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3章 死せる太陽は輝かない 010



 ■――第二都市フォン・ツーリャ、都市議事堂屋上――■


「なるほど……、輝かしいぃぃ」

 議事堂の屋上で、死せる太陽のゲインはぽつりと漏らす。

 それなりの準備をしてきて、いざ(いくさ)に入ろうかという段で、エルフ軍が擁立したらしい二人の者に、死せる太陽の目は深く静かに注視してしまう。

 おおよそエルフなどとは、個体差において魔族が負けるはずがない。

 それは人間種全てにおいて言える、どうしようもない種族間の特性でもあるはずなのだ。

 それがどうだろう。

 取り敢えずで、下級悪魔(レッサーデーモン)蛇使徒(ナーガ)に突撃の命令を投げた。投げたはいいが、その下級の魔族ら80体程は、みるみる滅ぼされていく。

 たった二人の()()()()()


「ふむふむ。……、やはりアレはまぐれではないと……。うーん、輝かしい」

 アレとは、自身より圧倒的に生命力が低い者を即死させる魔法が効かなかった事と。

 自身に少なからず傷を負わせた事を指す。

 死せる太陽は思案する。

「勇者……という事は無い。もしそうであれば我が敬愛の魔王様より何かしらの示唆はあったはず。……輝かしくも」

 時代により所々、勇者なる者は現れる。その時々で、世界の調()()を正す為だけの超越せし者(バランスブレイカー)

 魔王クラスの抗体措置に、世界が調和を取ろうとした時に現れる。

 魔族にしか知り得ない世界の(ことわり)の一部だ。

 だからこそ、魔族界隈でのみ通用する格言があって。『恐怖は生かさず殺さず。そして勇者を生まず』。世界のバランスをあまり壊さずに恐怖というエネルギーを調達するのが魔族たちのマナーでもある。

「そしてあの赤い髪の女……。真祖の血脈を感じるが……、いや。はたして……」

 自身の口癖すら忘れて、死せる太陽は深く思案した。


 またやすやすと下級魔族たちが滅ぼされていく。

 死せる太陽は都市の議事堂の屋上で、魔王:闇より出でる者(ダークマターザ・シン)より下賜された伝説級武装。

 【神をも射貫く紙(レイビョルーク)】を右手に顕現させた。

 そしてあの口癖と共に、不気味に。

 輝くような笑みをこぼして、闇に溶けていく。

 闇に紛れていく。



 どれ程の敵を屠ったのだろうか。

 最初からアルルは、数えても無駄だろうと思い別段数えてはいない。体感で言えば10や20位だろう。

 ロングソードでちまちまと、剣の届く範囲で倒している(ちまちまというのは、アルル本人の体感ではある)。

 一方ルビーは、何やら自分の手をデカい鉤爪にして二体、三体同時に倒したり。羽を使って、空中を自由に飛びつつ、黒い錐状の鋭そうなものを十数本飛ばして、効率よく敵を倒している様だった。


「なんかやっぱりずるくない、それ?」

 アルルが使える魔法は火おこし(ハロックに散々怒られて、火の調節を獲得したので、もはやそれ用にしか火力が上がらなくなってしまった)や、若干の索敵魔法。それと浄化の魔法の数種類。魔族相手には焼け石に水なのは、もう試して知っている。

 なので一番は剣か拳による攻撃だった。

 相手の攻撃は遅すぎて全部躱している。

「アルルさんは、何か範囲攻撃持ってないんですカー?」

「なんだ、範囲攻撃って」

 アルルとルビーは何十体にも囲まれて、攻撃をされているにも関わらず通常通りに会話をする。

「範囲を、……っと。――攻撃する技ですヨーっと」

 飛びつつ器用に攻撃を躱して、合間合間でちゃんと敵を倒しながらルビーは言った。

「説明になってないだろっ。――っほ」

 またアルルも会話をしつつ、ロングソードで敵をなます斬りにする。

 そこで、はたと気付く。


 敵の残りの軍勢が、アルル達を囲まんと進みを始めているようだ。

 数で言えば残りの800から1000の間ぐらいで。

「流石に、囲まれたらヤバいかぁ?」

「そうですネー、囲まれたくはないデスヨーアルルさん。とりま一点突破で前に突き出てみましょうカー」

「わかったー」


 わかったと言ったが、本当にそれでいいのかと、アルルは一瞬頭によぎった。

 が、まあいいかと全力で正面奥に狙いを定め、線上の敵のみにターゲットを絞り走り出す。

 それはまるで音を置き去りにせんばかりの走りだった。

 それまでは近い敵から殲滅させていくだけなので、ちまちまと周りから斬り倒していたが。

 しかし、どうだろう。全力の速さはそれでかなりの突貫力と殺傷力を秘めていた。


 直線に走って、剣を絶え間なく振り続けただけの攻撃は敵の屍を累々と積み上げる結果となる。

「オホー。アルルさんやるー。それそれー、範囲攻撃ー」

 その声はアルルには届いては無いだろう。アルルはそのまま一呼吸のうちに、その突撃攻撃を繰り返して、そこそこ遠くに行っていた。

「アハハ。もはや敵の数も相まって無双ゲーですナー。アハハハ」

 ルビーはアルルに追いつこうと、取り敢えず空中高く舞ってアルルの下へ。

 行こうと思ったが、空中の魔族らに囲まれる。

 ルビーの両腕がひときわデカい鉤爪に変化した。

 そのままくるくると空中で回転をしだすルビー。

 まるで黒い竜巻にでもなったかのように、空中の魔族を細切れにしつつ飛んでいく。

 アルルの方へ。

「アハ~。そうかぁ、ゾンビだから特に三半規管などは気にしなくてもいいのカー。アハハハハー」

 ルビーは新たな技を覚えた様子で、テロロテッテローと呟く。


 アルルは一旦立ち止まる。ルビーを置いてきたことに気付いたからだ。

 しかし、黒い竜巻がすぐさまアルルの横に降り立つ。

「アルルさん、早すぎですヨー、アハハ」

「飛べるゾンビに言われたくない」

 見渡すと、まだまだ敵はいるようだ。

「そういえば、囲まれたから一転突破で前進してしまいましが、後方に魔族さん達を集中させる事になってしまいましたネー。アハハ……、後ろのエルフさん達にぶつかってしまいますネー」

「あっ……」

 反射的に「わかった」と、ルビーの案に乗ってしまった事を、アルルは悔いた。

 ――そうだっ……、このままじゃエルフ達が会敵する。魔族と――っ。

 どの位でエルフ軍が、追いついてくるのか見当はつかない。アルルは身体能力にモノを言わせて走ってきたからだ。


 とっさにアルルは近くにいるルビーの胸倉をつかみ、ぶん投げる。

 後方に集まりつつある魔族たち目掛けて。

 力の限り。

 ルビーをぶん投げた。

「エッ――ちょ!」

 ルビーは言葉を発するのがやっとで、気付いた時にはもう投げられていた。投げられ、体の動作もままならいない状態で後方に。

 敵の群れに向かって()()()()()

 ――ゾンビ頼む。

 投げられつつ。その言葉を辛うじて聞き取れたルビーはこう返す。

「オーキードーキーーー」

 ルビーはすごい速さで魔族たちに投げられた。まるで小石でも投げるかのように。

 範囲攻撃による速やかな敵の殲滅を、アルルより託されて。

 

 アルルがルビーを投げたのと、時を同じくし魔族側にも動きがあった。

 魔族たちの中、ひときわ体のデカい者が三体。3メーターはあるだろう巨躯に、岩のような肌。大きな口を殊更大きく開けてどす黒い炎を吐く。

 アルル目掛けて。

 距離で言えば、アルルより10メーター程離れた所から。

 魔族と呼ばれるにふさわしい、どす黒い炎を吐き出した。

 アルルはそれを見てから避ける。

 そのくらいの反射神経と、身体能力をアルルは保有していた。

「あっぶなっ――」

 実の所、流石にどんな身体能力を持っていても、投擲後の硬直はそれなりにあって、アルルはどす黒い炎を遅れた左足で受けている。――並外れた、身体能力と反射神経があって、左足のみの直撃で済んでいるとも言えるのだが。

 しかし、アルルは無傷だった。

 自身が赤子の時に、完全な火耐性を既に獲得している事など知らないが故に。

 そして無傷ゆえに、アルルは完璧に避けられたと錯覚しているのだ。


 その間隙がある種の、二重の油断になってしまった。

 

「がっっっ――!?」


 アルルの脇腹に槍が刺さる。

 何処から投げられたものかも判断がつかない。

 気付いた時には、槍は脇腹を貫いていて。なお、慣性を失わず、アルルを体ごと吹き飛ばす。

 

「ゔぁっ――あ゛あ゛あ゛っ――!」

 ――なん、だっ……、これっ!

 激しい痛みと共に、アルルは今しがたルビーを投げた方向に、自身も吹っ飛ばされる。

 脇に槍を刺したまま。

 槍に貫かれて、ぶっ飛ばされた。


 食いしばりLv5、発動。


 小さな亡国の英雄は久々に。

 本当に久々に、一回死んだ。



 

 


 

 

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