表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/167

4章 吹き荒ぶ風 003



 ざわざわと。

 エルフ達は一様に、みな困惑している。


「シルフィ様!それはいけません!」

 そば付のエルフ達は、それぞれに妖精王の言動を止めるため言葉を発した。

 シュバルツやアイーニャも、どうやら驚愕の事だったのか、俄かに色めき立っている様子。


「シュバルツさんもアイーニャも……ど、どうした……?」

 アルルはきょろきょろとエルフ達を見回す。

 脇腹に水平チョップを食らったルビーは脇腹をさすりつつ、アハーなどと戯けていた。


「鎮まりなさい!」

 妖精王は、その体躯に似つかわしくない声量を出す。

「ーーっ⁉︎」

 静まりかえるエルフ達。


「アルル殿。ルビー殿。騒がしく、申し訳ございません」

「あ、……いえ。大丈夫ですが……。そのー、どう言う事ですか?」

 妖精王は一つ咳払いをし、還元魂(かんげんこん)の射法をアルルとルビーに説明してくれる。

 丁寧にも。


 ーー四大元型の一つ、吹き荒ぶ元型のシルフィは。本来なら肉体を持った一個人ではなく。概念としての存在。風の属性を持った、どこにでも存在するし。どこにも存在しない。

 まさしく、概念としての精霊と呼ばれる存在であるという事。


「ねぇ、概念としての精霊って?」

 アルルは、説明されても分からない所がある為、その都度ルビーに聞いてみる。

「目に見えない、幽霊よりかは偉い人って事デスヨー。きっと」


 ーーかなりの昔にエルフ達は、その概念としての精霊の顕現に成功したらしく。それ以後、妖精王と崇めエルフの国を建国するに至った。

 神話に類する、エル・フィーエル妖精国の成り立ちだ。

 

「で、結局かんげんこんナントカってどうゆう意味?」

「その説明の為の、前説を今やってるんデスヨー。きっと」


 ーーそれから幾星霜、エルフの国は地下空洞を利用しているのもあり、天敵不在で発展を遂げてきた。繁殖能力が種族的に低いはずであるにも関わらず。

 静かに森を見守りつつ、少しづつ同胞を増やしていく。


「これも何か関係あるの?」

「ここら辺は関係ないでショウー。きっと」

 ヒソヒソと話しているが、周りは特に静まり返っているのでちゃんと聞こえるらしい。

「コホン……すみません。脱線いたしました」


 ーー長い年月を経ても、妖精王は顕現し続け。今日に至ると言う事。その間に概念としての精霊を、顕現させる秘術は失われてしまったと言う事。

 そして、還元魂(かんげんこん)の射法とは、妖精王自らが顕現を自発的に解く術であるという事だった。

 そして、顕現を解くに当たって発生するであろう大量の精霊力を行使し、帯電し続ける領土の属性変換を行い。

「あふぁ……あっ!……すみません」

 思わず欠伸をしてしまうアルル。すぐさま佇まいを直し、赤面する。

 

「コホン……」

 もう一度、風の属性に置く事で生命の循環を戻し、地上の森林の再生。もしくは新たな芽吹きの可能性を見出せる状態にするべく。

 妖精王はもう一度、概念に戻り。エルフの領土を最低限の被害で取り戻す覚悟をしたと言う事であった。


「……ん?」

 欠伸をしてしまった、気まづさで。控えめながら眉をひそめるアルル。

「アハハ、なるほどー」

「え、わかるの?今ので……?」

「エエ、エエ。何千冊もラノベを読破しているワタシに。チッチッチ、ーー愚問も良いとこデスネー。アハハ」

 ルビーは誇らしげに胸を張って、人差し指を左右に振る。

「……で?」

「デ?」

「説明」

 アルルは手のひらで、その先を促す。

「エエ、つまり。ーー妖精王さんの命を使えば、もうちょっと被害が少なく済みそうだから、そっちにしちゃおっかなぁー。みたいな感じですカネー。アハハ」


 妖精王シルフィは、咳払いしつつ話を続ける。なんとも言えない表情で。

「……はい。多少ざっくりとしてますが、……概ねそう言う事です。異国の方に、エルフの歴史をも知って頂きたいとの欲目もあったかも知れません。大変失礼たしました」

 妖精王は正直に謝った。

「……そのー。そうすると妖精王さんは死んでしまうという事ですか?」

 アルルがそう聞くと、妖精王は少し困ったような、少し寂しそうな。そんな表情をする。


「少し違いますが、人間的な解釈ではそれも正解なのかもしれません。……もちろん、この国は便宜上の解散とはなるでしょう。しかし、はるか昔にはエルフは国を持ってはいませんでした。森と共に生きる。そういう民にまた戻ればいいだけなのです」

「妖精王さんは、エルフの人達は……それでいいのですか?」

「長い事、理屈に合わない事をやって参りました。妾も……エルフ達も。ーー風は一つ所に止まってはいけないのです。森や風と共に生きるエルフも、一つに止まってはいけなかったのです」


 ーー風は自由に吹く。生命の循環に合わせて吹き(すさ)ぶ。いつか待つ芽吹きに合わせて。

 エルフに伝わる古い唄だと言って。

 それを妖精王は口ずさむ。

 周りのエルフ達、シュバルツやアイーニャもその唄を聞いて俯いた。

 エルフにとっては有名な唄なのかも知れない。

 声を抑えて泣いている者もいる。

 もはや、妖精王に何かを言おうとするエルフはいなかった。


「アルル殿のおかげで踏み切れました。どうか……霊威浄化の方、よろしくお願いいたします」

「……はい。分かりました。ーー必ず」

 霊威浄化の二次被害が、甚大である事を懸念して。まとめて壊して、臭いものにフタをするような。

 そんな対症療法しか選べなかったのかと。

 アルルは理解した。同時に、その後の霊威浄化をする自分に。

 必ずやり遂げねばならないとの覚悟も持つ。

 エルフ達の為に。


「それでは、我が国民にこの事実を。早急にお願いしますね……ギブリー法務長官」

「はい。……シルフィ様。……うっ、くぅ」

 ギブリーと呼ばれたエルフは、涙を堪え。何か一言をと、探したが出てこなかった様子で謁見の間を出ていく。

 これから、国民に対する説明を任されたエルフなのだろう。

 妖精王の。そして、この先の妖精国の顛末を。


「では、準備が出来次第。射法に入ります……が」

 と、ここで妖精王は一拍間を置いて。

「略式ではありますが、宣言をいたします。アルル殿とルビー殿両名に、見届け人をお願いしても?」

 話を振られた2人は、了承のジェスチャーをそれぞれ行った。


「では……宣言!ーーエル・フィーエル妖精国を、妖精王シルフィの名の下に、……解散とします事をここに宣言致します。ここより妖精王の権限をもまた、返上し。元型に還る事。ーー以上!」

 周りのエルフ達は肩を震わせて、さめざめと泣いた。


 小さく風が吹く。

 それはどこか遠い地の。

 故郷(ふるさと)を思わせる様に優しかった。

 なま優しかった。

 誰しもが抱く、どこかで感じたはずの優しい風が。

 凪ぐ。


 吹き荒ぶ元型は、確かめる様に自身の体を触った。

 その所作は、慈しみに溢れている。

 溢れる何かを、零さない様に。そっと。


 ……沈黙。



「あぁー、疲れたぁ。よかったぁーえへへ。ボクの役目がついに終わったんだね」

 妖精王だったシルフィはそう言った。

 肩の荷が降りたかのように、両手で伸びをして気持ち良さそうだ。

 

「アルルとルビーもありがとねー」

 ふよふよと、アルルとルビーに近づいていって、おもむろに握手をしだすシルフィ。

「え?……あ、あの。……妖精王さ、ん……?」

 アルルはかなり戸惑った顔で言った。

「そだよー。えへへー、これが実はボクの()なんだぁ。ビックリした?えへへーごめんねー」

「ボクッ子のギャップ萌えシルフ。ーーナイス!」

 ルビーはなぜかすぐに順応し、ガッツポーズまでしている。


「ワラワ……。えへへー。妾とか一々使うの、すごく疲れるんだからぁ。頑張ったんだからぁ」

 元は妖精王であったシルフィは、真夏の羽虫が如くぶんぶんと空中を彷徨いながら、そう言うのだった。


 そば付のエルフ達は、懐かしむ様な目でその羽虫を見ている。

 ーーおお、懐かしや。吹き荒ぶ元型。などと言っている始末。


 長らくの重責を、小さなその身だけで受けてきたのだろう。

 ぶんぶんと。

 なんと晴れやかに、空中を舞うのだろうか。

 と、いう面持ちのエルフ達。


 しかし若干、ーー五月蝿(うるさ)い!

 ()()聞こえるのは。

 ーーそれが()()()の、風物詩的な感覚を有したアルルの感想で。

 その場のエルフ達には、もちろん感動的な事柄に違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ