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3章 死せる太陽は輝かない 009



 シュバルツの言葉により、それまでの重い空気はまるでなかったかのように拍手と期待の目を向けられるアルルとルビー。

 空気的にはもう、英雄二人に指針を決めて貰おうという雰囲気が出ている。

「アルルさん、もうワタシ達で決めちゃって良さそうですネー」

「……うん。いや、まぁ良いんだけどね……何でも」

 意見の相違による無駄な時間を思えば、ここでさっさと決めてしまおうとアルルは思った。


 自身で最初に発した通りに、アルルとルビーで素早く偵察を行うという方向性でまとまるエルフ軍。

 索敵陣形(四方に散らばった索敵班と連携係を軸に広範囲に部隊を展開する陣形)と、鶴翼の陣(左右に広く部隊を展開し防御力と対応力を引き上げる陣形)の、丁度折衷的な陣形を組んで待機をする様に伝令が駆け巡る。

 場合によっては首都に引き返す事も、織り込んでの陣形だ。


 指針が決まってからの動きは統制が取れた、所謂(いわゆる)軍隊と呼べる迅速さで。

 ぐだぐだなさっきの天幕内の会議とは打って変わって、気持ちが良いくらい迅速だったので、アルル達も即座に偵察の準備を行えた。準備といってもさして何かを持っていくという訳では無い。

 作戦の状況によって、情報伝達のプランを教えて貰うのだ。

 

 慌ただしく動き出すエルフ軍。

 そこに唐突に声がする。

 空気を震わせるかのような声が、そこら中に響き渡った。

 声だけが辺りに響いているのだ。


『う~ん、実に輝かしい……。私は死せる太陽のゲイン』

 暗くて歪な声が辺りを埋め尽くし、エルフ軍1万人は各々の作業を止める。

 驚きと、緊張を滲ませながら静寂の中、次の言葉を待つ。


 天幕の方、アルルとルビーにも勿論声は届いている。

 こちらは特に驚きも、緊張もしていない。

 と、いうよりは単純に何だろうと首を振って辺りを見回す。

『エルフとそれに協力する者に告げる……輝かしく、聞くといい』

 この声は、最初にエル・フィーエル妖精国に宣戦布告された時の声だったし、同じ現象だった。

 エルフ達、全国民でこの声を聞いている。

 宣戦布告を聞いているエルフ達からすれば緊張と驚きは仕方無い。

『この死せる太陽は、貴様らの街。……第二都市にいますよ。……遠慮なく、偽りなく居座っていますよ。ふふっ……輝かしい。ですから、そんな半端な陣形など組まずに、真っ直ぐこちらに来る事をお勧めします……私は戦争がしたいのですよ……ふふっ』

 底から込み上げてくるような、恐怖をエルフ達は感じている。

 誰かの息をのむ音が、あたりの静寂により良く聞こえた。

『と、言いますか。さっさと来るのですよ、エルフ達(ゴミども)よ。……いつでも攻め落とせる首都などはどうでもいいのですよ、我々は。……これはただの実験なのですから。――軍隊としての行動を我々魔族が行えるか、またその可能性があるかの、ね。……うーん、輝かしい。だから、色々と待っててあげたでしょう?……ちなみに軍を引かせるようであれば即座に首都フォンを攻め入る事としましょう。面倒臭いので、こっちに進軍した方が良いと思いますよ……輝かしく』

 特に内実は知られても、どうという事は無いと言外に、死せる太陽は言い含めている。

 いまいち分からなかった魔族の目的は、ただの実験であるようだった。

 その実験自体の目的までは言わなかったが、侵攻にムラがあったのは特に意味は無かったのだ。

 その程度の事でエルフの国は滅亡に瀕したのである。


 どういったカラクリなのか分からないまま、死せる太陽の声は途切れて、あたりはまた静寂に包まれる。この声が、どこまで届いているのかも分からない。

 分からないが、再びアルル達を含めた軍の上層部は会議の場を設けざるを得なかった。


「これは行くしかないでしょうネー」

 何となく、議論が進まなそうな雰囲気を感じ取ってかルビーは一番に口を開く。

「まぁ……、そうだろうね」

 アルルもそこには同意を示した。――そうする他が無いように、あちら側に手を打たれたとアルルも感じているからだろう。

 そこに集まった軍の上層部も、うーんと唸るのみで反論も代案も出しては来なかった。


 アルルとルビーを前衛に、エルフ軍の陣形は防御によったものに少し編成し直す。

 小一時間を掛けず、英雄たちとエルフ軍は、第二都市フォン・ツーリャに向け進軍を開始した。



「前衛を任された訳なんですガ―。……アルルさん。ちょっといいですか?」

「?……どうしたの?」

 軍が進軍してからすぐして、ルビーはアルルに話しかける。

 前衛はアルルとルビーの二人だけとはいえ、一応の索敵と機動力に優れた一個小隊をそれぞれ後ろに抱えて進んでいた。その中にはシュバルツとアイーニャも含まれている。

「ワタシとアルルさんで、先にパパっと行っちゃいマセン?」

「え?……そんな事して大丈夫なの?」

「まぁ、それなりに進軍の体は取れてるし、そんなに遠くでは無いので先に行っちゃったとしても、エルフの方達が追いつくのはそれほど時間はかかりませんヨー。きっトー、アハハ」

「うーん。……まぁそうかー。そうだねー。先に行ってもいいかぁ」

 アルルも何となく根拠は無いながら、肌感覚ではあるが。――自分とゾンビが走って先に行った方が良い気がするなぁ。と、思ってはいた。

「うん、そうしよう。」

 くるっと振り向いてアルルは後ろの部隊に告げる。


「ちょっと、僕たち先に行くので、焦らずこのまま進んで行って下さい。よろしくです」

 部隊の先頭の部隊長が何かを言う隙を与えず、アルルとルビーはものすごい速さで駆け出していた。

 誰にも追いつけないスピードだったと、後に部隊長は誇らしげに語ったという。

 

 アルル達はエルフ軍を、その脅威的な自身の身体能力でもって引きはがして先に行った。


 アルルは普通の人から見たら、在り得ないスピードで走っている。その横をルビーは自身の吸血鬼の能力なのか、黒いコウモリの様な翼を携えアルルのスピードに、飛びながらではあるが並走している。


「えっ、なんかゾンビなのに空を飛べるってずるくない?」

「ヘッヘッヘ」

 舌を出してルビーははにかんだ。

 ――オレもいつか飛べたりできるんだろうか……。この世界は何でもあり過ぎないか?……まぁ、何でもいいかあっちに帰れれば。心でそうひとりごちる。

 アルルはそこそこの速力で走った。そこそこの速力ながらも、体力には全然影響が無いし、視界も速さに対して影響が無いようだ。


 歩いたら一時間以上の道のりを、二人は数分で目標の第二都市を目線に捉える。

 確かに魔族は軍らしきものを展開しているようだった。


『……う~ん。確かにそのパターンは禁止してませんでしたね。……輝かしいぃ』

 またぞろ、中空にあの声がこだまする。死せる太陽のゲインの声が。


 魔族は相手にしたことのある下級悪魔(レッサーデーモン)、見た事のないものが数種類。

 ざっと見た感じ数百から千程ぐらいの数だろうか。

 エルフの軍を見た後では、軍隊と言える程の統率は取れてはいないだろう。気持ち程度の隊列は組んでるみたいだが、バラバラだな。そんな感想をアルルは持った。


 アルルとルビーは蠢く闇の軍勢と対峙する。

 第二都市フォン・ツーリャは無残なまでに、魔族たちに蹂躙されていた。

 元の形を知らないアルルでも、悲痛に思う程だ。


『まぁいいでしょう。あなた達を相手にしてエルフ軍(ゴミ)の到着を待つとしましょう……輝くしく』

 死せる太陽の言葉が終わり、蠢く闇たちの一番前。下級悪魔(レッサーデーモン)が大量にアルルとルビーを目掛け襲ってくる。

 羽をまた不気味に鳴り響かせながら。

 合わせて、知らない種類の魔族(蛇の頭に獣の体がくっついた様な二足歩行)が地上より駆けていく。

 数で言えば、80から100程だろうか。

 大気も地面もそれなりに震わせて、二人に襲い掛かる。


 アルルとルビーは静かに構えて、それらを迎え撃つ。

 


 

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