3章 死せる太陽は輝かない 002
第三都市フォン・サールドより出立したアルル達は、滅ぼされた第二都市フォン・ツーリャを目指す。
まずは昨日、声の大きな獣人を撃破した場所へ。
前線基地のあった所に赴くべく、英雄のアルルと吸血姫のルビー、弓使いのシュバルツに森の祭司のアイーニャ。
という編成で、名ばかりだが遊撃隊としてそこを目指す。
道具屋で揃えた旅道具は車輪の付いたソリに乗せている。
エルフのシュバルツとその娘アイーニャが綱を引いていた。
馬車での移動は、急に襲われた時の対応が難しい為である。
アルルは自分がそのソリを引くと申し出たが、シュバルツにいざという時に対応できる者が自由であって欲しいと言われたので、それを受け入れ、前衛をアルルとゾンビが歩いて、後衛にエルフの二人が荷物を引いているという隊列だ。
「ねぇ、ゾンビー。……オレらって結局どうしたらいいんだろう?」
「ルビーって呼んでヨー。もおー。プンプン。……ま、ざっくり言うとかなりいいように使われてますネー」
――そう、だよなぁ……きっと。……プンプン?
「でも、マアー。いいんじゃないでスカ―?――正直アルルさんの帰る方法を探す為に選択した事ですから、取り敢えず身に任せてモー」
「そう……なのかな……」
いまいち危機感が湧いてこないのと。
どうにも、このルビーといる事でそれがさらに増長されているような気がするアルルは、このままでいいのかと考えてしまう。
――このゾンビも意外と、オレと同じように、何となく他人事のように感じてたりするのかな?
「シュバルツさんは、そのー。今行く所に何かあると思ってるんですか?」
アルルは後ろで荷物を運ぶシュバルツに投げかけた。
「ええ、あの獣人は結局撃破したといってもゾンビのまま野放しですし。……仲間の。その……埋葬もしてやりたいとも思ってまして。――あっ、一応報告ではなんと説明したものかと思いまして、撃破という体で妖精王には話しています」
「なるほど……そうですね。確かに埋葬は必要でしょう……」
アルルはハロックと過ごしたあの山を思い出した。そこに巣くった悪霊たちを。
適切に弔う事は、同胞への気持ちの弔いと。
その後の、霊威による二次被害を押さえる為に必要であった。この世界の一つの常識でもある。
一行は数時間をかけて、再び前線基地のあった場所。焼け焦げて、何も無くなった広場に来た。
エルフの国は森の地下洞窟な為、上の木からの根っこやらがまとまって柱の様に束ねてあるだけで、樹や茂みなどは無く。強いて言えば光を放つ光琳樹があるだけで、他は整備された道か、整備されてない道か、首都フォンを含めた計六つの都市があるだけである。
ここに着くまで敵との遭遇戦闘は無かった。
それをシュバルツは若干、訝しんではいたが。
取り敢えずで、早々に道具屋で揃えた簡易的なコテージを娘のアイーニャと共に建て始める。
流石にアルルもルビーもそれを手伝って、程なく簡易コテージは出来上がった。
コテージといってもテントよりは頑丈で、寝る場所だけが目的のものではある。
「ではアルル殿とルビー殿は、少し休まれてはどうですか?私は少し辺りの哨戒と、何処か埋葬するに相応しい場所の選定に行ってきます」
「ん……いえ、僕は大丈夫ですよ?それよりシュバルツさんの方が、何かあった時大丈夫ですか?」
「ご心配には及びません。一応の隠密用のアイテムと術で、一人ならば見つかる事は無いと思いますので。……それよりお二方は休まれて英気を養って下さい。アイーニャ!お二人の世話を頼んだよ?」
頼まれたアイーニャは親指をぐっと立てて父親に答えた。
それをまたぐっと親指を立てたシュバルツは、すぐにほふく前進の恰好になったかと思いきや、何かの布も一緒に纏う。
するとみるみるとシュバルツの体が辺りと一体となって、見えなくなる。
もちろん完全に見えなくするような布では無いだろうが、この国の従来の暗さも相まって、もはや何処にいるのか見当もつかない程であった。
「オオ―、ステルスですカー!かっこヨー」
ゾンビが感嘆の声を上げる。
「では少しの間行ってきますので失礼します」
そう言い残し、ずりずりと地面を這う音はここより何処かへ、少しずつ遠ざかった。
――えっ!……ほふく前進で行くの!?
碌に寝てはいないであろうシュバルツの働きぶり。動きに。アルルは素直に敬意を持った。
シュバルツが行った後、二人は取り敢えずコテージ側に設置された椅子に腰かける。
木に布を張った椅子が四つ。その間には簡易的なテーブルが置かれている。
「アイーニャちゃんも、こっちに来て休みなヨー」
ゾンビはアイーニャにそう言ったがアイーニャは首をぶるぶると振って、焚火の用意を始めた。
どうやらお湯を沸かして、お茶を出してくれようとしているみたいである。
働き者のエルフの親子を見て、アルルは自分にも何かできないかアイーニャに聞いたが。
彼女はひゃっ、とか。んっ、とか。とにかく言葉を喋らず、動きと目線だけで二人に椅子に座るよう促した。
――ほんとに喋れるの、この子?……なんか不安にさせる子だな……、昨夜の踊りといい。
「アイーニャたん……アイーニャたんもえー」
「お前って……本当に良く分からない事を言うよなぁ。――日本にいた外国人っての、嘘なんじゃないの?むしろ本当の事は何も言ってないだろ、お前」
つぶやくように何かを言っているルビーに、アルルは思わず思っていることを言った。
「えへへー。そこは、マア……はかとなく謎が謎を呼ぶ女でありたい、今日この頃のワタシデース」
「知らないよ。――女の前にゾンビだろ」
「ゾンビの前に女デース」
「なんだそれ。……いや、まぁ。もーいいや」
ゾンビとの掛け合いに疲れたのでアルルは会話を切り上げた。
程なくしてアイーニャがお茶を淹れ、運んでくる。
香ばしい匂いとほろ苦い酸味が、何ともアルルの心をほっとさせてくれた。
ほっとしたのもいつぶりだろうかと、アルルは思ったし。
ほっとしたのと、まるでキャンプにでも来たかのような現状に、日本での事をついつい思い出してしまう。
彼女と二人だけで行ったキャンプを。
まだ付き合いたてで、周りの誰にも秘密だったから。
なるべく人が多くないだろうキャンプ場を探し。
車もレンタルをして。
そこで彼女が淹れてくれたインスタントコーヒーの味を。
彼女との焚火を囲んでの他愛のない話を。
思い出してしまった。
またあの感情が戻ってくる。――早くあそこに帰りたいと。
胸に手をあてぎゅっと力を籠める。この気持ちを胸の奥に押し込める為に。前かがみになって。
泣きたくなるとかは無いが、胸の奥に仕舞っておかないと辛いから。どうしようも無くて辛すぎるから。
ぎゅっと、押し込めた。




