3章 死せる太陽は輝かない 006
簡易的なコテージ。ほぼ寝る所があるだけのコテージに四人は戻って来た。
今後の指針を話し合う四人。
夕食も済んで、いつでも寝れる状態でアルル、シュバルツ、アイーニャは寝袋に身を包んでいる。
ルビーは、寝ないで良いという特性を自ら語って、夜の見張り番を自らが志願した。
その為、立ったままコテージの端に居る。
「エルフ軍は、今は取り敢えず第三都市に移動を始めるという事で良いんですね?」
アルルは寝袋に包まりながら言う。コテージ内で寝袋に包まり話している様は、なんとも修学旅行を想起しつつアルルはシュバルツに先を促す。
「はい。……そのように伝令を受けました。首都フォンより東南に進軍していましたが、我々の状況を伝えまして、第三都市に移動するとの返答を受けました。……一時、そこで補給をして我々と合流する手筈です」
「それまでワタシ達は合流を待って、ここに居ればいいんですヨネー?」
ルビーは立ったままの姿勢を崩さず言う。
「はい。……その通りです」
どういった事が実際に動いているのか。
アルルは正直、よく分からない。
分からないまま、今の所は流れに身を任せる。
任せる以外の事をアルルは出来ない。出来ないというよりかは経験した事が無いのだから考えにも及ばないのだ。
戦争。を、知らないが故に。
それはルビーにとっても同じだろうとアルルは思ったが、自分に無い知識量からか。一応の信頼は置いていた。
エルフ達から見たらアルルとルビーは、たった二人で50からなる下級悪魔を悉く屠る。
エルフ。人族に類される者には確実に無理であろう事を、簡単にやってのけるのだ。
そんな戦力を有する自軍の有利を、シュバルツは考えてしまう。
夢見がちな少女のようだと、自嘲気味に思えるのにも関わらず。
シュバルツは、少女のように希望的。
かつ、妄信的に。
勝利の二文字を、この少年とゾンビの二人に重ねてしまう。
「アア、話の腰を折ってしまって申し訳ないのですが……。魔族とは、あなた方エルフから見て驚異的に過ぎると思っているんですガ―。どうなんデス?」
ルビーはいささか失礼に当たる質問を、エルフの親子に向けて放った。
「……エルフ。に限った事では無いのです。前にも言った通り、魔族とは生きとし生ける者の天敵。命の真逆に位置する、負の存在。……それが魔族です。言い換えるならば、命ある者が勝てない様に出来ているのが魔族です」
がくっと、うなだれるシュバルツ。
「ホホウ。――じゃ今になって、何故魔族はエルフさん達の国を攻めてきたんでしょうネー。……そんなに強いのならばとっくに世界を掌握しててもおかしくないの二―」
二―の部分で、何故かニーキックのジェスチャーをするルビー。
分かりにくい事をするなぁ、とアルルは何とはなしに思ったが思ったままにそれを無視する。
「……それは。私達も不思議でなりません。負の存在はそもそも、正の存在無くしては成り立ち得ないはずなのですが……。それ故に保たれてきた均衡のはずなのですが。我々エルフは無くなっても、世界には何一つ揺らぎは起きないのか……。分不相応に増えすぎてしまったのか……。兎に角、むやみやたらに世界を掌握するようなモノが魔族では無いはずです。……我々の知識の範囲では……ですが」
纏った寝袋を、口元までたくし上げシュバルツはそう言った。
それは何処か、そもそも中性的なシュバルツの容姿を。さらに中性的なものにするような仕草であったが、少年とアルルは特に何も思わず話の続きを黙って聞く。
「……そのような話は第一都市が陥落してのち。妖精王と上層部での話し合いで散々議題に上ったようです。……結論は、出る事は無く。……今に至ります」
「なるほどですねー」
アルルは、何となく言わんとしている事は分かるような分からないような。
どっちかと言えば分からない。
無意識に何となく相槌を打ってしまった。
「ウワ!出た!……日本人特有の曖昧な相槌風の相槌!わら。……ナルホドデスネー。アハハー」
アルルを真似たかのような、ルビーのソレに。
必死に、ーー突っ込んだら負け。突っ込んだら負け。と、自制してアルルは続ける。
「と、……とにかく。軍隊が到着するまではここに居て。その他リアクションがあれば適宜行動に移していくという事でいいですね?」
「はい。アルル殿の仰る通りです」
「何か不測の事態があった場合。死せるナンチャラが出てきた場合。……この時には、シュバルツさんもアイーニャも全力で逃げる。……これでいいですね?」
アルルは念を押す様にエルフの親子に言った。
「我々の不甲斐なさを、再度お詫び申し上げます。……我々は何時いかなる時もお二人のお言葉に従う所存です」
シュバルツとアイーニャは深々とお辞儀をした。
寝袋に入ったままの、アルルとルビーに一度ずつ、頭を下げた。深々と。
寝袋に入ったままなので、芋虫の様にもそもそと。
真摯な様子は伝わるので、アルルは特に何も言わずにそれを受け入れた。
そして、見張り番はルビーに任せて眠りにつく。
まどろむ頭の片隅で何となくアルルは考えた。
思った。
想った。
この世界に生きる人はリアルなのかどうかという事。自分はあっちの世界でどういう風に生きていたんだろうか。
未だに現実感無く、流されている自分。
では、あっちの世界では流されず生きていただろうか。
分からない。
アルルは眠りについた。
■ 〇〇的無意識内、その外れ ■
意識体となって狭間に帰還した、死せる太陽のゲイン。
自身の主にお伺いを立てる。
自身に起きた事の顛末を報告して。
『我が主、闇より出でる者様。……どうかその英知を下賤な私に。……どうか』
『ふぉっふぉっふぉ』
そこかしこは闇に染められた黒より黒い黒。混沌に色を付ければ、かような色になると、誇らしい思いでいっぱいの様子の死せる太陽。
その甘美で、重厚な声音のその続きをただただ待った。
『死せる太陽のゲインよ。……ふぉっふぉっふぉ。』
『ははぁー。輝かしき、尊き御方』
『ふぉっふぉっふぉ。……良いのですよ。そのままで』
意識体に、そのままも何もないかもしれない事は、死せる太陽は考えもせず。
気持ち的には、さらに畏まって見せた。
見えないのだけれど。
気持ちだけは確かに畏まっている。
『そのままで、と言うのは。――あなたは何も間違って無い、という事を言いたいのであって。決して物理的に畏まる様に見えるのか、見えないのかの話をしている訳では無いのですよ?分かりますよね?ふぉっふぉっふぉ』
『輝かしくも、いと深淵なる主よ。……もったいなきお言葉』
何をして、もったいないと言えるのかを死せる太陽は考えない。
『さすがは私の腹心の死せる太陽のゲイン。……言わずもがなで、察しましたか。ふぉっふぉっふぉ』
『感動に咽び泣く寸前でございます。……輝かしき我が主』
意識体が果たして、咽び泣くことが可能かどうか。では無く。
心で。
自身の思いが咽び泣く事をしていると思ったゲインは、再びうやうやしく頭を下げた。
と、いう思いでゲインは畏敬の念を自身の主に送る。
『これを以て、死せる太陽のゲインに。……ふぉっふぉっふぉ。我が祝福を……。あたえん』
与えるのか与えないのか不明瞭な言葉を残して、闇より出でる者の声は消えた。
『我が主よ……輝かしく。……感、無量』
頭を再び下げるような気持ちで、死せる太陽のゲインは。
目に涙を浮かべる様な気持ちで、死せる太陽のゲインは。
お辞儀をした。気持ち的に。
現実に戻ってきて、自身の手の中にある伝説級の武器をぎゅっと握る。
今度は何処かは知れない虚空に、物理的にお辞儀をした。
自身の尊き主に。
伝説級の武器【神をも射貫く紙】。
あらゆる障壁を紙の如く貫く槍。
それはあの最強の。
12歳の少年にも届くだろう。
誰にも阻まれないことを存在意義として、それにだけ特化した伝説級の武器だから。
レベル差を無視できる得能が故に。
死せる太陽のゲインは含み笑いを漏らす。
勝ったとばかりに。
自身の力を信じるという方向では無い、というのは考えず。
まるで自身の力かの様に。
どす黒く。
ただただどす黒く、輝かしく笑った。




