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3章 死せる太陽は輝かない 011



 ■貫いた槍は亡国の英雄を、そのまま貫き続けている■


 闇がそのまま、永遠に。

 黒に黒を重ねた、何にも変え難い深い深い黒を属性値として。

 小さな亡国の英雄の体を()()()()()()()


 3回死んだ頃だろうか。

 小さな亡国の英雄は、完全な刺突耐性を得る。


 しかしそれは、慣性を無効にするほどでは無い。


 かなりの距離を吹っ飛ばされた。

 エルフの軍勢が、進軍してきている方向に。

 そちらへの注意を削ぐため、ルビーと結託し力任せに進んだというのに。

 意に反して。進行方向と逆に吹っ飛ばされてしまった。


 アルルはエルフ軍に激突するのは避けようと、先頭の眼前で地に着いた足を踏ん張る。

 脇腹には槍が刺さったままだが、力の限りを込めて。

 ずざざと、地面を鳴らしアルルはエルフの先兵の眼前でちゃんと止まった。

 

 エルフ達が瞠目の眼差しで見てはいるが、少年は意にも解せず黒い槍を引き抜く。

 かなりの量の血が出たようだが、まだ瀕死のうちに入る。

 4回目の食いしばりは発動していない。

 腹から抜いた瞬間に、その黒い槍は虚空に消えていった。


 アルルは思い出していた。

 否、昔に味わった感覚をぶり返していた。

 (はらわた)を搔きむしる様な感覚と。

 死ぬ。

 と、いう事を。

 思い出した。

 否。

 体が覚えていたから既視感として蘇った。が、正しい。

 

 真っ白な最愛の人のドレス姿。

 そこから腹部に感じた、何とも言えない圧力。

 そして、深い深い黒い何かに意識を奪われ。

 その次には、何やら視界がぼんやりとしたまま振動するなんやかや。

 冷たいやら、熱いやら。

 そして、黒に包まれるやら……。


 アルルは怒った。


 それはただの反射だったのか。

 黒い槍を腹部から引き抜き、悲喜交々の何やかやが押し寄せた故の。

 そんな悲喜交々から逃れる為の何かか。

 アルル自身は無意識に咆哮を上げた。

 叫んだ、だけだったのかも知れない。

 慟哭と呼ばれる類のものだったのかもしれない。

 もしくはその全て。

 

 アルルは、自身にも解らないままに。

 ただただ怒る。

 憤怒が口から溢れ出していた。


「痛ってぇぇじゃねぇかっ、バカヤロウーーー!」

 よくわからない地に降り立って、アルルは初めて自身の中での最大限の悪い言葉を口にする。


 レベル100の排気量は大地を揺るがした。

 

 後に、この戦いの最前線にいたエルフは、武勇伝を語るときにはこの話をしない事はない。

 なぜなら一番盛り上がってくれるからだ。この場に居なかった同胞が。

 教えてくれと後を絶たないからだ。


 実情で言うと、その場にいたエルフは洩れなく恐怖で失禁をする。

 洩れなく漏らしていた。

 叫ぶだけで大地を揺らす存在がいる事に。

 心底、心胆を寒からしめた故に。

 洩れなく漏らしてしまった。

 失禁をしてしまった。

 

 それゆえに、自身の恥ずかしい顛末を語る事はしないが、その場を人に教えるにあたっては。

 いかにヤバい所に自分が身を置いていて、誇り高いエルフであるのかを語るのに。

 あえて失禁を語った。

 自分一人ではなく、その他大勢のありのままの失禁を伝える事で、いかに自分が、ヤバい所に身を置いていた英傑であるのかを。

 ウケが良かったので尚更だった。



 アルルは自身の排気量によって、エルフ達の地底の王国を激しく揺らした事は感じない。

 自身に沸いた、どうして良いか分からない憤怒をただただもて余している。


 覚えがあるという感覚だけを脳みそのどこか遠くに追いやって、前方にある上方の空間を睨む。


「なんなのだぁ?……輝かしいぃぃく。……貴様は一体何者だぁぁぁ?」

 死せる太陽のゲインがそこに現れる。

 正直、エルフ達にとってはただただ理不尽な恐るべき敵が、何も無い空中に現れただけだが。

 アルルは、怒りなのか憤怒なのか、おおよそ気配を察知するスキルは無いはずなのにも関わらず、死せる太陽が出てくる前に、その何も無い中空を睨んでいた。


 虚空に消えたはずの黒い槍を、死せる太陽は右手に携えている。

 それを視認した少年は、喋るより早く動いていた。

 それは人によっては我を忘れた特攻。

 勇気とはお世辞にも言えない、ただの蛮行としか映らなかった事だろう。

 

 少年は素手で。

 剣を握る時間も惜しいかのように。

 誰よりも早く。

 死せる太陽に切迫していた。


 ただの殴り。

 は、死せる太陽は驚きながらも紙一重で避ける。

 ただの殴りを紙一重でしか避ける事は出来なかったと見るべきなのかもしれない。


 少年はさらに怒った。

 当たるものと思っていたからだ。

 最高に(りき)んだ、めちゃくちゃ格闘技未経験者の振り被ったテレフォンパンチなのに。

 どんなに身体能力に任せたとはいえ、流石に経験で。

 そのものすごいテレフォンパンチは避けられた。

 怒っている少年はさらに怒って、顔を真っ赤っかにして。

 理性を手放す。


自由を手にし者(オートモード)』からの『雷神』


 理性を手放したことによる隠れスキル。自由を手にし者(オートモード)が発動。

 熟練度がマックスの為、『雷帝』元位冠11・6位は昇格し、元位冠13位。広域殲滅魔法『雷神』に自動昇格。

 空ぶったはずの右手から、雷撃が迸る。

 名の通り広域に。

 すべてを浄化する神の雷が。

 すべての不浄を問いただす為に。


 アルルの右手から伸びた光は、四方100mほどを瞬きのうちに駆け巡る。

 空気を焼き、地を焼き。素人のテレフォンパンチを辛くも避けたはずの、死せる太陽すらも巻き込んで。

 平等に。

 焼き尽くす。

 その点においては確かに神の名を冠するに相応しい。


 がっ、などと言う暇も無く死せる太陽が今度は吹っ飛ばされる。

 焼け焦げつつ。

 辛くも致命傷にまでは至らなかったのは、魔族にしては珍しく。

 運のパラメーターが高めだったのと、物理的に逃げの姿勢を打っていたからだろう。


「――っうぅっ、がっぁぁ!?」

 アルルの思わぬ攻撃からの攻撃。

 あらかたダメージを受けた後に、ようやく死せる太陽は言葉を吐けた。 

 危険である。と、直感で感じるのみで、とにかく這う這うの(てい)で距離をとる死せる太陽。

 

 自由を手にし者(オートモード)は今だ発動中の少年は、再び自動的に魔法の行使に入る。

 瀕死時に発動のスキル、逆転レベル5(瀕死時におけるダメージ量増加)と逆境レベル5(瀕死時のステータス上昇、魔力の上限が無限に変換)の恩恵を受け、速やかに追撃の構えに出る。


『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』『雷神』。


 今一度、色濃く、空気を。

 大地を。

 目の前の敵を。

 生きとし生ける者を。

 平等に、浄化する。

 激しい神の怒りを以て。

 

 アルルの唯一の救いは。

 今回の。

 唯一あるとすならばの、少年への救いは。

 体が生まれたばかりではないという点だ。

 目も意識も赤子よりは自身の意識下におけて、その暴走自体も短時間で済んだ事。

 自由を手にし者(オートモード)の弱点。目標の不選定が、体の大きさに合わせて若干。

 若干だが、目の前に集中した事と(短時間ゆえに、四方八方とはならなかったのもある)。

 アルルの後ろでただただ失禁しまくって、隊列も何もない有象無象のばらばらに逃げ惑うエルフ達が、本能でアルルから距離を取った事。

 それにより。

 守ると決めたエルフ軍に、アルルからの無差別な攻撃での死者が()()()に出なかったという事。


 守ると言って、守る側に危害を加える様な間抜けな結末にはなってなくて。

 体の小さな亡国の英雄は後に深く反省をするだけなのだが。

 結果としては()()()に良い事だった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

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