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第四部 2章 魔王の蠢動…… 008



 何回目かのババ抜きで、これまた何回目かのババになってしまったエリス。丁度そんな頃合いに、ノイが広間に戻って来た。


「いや〜、皆さんお疲れっス」

「おお、ノイ。遅かったな。救助はどうだった?」

 初めてのババ抜きで、無類の強さを誇ったカツサムは、手持ち無沙汰の様子でノイに顔を向ける。


「ええ、まぁ上々っス」

「え? どんな感じに?」

「ええ、まぁ上々すね〜」

「おいー、一応カタチ上はお前の上司だぞ。具体的な報告は聞かねばならんだろって」

「ええ〜、でも先輩。上々は上々っすよ〜」

「おお、そうか。上々は上々か、じゃあしょうがないな……って、なるか!」

 先輩と後輩の、軽妙なやり取りは続く。


 アルルはそれを、遠巻きに聞きながら。カツサムの心中を察して、大変だなぁと思う。

 ーーああ、なんかこういう後輩いたなぁ。

 少し、元いた世界を思い出す。思い出せたと言った方が、正しいだろう。

 段々と薄れていく、あの世界の記憶を。


 前までは、思い出せない事に苦痛を感じていたのだが。今は、それが大分と減ってきている。

 この世界を前向きに捉えて、焦らずにゆっくりと、元の世界に戻る方法を探そうという精神状態になれているからだ。

 この世界で出会えた人達のお陰で、どうにか。

 アルルは、色々な思いや罪を背負いながら、なんとか歩いていけている。


「もう〜、カツ君うるさい〜。やだった〜」

 寝ていたミカが、寝言混じりで先輩と後輩の空虚なやり取りを、否定する。

 そして、ごろんと体をよじってから、上半身を起こし。不機嫌そうな瞳を、カツサムに投げかけた。

「お、おお……ミカ。起こしちゃったか、すまん」

 ミカの不機嫌な目つきには弱いのか、すぐに謝るカツサム。


 その隣では、エリスがトランプのカード束を持って、にらっめこをしていた。

「にゃあ、ばかゾンビ。にゃんで、アタシは勝てにゃいんだ?」

「アハー、エリスはすぐに目にでるからネー。アハハー」

「にゃ? 目に? このカードが反射して映ってるって事かにゃ?」

「アハハー、んなバカな。イヤー、でも確かにそのデカい目なら、有り得るカー?」

 ルビーはニャハハーと笑い、エリスは首を傾げ再びカード束と睨めっこを始める。


 まとまりはないが、実に居心地が良い雰囲気で、アルルは誰にも見えない様に口角を上げるのだった。


 今だけはいいだろうと、眠り続けるアイーニャを見て思う。

 ーー今日のところは、もう何も起きないでくれ。このまま……

 そう願うという事は、反面。良からぬ思いを感じているという事でもある。

 じくじくと、アルルはまた言い知れない不安を感じているのだった。


 大抵の物事がそうである様に、願いは遠ざかり。

 忌避してしまいたくなる物事ほど、その進行速度を早めて、「やぁ」などと軽々しく挨拶をしてくるのだ。

 それが、英雄という業を背負うアルルであれば、常人の比ではないだろう。

 

 再び街中に、鐘の音が響くのだ。


 ぽつぽつと眠り始める者が多くなる、そんな夜の時間。二度目の不吉を知らせる警鐘に、広間は瞬く間に恐慌状態へと陥った。

 

 アルルは驚かない。内心で、くそと毒づく。

「カツさん、行きます。カツさんは、他の人やアイーニャをお願いできますか?」

 周りの騒々しさに反比例して、静かな口調で喋る。

 カツサムは、その落ち着き払った風に見えるアルルに、驚きを隠せないが。ミカの体を、揺さぶり起こす。


「ミカ、ミカ。おい、起きろっ!」

「う〜ん、カツ君うるさい……」

「馬鹿っ! それどころじゃないんだって!」

 眠い目を擦りながら、ようやく事態を把握し始めるミカに。流石の喧騒に、目が覚めるアイーニャ。


「ゾンビ、また飛んでくれないか?」

「アハー、了解(ラジャー)了解(ラジャー)

「エリス、君にもアイーニャをお願いできないかな?」

「にゃ……わ、分かったにゃ」

 やはりエリスも、落ち着いた様子のアルルに、少なからず圧倒される。


 アルルにしてみれば、悪い予感が当たらない事の方が多いし、さらに悪くなる事も多いのだ。

 いい加減に慣れた。そんなイラつきを感じて無いと言ったら、嘘になるだろう。


「おい、アルル。どうするんだ?」

 カツサムは、周りを見渡しながら聞く。自身はどう動くかを、推し量っている。

「はい、ゾンビに空から、状況を見て貰おうと思います。それで、数が多そうな方へ、ボク達は向かいます」

「なるほど、なら俺達はアルルが向かった方向と、逆に行けばいいか?」

「あ、そうですね。それがいいかもしれません。街の人の先導はできそうですか?」

「ああ、それは俺がやる」

「じゃあ、カツさん達は街の人達も含め、逃げる算段を。ボク達は空から、原因を見ます」

 

 カツサムは、ノイに目配せをし、それに無言で応えるノイ。

「よし、ミカー。アイーニャに肩を貸してやってくれないか? 俺はアルル達を見送って、街の人に呼びかける」

「は〜い、じゃアイー、動ける〜?」

 眠れた事で、瀕死からは遠ざかったアイーニャだが、幾分まだふらふらと体を揺らす。


「はぁい、なんとかぁ。あの、アルル様ぁ……」

 疲れた顔を心配そうな顔に変えて、アイーニャはアルルを見る。

「アイーニャ、大丈夫。だから、ね?」

「アルル様ぁ、ルビー様ぁ。ちゃんと、帰って来て下さいねぇ……」

「ああ、もちろん」

「アハー、可愛いアイーに、悲しい顔はさせないヨー。アハハー」

 ミカの肩に掴まり、なんとかアイーニャは立ち上がる。

 そこから、アルルにルビー。カツサムは先んじて広間から、外へと出た。


 外ではやはり、泡を食った様な勢いで混乱が広がっている。

「それじゃあ、カツさん。お願いします」

「ああ、まかせろ」


 ルビーは翼を展開させ、アルルの手を取ってすぐに、離陸する。

 夜の生ぬるい空気を掻き分けて、首都ハーヴェの街並みが一望できる高度にまで到達。


「ゾンビ、ごめん。オレはまだ目があまり、夜なのもあるし」

「アハー、分かってます。どれどれ……」

 上空は、それなりに風が強い。手だけを持たれる格好のアルルは、その風に体を煽られている。


「アハー、東の方向。今日、ワタシ達が戦った場所かな……あれは。何かが大量に、いますネー。ウジャウジャーって」

 片手でアルルを掴み、もう一方の手で望遠鏡の様に指を丸めて、遠くを見ている。

「うん、信じるよ。すぅっ……」

 アルルはここで、大きく息を吸った。


「カツさぁーーーん! 東へ行きますぅーー! 西へぇーー!」

 豆粒ほどになった、地上のカツサムへ。アルルは、大声で状況を伝える。

 小さな英雄のとてつもない排気量からの声量は、もしかしたら街中に響いた鐘の音よりも、大きかったかもしれない。


「アハー、多分カツの声かな。分かったって聞こえましター」

 ルビーは夜目も利くし、聴力もいいのだろう。流石に、かなりの高度差で常人の声量は、アルルには聞き取れなかった。


「うん、カツさんなら大丈夫と思う。じゃあ行こう、ゾンビ……」

「アハハー、ルビーって呼んでよもう。アルルさんったラー」

 ルビーは、速度を出したいのだろう。アルルの手ではなく、体を抱きしめ密着させる。

 そこからまた、一陣の風の様な速度で、東の方向へと飛んで行く。

 素早く疾く。

 この事態を、一刻も早く終わらす為に。


 と、そこで低く暗い声が、夜の空にこだましたのだ。

 エルフの国でも聞いた事がある、魔法による声の伝播。街中というよりかは、もはや国中。否、連邦中に轟くのではないかという程、でかくも聞こえるし。直接、頭の中に響く様でもあった。


『我は、魔王……闇より出でる者。全ての命ある者に告ぐ。三大魔王が一つ、ダーク・マターザシン。その言葉を、心して傾聴せよ。ーーこれよりは、魔が執り成す世界へと進化する為、命ある者は、その生を我に捧げよ。これよりは神話が再び蘇り、神々と我々魔の者の、正当な(いくさ)へと世界は変わるのだ。心して聞け、命ある者共よ……ゆっくりと、そして迅速に。ーー死に(そうら)え』

 

 そこで、魔王を名乗る声は途切れた。


「なっ……」

 言っている内容は、所々で抽象的でアルルには分からない。が、人に仇なす敵だろうという事は分かった。

 胴を掴むルビーの腕に、力が入る。


 空を切って、小さな英雄と赤髪の吸血姫ゾンビは、目的地へとその速度をさらに上げるのだった。

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