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第二部 1章『陽光あらずんば、貴族足り得るか』007



 猫を抱えたままのアルル。その元に集まるカツサム達だが。

「あ、アルル……。お前って一体……」

 カツサムの驚きは当たり前の反応と言える。瞬く間に一足飛びで駆けつける脚力。

 そのままの勢いでゴブリンの頭上を超え、悠々と助けた猫を小脇に抱えているのだ。そんな少年が目の前にいるのである。

 が、そんな驚きはよそにミカは奇声を上げた。

「いや〜、猫ちゃん初めて見たぁーかわいいね〜。よかったね、助かったでちゅね〜」

 猫の頭を撫でるべく、出したその手は恐怖の最中の猫には届かない。

「ええ〜、嘘ぉ! ちょっとショックなんだけど〜」


「ミカ〜、うるさいよ。ちょっと今はそれどころじゃなくてー」

「それどころじゃないって、何? そんな言い方しなくても良くない?」

「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」

「じゃあどういう意味なのよ」


 何かを問いたかったカツサムは、何故かミカの憤慨を買ってしまい。それどころでは無くなってしまう。


「アハー、しかしこの世界にも猫っているんですネー。アハハ」

「確かに……」

「はいー、珍しいですけどねぇ。基本は人間の、貴族や王族の愛玩動物というふうに聞いた事がありますぅ。私も見るのは初めてですぅ。可愛いぃぃ」

 アイーニャはそう言うと、身をくねくねとさせる。


 どうにかミカをなだめすかしたカツサムが、再び口を開く。

「す、すまん。えーと、……何だっけ? あっ! ーーアルルっ。すごいなお前、すごいな! びっくりしたわー」

「あ、ほんとですかー? ありがとう御座います」

 カツサムの急な大声に、小脇の猫は驚いてアルルの腕からじたばたと、そしてぴょんとアルルの腕から離れてしまった。


「あっ、……まあ驚異は無くなったし。うん、自由に行っていいよ」

 アルルは自分の腕から飛び降りた、助けた猫に語りかける。怯えるように距離を取って、アルルをめね上げる猫。

「アハー、アルルさん。この世界で野良猫がやっていけますカネー。アハハ」

「え? ……無理、かな?」

「イヤー、どうでしょうネー。あんまり小動物が野良で生きていける様な世界には思えないなと、考えただけなのデー」

 確かにと、アルルはしばらく考え込む。


「いや、でも……どうしよう。うーん」

 この会話の中でも、地面に降り立った猫は怯えつつもアルルをじっと見ている。


「うーん。どうする? このままどこかに行ってもいいんだよ?」

 アルルは正直分からなかった。この世界では猫1匹で生きていけるのか。生きていける可能性が低いなら、自身で面倒を見るか。ほぼ衝動で助けてしまったから、どうすればいいのかが分からない。言葉ではそのように言ったが、体は逆の行動を無意識にしていた。

 屈んで手のひらを見せて、おいでおいでのジェスチャーをしている。


「アハー、怖がっている猫は中々意固地なもんですよネー。追ったら逃げるし、捕まえようなんてもっての外でスネー、アハハー」

 ルビーがそんな事を言った瞬間に、猫はもうアルルの指をぺろぺろと舐め出した。


「ハヤー! 何その、動物にはすぐに好かれるんですケド、何カー? みたいなヤツー。さすアルだわー、流石にさすアルすぎてクサー」

 ルビーはやれやれと言わんばかりに、両手を開いて顔をふるふるとする。


 猫は何とも、さっきまでの怯えが嘘の様に、アルルに懐いた。

 ミカとアイーニャはそれを好機と見て、猫を触ろうと寄って行ったが、フーっと怒られて触れない。

「カツ君、アルルにはあんなに懐いて、ミカにはキレるのおかしくなーい!?」

「いや、もういいよミカ。……それよりも討伐されたはずのゴブリンがなんでまだいるのか、そっちの方考えようぜ。なんか……すごくヤバい予兆みたいなの感じるんだよな」

「そーゆーのは、カツ君に任せまーす」

 舌をぺろりと出して、戯けるミカ。

「ミカー、そうゆうとこだぞ? ーーったくもう」


 カツサムが言うには、このリン・ダート共和国連邦では何年か前に、大規模なゴブリン掃討作戦が展開されたらしく。

 その時に、全てのゴブリンの殲滅に成功したと言う話だった。

「ゴブリンはずる賢く、狡猾。夜の行動も得意だから、結構人間にとって天敵なんだよ。それで殲滅に成功したはずなのに、5匹も見るとなると……。ゴブリンは1匹見たら30匹はいると思え、ってーのが通説なんだが」

「アハー、まるでゴキブリですね。アハハー」

「ゴキブリ? いや違うよ、ゴブリンな」

「あ、カツさん気にしないで下さい。ゾンビの戯言ですから」

「む? そ、そうか。……まあ、何だ。そのー、これは一度ギルド経由で、連邦の捜査機関に連絡が必要だな」


 カツサムは倒したゴブリンの鼻を自前の短剣で切り落とす。5匹とも。

 それから、持っていた麻でできた袋にそれを詰めた。


「うーん、よし。とりあえずさっさと第四外区まで行こう。実際、ゴブリンが復活してて、大群を形成してたら大変だ」

 カツサムはそう言うと、ゴブリンの鼻が入った袋をミカに預けようとしたが、かなりの拒絶を受け、肩を殴られた。そしてアルルの頭には、早くも慣れ親しんだ様子の猫が乗っている。怯えはもう無いのか、しっかりアルルに懐いている様子だ。

 再び一行は、第四外区を目指し南方を歩き出す。



 二時間くらいの行程で一行は第四外区スーリヤ・ナンについた。

 その間に赤狼(レッドウルフ)とは2回、遭遇戦闘(エンカウント)

 幸い、ゴブリンには会うことは無かった。

 時刻は日が落ちる前といった所だ。


 第四外区スーリヤ・ナン。

 石造りの塀が高くそびえる、一種の城塞都市としての機能を有した街なのだが、手入れはあまりされていない様な印象を受ける。

 キャンプ地にある巨大で長大な塀ができた時に、この都市の城塞としての機能は要らなくなったのだ。


「いやー、予定よりかなり時間を食っちまった。もしかしたら、もうギルドは閉めちまうかもしれないな。ここから別行動をしよう。ミカは一人で宿を探してくれない? 俺とアルルとルビー、アイーで一旦ギルドで登録を済ませよう」


 そこから傭兵パーティへの登録は概ね、速やかに承認される。

 だがしかし、カツサムはここのギルドの長に、例のゴブリンの話をすると言うので、ミカの取った宿屋に先に行っててくれと。アルル達を置いて奥の方に案内されて、行ってしまった。


 ぽつんと残された三人。と、一匹。

 アルルにアイーニャにルビーは、そこで気付く。

 ミカが何処にいるか分からないのだ。


「アハー、見落としてましター。スマホでもあればいいんですけどネー。アハハー」

「確かに……。あ、でもカツさんはどうやってミカさんの探した宿を探そうとしてたんだろう?」

「すまほぅー?」

 三人は同時に首を傾げる。


「アハー、取り敢えずカツを待つのがいいですカネー?」

「そう……かもしれない」

「すまほぅー?」

 アイーニャはしつこく、聞き慣れないだろう単語を復唱してくる。

 

 三人はカツサムを待つ事に決めたので、傭兵ギルド(二階建ての、敷地面積にすれば2、3軒位の家は入るだろう)の一階。受付付近の広間で待つ事にする。

 ルビーは広間のあちこちを見て回り。

 アルルとアイーニャは、広間の壁際に備え付けてある長椅子にちょこんと腰掛けた。


「アハー、アルルさーん。こっちの字は読めますカー?」

 ルビーは一通り見て回ったのか、アルルに声をかける。

「ああ、一応習ったから読めるよ」

 傭兵ギルドの1階の広場、その壁に貼ってある紙を読み上げる。

 それは大体が、ほぼ求人広告みたいなもので。傭兵自体のランクによって、報酬が変わってくるという内容であった。


「アハー、なるほどー。日雇い労働者の募集といった感じですかネー、アハハ。どうやら夢は無い様ですね。アハハ」

 そこに肩を落とすルビーは、一体何の夢を見たのだろうか。

「夢って?」

 思った事をそのまま言うアルル。


「エエッ!? 異世界と言えば冒険者ギルドでショウー、アルルさーん! そこで可愛い受付嬢やら、むかつく顔の先輩冒険者とか、そんな色々な出会いを経て大切な絆を作りつつ、ドラゴンとか魔王とか、色々討伐して。それでいて、それら全てをストレスなくこなす主人公が、オレツエエエエして、結局そこらの美女を独り占めして、ハーレムでムフフのフがお約束じゃーないですカー! 正気カー?」


 一体何の話をしているのか、アルルは飲み込めないまま、一息に捲し立てるルビーを見ていた。冷めた目をして。

 その横でアイーニャは、アルルの裾をつんつんと引っ張り。

「すまほぅー? ……すまほぅー?」と、曇りの無い淡いグリーンの瞳で、しつこく聴いてくる。

 アルルは疲れた顔で、その全てを無視して。肩に乗る猫を撫でた。



 

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