す事でも無いんだけど。一応、……ここの街の出身なのミカ」

「ああー、なるほど。どうりで詳しい訳ですね」

「まぁね〜。と言っても、家出中なの。あっはっは〜」

 あっけらかんとミカは笑う。

「家出中なんですねー……なるほどぉ」

「ちょっとアルル。そんな深刻にならないでぇ。ミカは全然気にして無いんだからぁ」

 別段、深刻になったつもりはないアルルだったが、ミカにはそう見えたのだろう。


「きっと……色々ありますよねー、皆」

「そうなのそうなの! 人生色々よね〜。ミカはカツ君と居れるだけで幸せだけどね〜、あっは〜」

 これもきっと夫婦の形なのだろう。アルルはふうっと息を吐いて、自分が歩くはずだった夫婦の形を思い浮かべる。

 しかし、思い浮かばない。経験できなかったからに他ならない。何故なら、この世界に転生してしまったからだ。


「あ、そうだ。換金なんだけど、一枚とかにした方がいいってカツ君に言われてんだった〜。何十、何百も一片に換金は難しいって〜」

「なるほど……そういうもんですか」

「うん、あとまぁ。無闇にトラブルを起こすのも避けたいしね」


 アルルは無事に換金を終える。

 言われた通りに、一枚を見せて換金をお願いをしたが。最初、店の人間は久しぶりにこの金貨を見るようで、困惑の表情であった。が、程なく流通通貨と交換をしてくれた。

 特にアルルは数えなかったが、紙幣でおよそ百枚前後といった所だ。

 換金所を後にして、すぐ。アルルはミカに聞く。


「流通してるの紙幣なんですねー。これ一枚でどのくらいの価値なんです?」

「一枚で一万ゼニね。これで一泊くらいかな、多分」

 ーーアルゼリア金貨は一枚で100万ゼニ位の価値だという事か……ゼニ? 銭? まぁいいか。これで一泊とすると……ん? 結構泊まれる?

 何となく、受け継いだものの価値が見えてくる。そしてそれは同時に、アルルに重い何かを感じさせた。


「おじいさん……ありがとう御座います」

 思わず漏らした呟きは、人に聞かせるほどの音量では無かったはずだが、ミカには聞こえたらしく。

「うんうん。大事に使いなよ〜? どう使うかが一番大事なんだから、ねっ?」

 そうアルルに言って、ウインクをする。



 帰りの道すがら、ミカに促されて雑貨屋に寄る二人。

 色々と身近に必要な物(主にアイーニャやアルルの日用品)を、あれやこれとミカに相談しつつ教えて貰いながら買っていく。

 所々、ミカは周囲を気にする素振りをする。家出中なので、知り合いを警戒してるのかも知れない。


 二人が宿に帰ったのは、夕刻が差し迫るかという頃合いだろう。

 カツサムはすでに宿に来ていて、再び合流となった。


「おう、ルビーに聞いたよ。アイーの事。気付かなかった、なんかすまん」

「そんな、カツさん。すみません。余計な心配おかけしちゃって」

 お互い気を使って、神妙な空気になりそうな所を、ミカがぱんと手を叩き気を散らす。

「はいはい。アイーの様子見て、荷物置いて、ご飯屋さんを探しますよ〜」

「お、おおう……そうだな。今後の話もしないとだしな」



 アイーニャはまだ、ベットに横になっている。ルビーが継続して見ているからと言ってくれた。ーー何故か妙に甲斐甲斐しいなゾンビ。と、少し気になったがお願いする運びになり。

 アルルとカツサムとミカ。そして、ルビーとアイーニャの部屋で預かって貰っていた猫のマーコを連れて、三人と一匹はご飯屋を探す為に街を歩く。


ご飯屋を探してきょろきょろと見渡していると、何故かすごく陽気な男に声を掛けられる。

「あぁ〜、あは〜。そこ行くあなた方は〜、もしかしてだけど〜。夕食のお店〜を、お探し〜ですか〜?」

 何とも歌っているのか、何なのか。まるでミュージカルに出てくる登場人物かのような、大袈裟な身振り手振り。どうやらお店の勧誘か何かだろうか。

「ああ、大丈夫。もう決まってるから気にしないでくれ」

 カツサムがそう素気無く断ると。

「ありゃりゃ〜、残念無念〜。またの機会によろしくね〜」

 腕を回してくるくると、違うお客を求めてどこかに行った。

 ーーあんな感じの人を、よく見かけるな。この街。と、少し不思議に思うアルル。


「なんか、変な感じの客引きですね。この街ではあれが慣例かなんかですか?」

「いや、違うんだが……なぁミカ?」

「そうそう、ここ数年で流行ってるんだよね〜。あの感じ……数年前から舞台劇場がここら辺ってすごく多くなってね。歌って踊って、物語を楽しむやつなんだけど。それがもうすごい人気で、一部の人はああやって影響されちゃってね〜。なんかなぁ〜って感じなの」


 街の雰囲気が心なし、華やかで軽やかなのも。その流行っているという、ミュージカル? が影響しているのだろうか。

 再びその人らに、目をやる。

 楽しそうではあるな。と、アルルは思った。


「へぇー。なんか楽しい街なんですね」

「いや……決してそういう訳ではないんだ」

 カツサムは何故か重苦しくそう呟く。

「……?」

 アルルは不思議に思いつつも、特に話を続けなかった。


 三人と一匹は、割と大衆向けの食堂を見つけてそこに入る。

 この店は、猫は居ても大丈夫との事であるし。猫用の焼き魚も用意してくれるとの言を聞いたので、ここに決めたのだ。


「それで、これがここ近辺の街の地図なんだが、アルルの行きたい図書館はここだ」

 カツサムは丁寧にも地図を用意してくれて、現在泊まってる宿と、アルルが行きたい国立図書館を赤い鉛筆で丸を書いて示してくれる。

「ありがとう御座います、何から何まで」

「いや、いいって事よ。困ってる人がいたら助けるのは当たり前だと、俺のばあちゃんからの教えなんだ」

「カツ君素敵〜」

「ミカー、よせよ。照れるだろ? ーー金貨は無くとも、心に貴族を住まわせろ。我が家の家訓なんだよ」

 ボロは着てても、心は錦。みたいな感じだろうか。

 ーーカツさんってほんとにいい人だなぁ。

 アルルは口には出さなかったが、心の中でそう呟く。

 猫のマーコはにゃあと鳴いて、アルルに擦り寄ってくるので頭を撫でてあげた。


 食事も終わり、宿への帰路につく三人と一匹。

 とうに日は落ちて、あたりは夜の闇。


「アルル、何か良い情報が見つかるといいな。俺らは一応、明日には宿を引き払って、お前らとはお別れかな」

「何から何までほんとに……ありがとう御座います。カツさんミカさん」

「いやん、アルル〜。なんか寂しくなっちゃっうような事言わないで〜」

「いや、何言ってんだよミカー。特に寂しくなる様な事、アルルは言ってないだろ、ははっ」

「ちょっとカツ君、変な水刺さないで」

 ギロリと睨むミカ。あははと目を逸らして誤魔化すカツサム。気を抜くとすぐに喧嘩を始める二人であったが、結局すぐに元に戻るのが二人の良い所だった。


「あぁ、そうだ。俺らは多分、朝早くにはもう出るから、アイーとルビーには挨拶はできないかも知れない。アルル……あいつらにくれぐれもよろしくと。少しの間だったけど、久々に楽しい旅だったって伝えてくれないか?」

「はい、カツさん。二人にちゃんと伝えます」


 宿に着いて、短い別れの言葉とおやすみを言って各自部屋に戻る。

 カツとミカの部屋は2階の北側の部屋に。

 アルルは、アイーニャとルビーの部屋の隣で、3階の南側に位置する。

 ルビーに一応の、戻った報告と。アイーニャの様子を聞いて、問題はない様なので自室に入って、寝る準備をした。

 

 真夜中、アルルは中々寝付けずに夜風にあたる為、部屋のバルコニーに出る。

 マーコもアルルの肩に乗って、夜風を浴び気持ち良さげだ。


「アハー、アルルさーん。寝付けないんですカー?」

 ふと隣のバルコニーから声がする。

 ルビーも、バルコニーに出て夜風を感じているのだろうか。

「ああ、ゾンビ。ーーアイーニャは」

 言いかけてやめる。ルビーも気付いたようだ。

 

 二人は3階のバルコニーより見える、街の情景に心を奪われた訳では無い。

 建物の屋上を動く、何か。素早く建物から建物に、移動する黒い影を見つけたからだ。


 夜の風は、何やら不吉なモノを孕んで、少し肌寒い。

 

 

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