表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/167

第四部 2章 魔王の蠢動…… 011



『ふふっ……では、話の続きをしようか』

 手に収まる程の大きさの紙は、カツサムの肩に乗ったまま、ぴらぴらとはためく。

 表情などがある訳ではないので、出所の分からない声色を頼りに、感情を察するしかない。


「あ、いや。その……ナーサさん、でいいんですよね?」

 アルルは、暴動の話の続きは気にはなるが。それよりも、動き喋る紙自体の説明を、まず必要とした。


『ああ、そうだよ少年。君の友人、ナーサ・ミ=ショーオだ。この様な姿で、失礼するよ』

「ああぁ……紙、なんですね。ナーサさん……」

『ふふ、これは僕の魔術の一つでね。式紙という術なんだよ』

 声を伝える遠隔の魔法なのだろうかと、アルルは解釈をする。

 

 ーーそんな魔法があるなら、あの手紙はなんだったんだろうか。

『ははは、手紙は純然に僕の趣味さ。手書きというのが、僕は実に好きなんだよ』

 ナーサはまるで、アルルの心を読んだかの様に言ってくる。

 人の思考を先読みで発する所は、間違いなくナーサである様な気がした。


『長くなったね、暴動の先の話をしよう。時間がない』

「あぁ、すみません。どうぞ……」

 時間がないとは……そんな疑問も湧き出てしまう。

 次から次へと、頭にクエスチョンマークが浮かんでくるが。アルルは、黙って聞く姿勢を崩さない。


『結論から言えば、暴動は僕の魔術で納めたんだよ。荒ぶる人々を、取り敢えず全員()()()()。とても危険な状況だったからね。カツには、荷が重かろうと思ってね。本来の目的ではなかったが、仕方無い』

「おいー、確かに俺じゃ無理だったけどー」

 カツサムが合いの手よろしく、非難の声を上げる。

 紙はぴらぴらと肩の上で、はははと笑った。


『僕は今、実際にはサイ・ダートにいる。軍の編成に成功して、これからパエル・ダートの東部に向かう途中なんだ。先遣隊としてね。パエルを優先させたけど、ここイヤウアも勿論気になっていたから、式紙を使って情報を得る必要があったんだ』

 なるほどと頷くアルル。しかし、整理はあまり追いついていない。


 隣のルビーを、チラリと見る。

「アハー、式紙かぁ。魔術? 魔法? アハー、なんかワクワクするナー」

 手を顔にあてて、違う方向へと思考をシフトさせている。

 ーーよく分からないと言える雰囲気、では無い……よなぁ。


『ああ、ごめんごめん。君に分かり易く言わないとだね。ごめんごめん』

 紙は丁寧に半身を折って、ぺこりと一礼する。またもや、心を読まれてしまうアルル。

 ーーか、顔に出てるのかな。


『君たちは、可能ならすぐにこの街を出るんだ。明日の朝までは、怒れる住人達は目を覚ます事は無いだろうけど。無意味な暴動に、また巻き込まれる公算は高いからね。眠っている住人の鎮圧に、サイ・ダートから部隊を派遣している。朝には着く…だ・ろう……あ』

 最後は途切れ途切れで、調子が悪そうだ。


 ーー無線機みたいだな。なんか……電波なのかな?

『ああ・あ……ここまで・の……様、力を、使い……す』

 ここで紙は、まるでただの紙の様に、カツサムの肩からひらりと落ちる。


 一瞬の沈黙。


「なんか、まだ言いたそうだったけど。人を眠らせるのに、かなりの力を使ったって言ってたからなぁ。ナーサの奴」

 カツサムは落ちた紙を拾って、再び懐に入れる。

「ええ〜なんか、紙が喋るのかわいかったね〜。ミカもそういう魔法、使えたらな〜」

「いや、ミカ。お前には無理だって〜」

「ええ〜、どうしてそういう事言うの〜? そんなの分かってるしぃ。えぇ〜、やだった〜」


「あぁー、そうなんですね。えーと、ボクらはどうしたらいいんでしょうか」

 毒の身体でなんとか立ち上がり、アルルはどうするべきかを考える。

「そうだな……ナーサの言う通り、明日の朝に軍の部隊が来るなら。一応、事態は少しは収まるとは思うが……」

 また再びの沈黙が、一同の間に広がる。


 と、そこでエリスが、アルルの前に出て来た。

「にゃあ、アルル……」

「エリス……うん、分かってる。エリスの子供の事、だよね? 大丈夫、忘れてないから」

 やはり小さな英雄の前では、色々な物事が同時進行してしまう定めにあるらしい。


 何を優先するべきか、整理のついていない頭で考える。

 しかし、軸となる行動規範が、今の所見当たらない。

 否、見つけられないのだ。


 エリスの子供。街の暴動と、街の行く末。魔王の行動。政府上層部の暗殺の真実。アイーニャの体調に、ナーサの助言。

 毒による身体中の痛み。


 ぐるぐると頭を駆け巡り、処理が追いつかず頭が痛くなる思いである。

 一番は、元の世界に帰る事。その至極シンプルな軸が、今や複雑に曲がってしまっている事すら。小さな英雄は気付けず、悩んでしまう。

 人々や世界を、現実と捉えるが故に。自身にとっての願望を、しばしば見落としてしまうのだった。


 良いのか悪いのか。答えはまだ出ない。


「アハー、アルルさん。アイーをこの状態で連れ回すのは、ワタシは反対ですヨー」

「ああ、ゾンビ。それも……分かってる」

 軋む身体で、伸びをするアルル。

 ーーアイーニャのおかげか、動けない事はないか。ありがとう、アイーニャ。


「あ、アルル……さまぁ」

 アイーニャは、少し戻った意識で、弱々しく言葉を発する。

「わた、し……はぁ、大丈夫ですぅ。だから……」

「アイー、無理しないでヨー」

「アイーニャ……」

 

「ついて、行きますぅ。アルル様の……毒だって、それに……私、今調子いいんですよぉ」

 どこが調子良いのか。と、アルルは思う。

 やはり、危険な状態なのではないかと、思ってしまうのだ。


 しかし、調子が良いのは本当である。体力が弱っているだけで、レベルは信じられない程に、上がっているのだから。

 

「アイーニャ……いいから、休んでてよ」

「アルル様ぁ、本当なんですぅ。だから、私を……置いて、かない、で……」

「そんな、アイーニャを置いてくなんてしないよ」

 すぅっと、少し濡れそぼった瞳を閉じるアイーニャ。

 ルビーがゆっくりと肩を持ち、毛布に優しく横たわらせた。


 と、そこで。

 急に降り出した雨の音が、宿屋の屋根を打つ。

 その音は、広間の、人もまばらになった空間を埋め尽くす。


「ドラゴン雨か……」

 カツサムはぽつりと呟く。

 ーード、ドラゴン雨……?

「アハー、ドラゴンの様に激しい雨。の、形容ですネー。分かりまスー」

 アルルは相槌を打つルビーに、激しくツッコミたかったが。やめておく。

 毒で、いまいち身体が本調子では無いからだ。


 その驟雨(しゅうう)は、激しさを増すようで、降り止む気配は見えない。


 アルルは、ふうぅと自身の呼吸器官を確かめるように、息を吐きつつ。これからどうするかを、再び考え始めた。


 毒に侵された、小さな英雄の体力は。徐々にだが減っていって、死には向かっている。

 だが、何回も死を体感しているアルルには、別段優しいくらいの状態ではあった。

 鈍感になってしまったのだ。死というモノに対して……

 

 雷の音が響いた。


「いや〜ん、カツ君怖いっ!」

 瞬間でひしっ、と抱きつくミカ。

「おいい、びっくりしたぁ〜! おい、ミカー。急には、やめろよ〜」

「だってぇ〜、怖かったの〜」

「いやっ、俺もびっくりしたって〜!」


 と、そこで意識を失って横になっていた筈のアイーニャが、がばっと起き上がるのだ。


「風がぁ……風が、止んでますぅ……」

 顔色は依然、青白いままで。肩で短く息をして、アイーニャはそんな事を言う。

「ア、アイーニャ……?」


 弱っているはずのエルフの少女は、急に立ち上がり。広間を出て、外へと走って行くのだ。

 急な出来事に、周りの反応は一瞬遅れる。


 異様な出来事に、一同は焦った様子でアイーニャの後を追う。

 アルルにカツミカ夫妻。ルビーにエリスは、一斉に外へと出るのだった。

 

 アルル達の後ろ。今まで、居たのにも関わらず、一言も発していなかった者が一人。

 広間の薄暗い明かりで照らせれてはいるが、目元は影が落ちてよく見えない。


 しかし、うっすらと口元は口角が上がっていて、不気味に笑っている様に見える。そんな人物が、一人。

 アイーニャを追う五人を、見ているのだった。


 連邦捜査官、ノイ・ジー。

 カツサムの後輩でもある、小柄な体格の幼い顔の女だ。

 短髪の赤髪を、静かに揺らして。

 その童顔を、ゆっくりと歪めてうすら笑う。

 

 そして、ひと呼吸遅れる格好で。エルフの少女を追って、外に出る五人の後に続くのだ。


 鋭い雨は降り続き、雷の音はますます近くなっている。

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ