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エピローグ



 シルフィが風に戻ってから3日後。アルルとルビーは、第一都市フォン・アイルの霊威を片付ける為にここへ来ていた。

 シルフィの還元魂(かんげんこん)の射法により、確かに帯電したような形跡は無い。

 アルルの激しい怒りが生んだ、あの聖なる雷。その惨たらしいまでの破壊の跡は様々あるにせよ。

 人体を害する様な、帯電する属性は残っていなかった。

 全て風の属性に、書き変わっている。

 

「すごいなシルフィ……」

 アルルはそう呟き、今もまだ帯電する属性のままの自身の育った山を思う。

 ーーあの山まで、取り除かれたりはしないよな。そんな事を考える。考えてしまう。


「アルルさーん、霊威浄化ってどうやるんデスー?」

 他に何をしたいという事も無いルビー。アルルを手伝ってくれる様だ。


「多分、そこら辺を歩いていたら何かが色々湧いてくるから、それを出なくなるまで倒せばいいんだよ」

「アハハー、なんか意外と原始的なんでスネー。私はてっきり何かお祓いみたいなのするんだと思ってまシター。アハハ」

「ああ、おじいさんは多分、そんな感じの事をやっていたと思うけど。それは教わらなかったな。……いや、仕事に関して何も教えてくれなかったな。おじいさん……」


 実際の霊威浄化とは、死霊や悪霊の定着した魂(その土地に付着したエネルギー)を祓うことを言う。しかし、これにはいくつかの条件がある。

 それに特化したスキルと、それを有した状態での職業的な訓練だ。

 そのスキルは浄化(ヒール)といい、回復系に属するスキルで、大体が先天的なものになってしまう。

 なので、アルルの育ての親であるハロック・エルセフォイは教えたくとも教えられなかったという所はある。

 アルルがあの山の霊威浄化を終えれたのは、無限に湧くと思われた死霊や悪霊も、定着したエネルギーが枯渇すれば湧いて出る事は無くなる為、結果的に霊威浄化と同じ効果を得られたという事だった。


 霊威浄化を行う上で、この事実を知っている者はこの世界には存在しない。

 理由は一つ、効率が悪く命の危険が非常に高い。だから、ただただ敵を倒し続けるという行為を出来る者は、唯の一人もいなかった。

 アルルを除いて。

 

「アハハー、そしたらここらへん歩き回ってたらいいんですカネー?」

「そうだねぇ。……多分、そしたら幽霊みたいなのが出てくるはずだから、倒して行けばいいと思う」

「エエ、幽霊ですカー。……それは倒せるんデスー? 幽霊って、アハハー」

「え?」

「エッ?」

「……考えてなかったなぁ。ーー剣で普通に倒せたからなぁ」

「……ムムム。と、するとぉ……ウーン。ーーまあいっカー。アハハ」


 死霊も悪霊も、基本は剣でのダメージは通らない。

 打撃、刺突、斬撃。おおよそ物理攻撃に耐性を持つ為だ。

 しかし、完全耐性では無いが故に、レベル差がそれを上回ってしまう。

 アルルはレベル差で、霊的なものを切り伏せてしまうのだ。



 アルルとルビーは、しばらくはこの()()()()()()()()()所に居る事になる。

 斬っては湧いてくる、死霊やら悪霊を。

 湧いて来なくなるまで切り伏せ、切り裂き、ねじ切り、四散させる。

 

 今回のエルフ達の死者、4万人弱。

 魔族の滅亡数、数千。

 それだけの無念(エネルギー)が、エル・フィーエル妖精国だった土地に降り注いだのだ。


 完全に霊威浄化を終えるのは、これから二年後。

 亡国の英雄が十四歳になる頃だった。

 この世界の浄化の基準で言えば、驚異的なスピードではあるだろう。

 一か八かで、妖精国の半分を崩落させて埋めてしまうよりかは遥かにマシだっただろう。

 妖精王の判断は正しかったと、後のエルフ達は自伝に書き記した。

 小さな英雄と、(かたわら)の赤髪の吸血姫を添えて。



 迫り来る死霊を斬って殴って土に還す。もはや流れ作業になりつつある今日この頃。

 始めてから一週間ほど経っただろうか。

 流石に、同時多発で忙しい時は忙しいが、エルフ達の助力もあり昼食などを取れる隙間は確保できる。

 

 アイーニャが敷いてくれた麻のシートに、簡易的な椅子を置いて、そこで一休みをするアルルとルビー。

 小さな英雄のアルルは、アイーニャが作ったサンドウィッチの様な、パニーニの様なものを頬張る。


「……うん、美味しいよアイーニャ」

 顔を赤らめながら親指を立てるアイーニャ。あいも変わらず、言葉少なな(少ないというよりは、ほぼ無いに近いが)エルフの少女。

 アルルは特に気にしなくなっていた。



 やさしい風が吹いている。

 アイーニャに入れてもらったお茶を啜り。

 小さな英雄は遠くを見る。

 アルル達の休憩を確保する為、頑張って死霊や悪霊の囮を引き受けるエルフ達。

 ーーとにかく逃げに徹するように言ってあるので、もうしばらくは大丈夫だろう。


 アルルは辺りを見回す。

 文明があったなどとはお世辞にも言えない、破壊された全てを。

 これは全部、自分がやった事なのだと。どこを見ても思ってしまう。

 どこを見ても、自分の行いが見えてしまうのだ。


 同時にどこの破壊の跡を見ても、ハロックを思い浮かべてしまう。

 自分のせいで、その命を縮めた。否、殺したおじいさんを。


 やさしい風が吹く。


 堪らなく涙が出そうになる。

 しかし、小さな英雄はぐっと抑えた。

 ーー泣いていいわけが無い。皆にやさしくされたからといって、泣いていいなんて許されない。

 呪いのように、アルルは心でその言葉を繰り返す。


 隣のルビーは、気づいているのだろう。

 こういう時には茶化したりはしてこない。


 どうしてこうなったのか。

 アルルにはわからなかった。

 

 彼女(あのこ)を思い出す。

 今すぐ帰りたかった。

 あの場所へ。

 

 入れてもらったお茶はもう冷めていて、ひんやりとした感触がアルルをただ突き放すように刺さる。

 アルルは残りを一息に煽って、アイーニャに感謝を伝えコップを渡す。

 休憩はもう十分。

 今はただ、体を動かしたかった。


 ルビーも一緒に席を立ち、軽く片目をつぶって歯にかんだ。

 しなくてはいけない事の続きをする為に。


 一歩踏み出す。

 涙はもう出ない。

 

 やさしい風が吹く。


 ありがとうと聞こえた気がした。

 聞こえた気がしただけ。

 聞こえた事にしたい、願望に決まっている。

 

 アルルの頬には、堪えきれなかった一筋の何かが零れ落ちた。

 それをルビーに見られたかと、隣を見る。

 赤髪のおちゃらけたゾンビは、ちょうどそっぽを向いていた様だ。

 

 すぐさま頬を拭った小さな英雄。

 腰のロングソードを抜いて一足飛びで、悪霊に斬りかかる。


「異世界転生したかったワケじゃないんだオレはっ」

 



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