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4章 吹き荒ぶ風 002



 アルルとルビーは、シュバルツとアイーニャに連れられて。謁見の間、その豪奢な扉の前まで来た。

 作りは多分、木材であろうと思われたし。いかにも風を崇拝し、木と共に生きる事を是とするエルフ達を、うまく表現した意匠の大扉だった。


 最初、妖精王に謁見した時と同じ場所だったが、その時のアルルはそこまで注意を向ける余裕は無い。

 改めて見渡し。感嘆の声を自然ともらしていた。

「へぇぇ、改めて見たらなんか。すごいね。力強いって言うのかな」

 無意識に隣のルビーに聞く。

「エエ、エエ。そうですとも。改めなくともワタシは最初から思ってましたけどネー。アハハ」

「ぅぜぇぇ……」

 アルルはそっと口に出してしまった。

「エ?なんて?」

「え?ーー何も言ってないよ?」


 いかにも重そうな扉は、驚くほど静かに開いた。

 赤い絨毯を歩くよう促されて、アルルとルビーは妖精王が眼前まで行く。


「英雄殿、お二人におかれましてはご機嫌麗しく。再びのご足労、誠にありがとうございます」

 エル・フィーエル妖精国、妖精王シルフィはそう口を開いた。

 相変わらず、王の台座には座らずにふわふわと浮いている。


「エエ、エエ。とんでもないデスヨー。アハハ」

 ルビーはそう、あっけらかんと言い放ち。アルルは少しばかりのお辞儀で、返答とする。

 2人は特に、(ひざまず)く事もなく立ったまんまであったが、初見の時とは違い、妖精王の御前であってもかしずかない2人に、周りのそば付は特にリアクションは無い。

 シュバルツとアイーニャは、アルルとルビーの後ろで流石に(ひざまず)き、妖精王の言葉を傾聴するべく恭しく畏まっている。


「お二人の此度の活躍を、まずは(わらわ)。エル・フィーエル妖精国、妖精王。吹き(すさ)ぶ元型のシルフィの名の下に。全エルフ達を代表して。……ここに。厚く御礼を申し上げる所存でございます」

 シルフィはふわふわと浮遊しながら、子供のような体格で丁寧に頭を下げた。

 それに合わせて、妖精王のそば付(左右に五名ずつ、計10名)も深々とお辞儀をする。

 アルルの隣のルビーは、キャワワワなどと呟いて体をくねくねさせた。

 確かに、妖精王の見た目は子供。それも、人間で言うところの3歳から5歳位という所だろうか。

 エルフ達特有の綺麗すぎる顔立ちよりは、可愛さが目立つ。

 それがふわふわ浮いていて、丁寧なお辞儀をする様は確かに、庇護欲なり母性なりはくすぐるのだろう。

 

 ーーゾンビに母性?

「あ……、いえ。そんなに畏まらないで下さい……あ、いや」

 アルルは謙遜とも取れそうな言い方だったなと、すぐさま次の言葉を紡ぐ。

「その。……すみません。かなりの広範囲が僕のせいで……。きっと、しばらく誰も住めない土地になってしまいました」

 今度は、アルルが深々とお辞儀。もとい、謝罪の意を示した。


「小さき英雄殿、お顔をお上げ下さい。……そもそもが我々は、死に瀕しておりました。それを救ったのは、紛れも無くアルル殿とルビー殿で御座います。どうか顔を上げて下さい」

 こう言った時にどのような態度を示すべきか。

 少年とはいえ、精神はそれなりの齢を重ねているアルルにも分からなかった。

「ルビー=ペインバッカーーー、アハハハー」

 隣のゾンビは誇らしげに、胸を張っている。

「……すみません」

 アルルはそれだけを絞り出した。


 妖精王シルフィは、そこから佇まいを直す(空中に浮かんだまま)。

「さて……、報奨の話をさせて頂くのですが、英雄殿には望むものを望むままに。もちろん、この国にあるものでとさせて頂きますが。ーー何なりと仰って下さい。これはエルフの総意であります。どうぞご遠慮されずに」

「エ!ヤッター!何がいいかな、何がいいカナー。アハハ、うぐっ!?」

 ルビーは隣の少年に、脇腹あたりに水平チョップを食らう。

「いえ、流石に……そこまでは。十分良くして頂きましたし。それに……欲しい物は。特に無いので」

 元の世界に。そう喉まで出かかって、それを飲み込んだ。

 あんな事をしでかしておいて、褒賞などと。アルルは考えにも及ばない。

「アハー、アルルさん。何か情報だけでも貰わなくて平気ですカー?」

「情報って……?」

 ルビーなりの助け舟。アルルの心情を少しは察しているのだろう、自身で情報を集めようとしてくれている。

「イヤー、他に伝説級の情報は無いかナー。なんて思いましテー」

「……なるほど。伝説級ですか……」

 妖精王は律儀に、その問いを考えてくれた。


「風の噂ですが、良いですか?……ここより、はるか南。天空に住まう民が居たと聞いた事があります。天空に城を浮かべて、栄華を誇ったとか」

「アハー、めっちゃ良い伝説キター!まじかー。ドキワク止まらないソレー」

 うおおお、と言ってガッツポーズをするルビー。

 シンプルに自分の為の情報収集だった。


 アルルは特に何の反応も示さない。

 むしろ違うことを考えていて、聞いていなかった。

 

「あ、あのぅ……、許されるなら、しばらくここに残ろうと思っているんですが」

 アルルは、意を決したように妖精王にそう告げる。

「ここに……ですか。それはなぜでしょう、アルル殿?」

 妖精王は首を傾げた。

「あぁ、えっと。……僕を育ててくれたおじいさんがいるんですが。あ、いえ。もう……、亡くなってはいるんですが」

「おじいさん、……はい。報告は受けています。かのアルゼリア公国きっての仙人、ハロック・エルセフォイ殿でありましょう?」

「はい。そうです。……その。おじいさんの仕事が霊威浄化なんですけど」

「……はい。……存じております、アルル殿」

 妖精王は少し思案するかのように、少年を見据える。


「はい。一応僕も、その技を少し学んでいるので。どの位かかるか分かりませんが、霊威浄化を行う為に残ろうと思ったのです」

「「「「「……!?」」」」」

 妖精王含め、その場のエルフ達が驚きを露わにどよめいた。

 

「なんと……、アルル殿。…………」

 妖精王は、今度は深く思案している。

「アルル殿……理由を、もし良ければお聞かせ頂いても?」


「あぁ、いえ……。その、おじいさんがしていた事でもありますし。……いえ、違いますね。……なんとなく役に立てるかと思って。なんとなく……役に立ちたいなって、思ったので」

 アルルは、ハロックと過ごしていた時間を思い出していた。


 謁見の間に、しばらくの沈黙が続く。


「絶対の強者であって、我が国の救世主たるアルル殿。……なんと言えば良いのか。……いえ、そうですね。妾もいよいよ腹を決めるべきですね」

 妖精王はそう言うと、ふうぅっと息を吐いた。

「妖精王っ!っまさか!」

 そば付のエルフが、突然に声を荒げた。


「いいのです。我が国の救世主がそこまでお考えなのですよ?控えなさい」

 静かにそう言って、声を荒げたエルフを妖精王は制す。


 何のことだか分からない、アルルとルビーはきょとんとした風で、妖精王とそば付のエルフを交互に見ている。

「ああ、お見苦しい所を。申し訳ございません」

 妖精王は二人に軽く頭を下げて、言葉を続けた。

「第一都市と第二都市、第三都市ではご存知の通り。多くの死者が出ました。アルル殿が仰る通り、霊威浄化が必要となります。長くかかるだろうと思います。10年……20年」

 妖精王はそこで息を切って、少しの間を持つ。


「しかし、地上の大森林は、第一から第三までの区画の大森林は、すでに根が壊滅してる事が調査でわかっています」

 アルルは胸をぎゅっとさせた。

 そして悟る。自身が行った魔法の影響が、地上の森に出ていることを。

「アルル殿。本当に気にしないで下さい。我々は助かったのですから。……コホン、続けますと」

 妖精王は続ける。

 どうやら、そのままでは大森林全体が壊滅状態になりかねないという事なので、エルフ達は選択を迫られていると。

 打開案として現状壊滅している森と、その下の区画を丸ごと潰してしまうという案が最適では無いかとの結論に至った事。

 現状壊滅している大森林の3割を崩落させて、霊威浄化が必要な区画を埋めるという事が首脳部の間で取り決められたと言う事らしかった。

 大森林の延命と、霊威浄化の必要な区画の埋葬。それを同時にできると言う。

 アルル達が6日も待たされていたのは、そういった戦後処理にエルフ達が追われていた為だったのだ。


「しかし、アルル殿の言葉でその解決はやめにします」

「妖精王っ!」

「黙りなさい!」

 妖精王が再び、そば付の言葉を制した。

 ぐっと、制したがまだ言いたそうなそば付のエルフ。


「妾は決めました。偉大な我らの英雄に報いる為、……妾の魂を使います」

 還元魂(かんげんこん)の射法を使います。

 そう妖精王シルフィは高々に宣言する。


 ほえ〜と、間抜けな声を出したのはルビーだった。

 アルルは何か知っているのかとルビーに尋ねたが、知らんと即答されたので。

 脇腹に再度、水平チョップを決める。




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