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4章 吹き荒ぶ風 001


 4章 吹き荒ぶ風



 魔族との死闘(?)を経て、6日程。

 英雄の少年アルルと、赤髪の吸血姫ゾンビのルビーは、エル・フィーエル妖精国の首都フォンに呼ばれ。

 この度の功績を、妖精王自らが労いたいとの報告をシュバルツより受けて、登城した。

 そこから応接間に通され、アルルとルビーは出されたお茶に手を伸ばす。

 

「イヤー、アルルさん。このお茶美味しいデスネー。アハハ」

 ルビーに味を感じる感覚が残っているのか、正直アルルには分からない。

「うん、そうだね」

 分からないが、どっちでも良かったので一応の同意を示す。

「……。」

「……。」


「……ナハハ、は……。イヤー、妖精王からの直々の労いと言うことですけど。何か貰えるんですカネー。楽しみだー、アハハ」

「うーん、労い……かぁ。そうだねぇ」

 なんとなく会話が尻切れトンボになってしまう。

 ルビーが腕を組んでうーん、うーんと頭を左右に振る。

 アルルは、出されたティーカップ。そこになみなみ注がれたお茶に少し口をつけただけで。

 会話や身振り手振りの、微小な振動で揺れるお茶の波紋を、目で追っていた。

 ただただぼーっとしているとも取れる。


「……イヤー。……ねぇアルルさん?……オーイ」

「うーん。そうだねぇ」

「アルルさーん!オーイ、アルルさーーん」

 ルビーは少年の肩を掴んで揺らし出した。

「アルルさーん、元気出してくださいヨーー!」

「なっ、ちょっ!」

 肩を前後にかくかくさせられるアルル。

「確かにアルルさんの魔法で、この国の3割ぐらいの国土は、なんかよくわかんない感じになっちゃいましたケドー。でもアルルさんが、多くのエルフさん達を救ったのは間違い無いデスヨー!ーーだから元気出してくださいヨー。アルルさーーん!」

「ちょっ、まっ!」

 ルビーの肩振りは、ぶんぶんと激しくなっていく。

 彼女なりに、真剣にアルルを心配してるらしかった。

「まっ、待って!ちょっ」

「アルルさーん!アルルさーーん!」

「やっ、やめっ」

「アルルさーーーーん!元気出してヨーー」


「ちょっ!ーーだからやめろって!」

「キャッ⁉︎」

 アルルはルビーの両脇を持って、力いっぱいに放り投げた。

 上方向に。


 ずんという音と共に、ルビーは応接間の天井に頭からメリ込む。

「あっ、……。」

 天井から生えた体が、だらんと垂れている。

 パラパラと割れた天井から、破片が下に落ちていく。

 暫くの沈黙。


 何事かと応接間の外で待機していた、エルフの衛兵二名が扉を開けて確認する。

 天井に生えたルビーと、入ってきた衛兵に平謝りの少年を交互に見やる。

 本来であれば大問題である。妖精王の居城にて、器物損壊の現行犯であるのだから。

 しかし、妖精国を実際的には2人で救った、超弩級の英雄である。

 それはすでに妖精国の全エルフ達に、知らしめられた事柄であり。判断に困った衛兵2人は、1人を残し。もう1人は、上司に判断を仰ぐため応接間を出て行った。

 再びの沈黙。


 パラパラと天井の破片が落ちて、ルビーが頭を引っこ抜くべく、もぞもぞと動き出した。

 死んでいない事を確認し、残った方のエルフの衛兵はほっと胸を撫で下ろす。


「アァ……、死ぬかと思った」

 ルビーはようやく頭を引き抜き、そう息をつく。

「その……、ごめん」

 バツが悪そうに謝罪するアルル。

「アハハー、いやいや。死ぬかと思いましたヨー。アハハハ」

 ルビーは天井に突っ込まれた衝撃で、多少の頭蓋の陥没は経験したが。

 ヴァンパイア由来の回復力で、今はもう原状回復はしている模様。ただ、ゾンビをベースとした吸血鬼な為。一体どこまでが原状として回復の範囲なのかは不明である。


 どうしたらいいのか分からず、おろおろと天井を見たりアルルやルビーを交互に見る衛兵。

 ルビーは、自身の頭の形をさすって確かめる。

 一連の流れで、テーブル上のカップがひっくり返してしまった為、アルルはそれを片付けていた。

「すみません。溢してしまい」

「あっ!いえ。ーー私がやらせて頂きます」

 アルルのその言葉に、衛兵は慌てて掃除用具を探しに応接間を出ていく。

「あっ、僕がやりまっ……」

 言い終わる前に、応接間の扉はばたんと閉められた。

 アルルは伸ばした手を、力無く下ろして再び近くのソファーに腰を掛ける。


「……アルルさん。……ソノー」

 ルビーはまだ頭の形を確かめつつ、言葉の続きは飲み込んだ。何を言うべきかを迷ったからだろう。


 と、そこで応接間の扉が開き、エルフが2人入ってきた。

 今回の騒動で、身の回りのお世話をしていた2人だ。

 シュバルツとその娘のアイーニャである。


「おっ?え?……あのう、これは。な、何か不手際がございましたか?」

 どうやら衛兵達とは行き違いの様子で、入るなり剣呑な雰囲気と応接間の惨状に混乱しているシュバルツ。

 アイーニャは特段変わった様子はなく、天井や周りをきょろきょろとしているだけ。

「アイヤー、シュバルツさん。大丈夫ですヨー。アハハー。ちょっとアルルさんと戯れてたら失敗しちゃっただけなのデー。アハハー」

「すみません」

「あ、ああー!なるほど。そうでしたか。こちらの不手際でなかったのなら一安心です」

「しかし、僕がやった事で、色々そのー」

「ああ!そんなそんな。この位、何も問題はございません。むしろ応接間の一つや二つ燃やそうが壊そうが。全然問題にはなりません。なぁ、アイーニャ?」

 シュバルツは、なぜか自分の娘に話を振って親指をぐっと立てた。

 それになぜかアイーニャも、親指をぐっと立てて、笑顔で応える。


「え?」

 アルルが逆にその返答に、一瞬たじろぐ。

「イエーイ、良かったですねーアルルさん。そしたらもっと派手にイッときますカー?アハハー」

「ええ、是非是非!なぁアイーニャ?」

 シュバルツはまた親指をアイーニャにぐっと立てて、アイーニャもそれに応える。

 アルルはうーんと、一瞬空を仰ぎかけたが。

 一切を聞かなかった事にして、突っ込む労力と時間をかけない事にした。

 むしろ今は、その気になれないだけなのだけれど。


「あぁーその……、シュバルツさん達はどーしてここに?」

「ああ、そうでした!妖精王の準備が整いましたので、お呼びに参った所なのです」

「オホー、ようやくですカー。アハハー」

 すぐさま移動して欲しいと言わんばかりに、アイーニャが恭しく扉を開けて軽くお辞儀をする。

「あっ、でも。さっきまでいた兵士さん2人。1人は上司に聞きに行くと。ーーで、もう1人は多分、片付ける道具を取りに行ったと思うのですが」

「あぁ、それは気になさらず。ささっ。謁見の間に」

「え?いや……でも僕がやった事なのでせめて掃除だけでも」

「いえいえ、本当に気になさらずに。掃除する意味など無いかもしれませんし」

 シュバルツは事もなげに言い切る。

「ーーん?」

「ささ、妖精王シルフィ様の下へ」

 掃除する意味はあるんじゃないかとアルルは思った。ーーむしろ掃除する事の、意味の有る無しを考える方が可笑しい事なのではないだろうか。

 などど、頭の中でまさしく意味のない事がぐるぐると巡ってしまって返答できない。

 結局、シュバルツに促されるままにアルルとルビーは応接間を後にした。


 ルビーはるんるんと、陽気に歩を進める。

「ちょっと、なんか……いいのかな?ほんとに。掃除とか、天井とか」

 アルルは隣に並び歩くルビーに、そう言った。

「エッ?いいんじゃないデスカー。気にしぃですね、アルルさん。アハハ」


 ーー気にしぃ……。そう、かも。いや。うん、やめよう。

 アルルは考えるのをやめる。

 今は色々な事が。

 目まぐるしく、ぐるぐると。

 頭のメモリを割いていて。

 とてもじゃないが、全てにおいて気乗りがしない。


 アルルは歩きながら、溜息なのか深呼吸なのか。

 ほうと、息をつく。

 隣を歩くルビーがお大事にと言った。

 ーーぅうざっ。

 と、アルルは思う。

 

 


 

 

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