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第四部 2章 魔王の蠢動…… 005



 敵として最も手強い、二体の魔物がいなくなってからは早い。

 残り数十匹の小鬼(ゴブリン)を、順次倒していくだけなのだから。

 ……

 …

 

 どさっと小鬼が倒れる音がして、最後の一匹が地に臥した。

 カツサムはふぅと息を吐いて、その場に座り込む。


「アハー、カツお疲れ様ー」

「カツさん、お疲れ様です」

「おお、ルビー。アルルも……助かったよ。本当に、一時は駄目かと思ったが」

 アルルの手を引いて、ルビーがカツサムの方向へとやって来る。


「アルル様ぁ、どうしたんですかぁ?」

 衣服に若干の血を付けたアイーニャが、アルルに駆け寄った。

 二振りの包丁は、その場に捨てて心配そうな瞳をアルルに向ける。

 アルルは、やはり視界がぼやけてて見る事は叶わないが、声のする方に顔を向け。

「ああ、アイーニャ。いや、ちょっと……目が焼けちゃって。はは」


「アハー、ちょっと診てあげてよアイー。全く、このボンルルさんは……イヤハヤ」

「えぇ、そんなぁ。アルル様ぁ、こっちに来て下さぁい」

 ルビーに変わりアイーニャが手を引いて、アルルを丁度良さそうな場所へ座らせる。

 それから、(まぶた)を指で優しく押し広げ、眼球の様子を確認するのだ。


「えっ、アルルは負傷してるのか?」

「アハー、そうなんですよカツー」

 やれやれと言わんばかりに、ルビーは両手を広げて(かぶり)を振った。

 と、そこで応援を頑張っていたミカが、走って近づいて来る。


「カツ君、カツ君〜! やったね〜、良かったカッコ良かった、最高だったよカツ君〜」

「おお、ミカー。お前も、花瓶で応戦してたじゃないか。良かったよ」

「ええ〜、ちょう嬉しんですけど〜」

 カツサムを中心に、ノイやエリスも合流し。お互いで、ささやかな健闘を称えあう。


 街は、戦闘状態からは脱した雰囲気だ。

 悲鳴に怒号は、徐々に収まりを見せ始め。これからどうするべきかを、ここで暮らす人々が各々で考えていかなければならない。

 アルルの治療も含め、一行は休憩できる場所へ移動する事になる。


 今回の魔物達の急襲には、それぞれで思う所はあるし。これっきりで、終わる事では無いだろう。

 そんな不安を口に出す者は居なかったが、なんとなく肌で感じる所ではある。


 漂うキナ臭い不吉さと、まだ昼という頃合いの蒼天の空模様は、どこか反目しあっていて。

 実際の惨状と見比べると、およそ乖離し、ただただ現実感が薄くギコチナイ。


 人々は一旦の静寂を、小さな英雄とその仲間達によって、取り戻す事になったが。今後、政府の見解や方針を巡って、人同士の(いさか)いに発展する可能性は低くはないだろう。

 ……

 …


 街中央の宿屋。アルルは、そこの大広間の隅の長イスに腰掛けて、アイーニャから目の治療をされている。


 森司祭(ドルイド)が得意とする、《活性化(ヒール)》の魔法で、対象の治癒能力を向上させキズの早期完治を目的とした治療だ。

 ルビーにエリスにミカは、その場に居るが。カツサムとノイは、政府機関に今回の顛末や連邦本部の壊滅、街の今後についての話し合いが必要だとの事で、そちらへ赴いている。


 広間は人でごった返し、怪我人の救護や家を失った人の緊急の避難場所として機能していた。

 宿屋としては機能していない事を、示してもいる。


「アイーニャありがとう。なんかくすぐったいけど、ヒリヒリした痛みは大分良くなってる気がする」

「あ、まだダメですぅ。もう少し、続けますぅ」

 アイーニャは、両手を目にかざし淡い緑色の光を出し続けた。それが、治癒する魔法の光なのだ。


「アハー、アイーはすごいネー。がんばがんばー」

 ルビーは、アイーニャの両肩を揉む。

「ね〜、アイーすごいよね〜。魔法もだけど、包丁でゴブリンまで倒しちゃうんだもん〜」

 ミカは、いつもと変わらず楽しそうだ。


「ふん、アタシに刃向かう度量は認めるにゃよ。強い意志も、にゃ……ごにょごにょ」

 段々と尻窄みにしゃべるエリスは、人の多さに、再び目深にフードを被っている。


「え、アイーニャがゴブリン倒したの?」

 目を潰していて、何も見えていなかったアルルに。ルビーの口から、ここでその事実を聞かされた。


「ええ! アイーニャ……そうなんだ。ええっ、怪我は無い?」

「はぁい、アルル様ぁ。大丈夫ですぅ、元気ですよぉ」

「そ、そうならいいんだけど……」

 アルルは、アイーニャが戦った事実に驚きを隠せない。

 そして、ルビーはアイーニャが戦える事を、知っていたのだろうか。そんな疑問が、ふと浮かぶ。


「アハー、毎晩ワタシの創作した、忍者の話をしたおかげですかネー。アハハー」

「忍者って……そんな事してたのか」

 アイーニャが戦える事と、忍者の話を毎晩した事の関連性は、全く分からなかったが。

 なんで自分の元居た世界の、古い暗殺集団の話をしたのか。そちらの方に、アルルは気を取られてしまう。


「にゃ? にゃんじゃー?」

 聞き慣れない単語に、エリス(と、ミカ)は首を傾げる。

 説明するかどうか、アルルは迷ったが治療に専念したフリをして、その話を流すのであった。


 そこから小一時間後、カツサムとノイが広間に戻って来る。

「あ、カツさん。思ったよりも早かったですね」

 目の治療はまだ続いている中、多少視力が戻ってきたアルルは、二人の方向を見た。

 輪郭として、個人を判別できる位には復活したが、表情まで読み取れる程では無い。


「ええ、カツ君。どうしたの……? なんか、暗い顔して」

「ミカ……」

 広間についたカツサムは、確かに重く暗い表情で一同を見る。

 隣のノイは、いつもと変わらず、何を考えているのか分からない表情だ。


「いや、実はな……」

 人でごった返した広間を、見渡すカツサム。立ち聞きを恐れているのだろう。

 しかし、今の街の混乱状況では、場所を一々変える方が難しい。

 多くの人の喧騒の中、カツサムは小声で話し出す。


「早々に分かる事だろうから、話すが……ええとな。端的に言うと、大統領府の人間は全員殺されていた」

 眉間に皺を寄せたまま、ぽつりぽつりと感情を表に出さず、カツサムは続けていく。


「ムゴイ殺され方だった。どういった方法で犯人が、政府高官や大統領を惨殺したのか、また、複数なのか単独の犯行なのかも、見聞した感じでは分からないんだ。痕跡らしいものが何一つ見当たらなくてな」

 ここでミカは目を見開き、自身の口を両手で塞ぎ悲鳴を上げる。

 多少漏れていたが、気遣いは感じるのでカツサムは構わず続けた。


「でな、連邦本部の方はノイに聞いただけだから、そっちも気になって見にいったんだが……そちらも、同じような有り様だった。事件として捉えた時には、痕跡が見当たらない事も含め、惨状はほぼ同等。同じ者の仕業と見て、間違いないだろうって。ノイとも話して、共通した。くそっ……」

 感情を抑えていた表情が、少し乱れる。

 本部の方には、知己がいたと言ってもいたので、無理もない。


「こんな大事件が起こっているのに、誰もそれに気付かず。むしろ、魔物の襲撃が同時に起こったんだ。これは……結びつけるなという方が無理がある」

 カツサムはここで、視線を床に落として沈黙した。


「アハー、なるほどネー。ワタシ達が東門付近で相手どったゴブリン達は、操られてるのかっていう位、何もなくただ突っ込んでいただけでしター」

「あ、ねぇ。しかも、なんか南からの奴ら、なんか変じゃなかった〜?」

 ミカはグロ(ばなし)から、少し復活したのか。自身が感じた、違和感を話し始める。


「なんかねぇ、なんか変だったの。う〜ん、何って言えないんだけど〜」

「にゃは、言いたい事は分かるにゃよミカ。オーガにサラマンデール、この二つが組むはずがにゃいんだよ本来」

 エリスはフードをもっと目深に直しつつ、ミカの言に捕捉を入れる。


「オーガがゴブリンを従える事はあっても、サラマンデールと共闘する事はあり得にゃい。なぜにゃら、サラマンデールの捕食対象はオーガにゃんだから」

「そう! そうなのエリス! なんか不思議と、あいつら軍隊みたいに役割分担で、街とか人に攻撃してるって感じ?」

 そこで、少しの間が一同を包む。


「アハー、なるほどなるほど。なんとなく、見えてきた様な気がしますネー。フッフッフー」

 ルビーは何が分かったのか、満足そうに指で顎を触ってニヤリとしている。

 アルルは、そのルビーの言葉に。ーーあ、出た。エセ探偵気取り。

 などと、緑の光に視界を覆われながら思うが、口にはしない。


「アハー、エリス。エリスもなんとなく感じてるんですよネー?」

 エリスはびくんと、少し体を揺らす。

「にゃ……ばかゾンビ。そう、そうだにゃ。多分、全部が魔王様に通じているのかもしれにゃい。そう思ってはいるにゃ」

 思い出したかの様に、エリスは大きく身震いをした。

 今度はもっと重たい沈黙が、一同の間に広がった。

 

 何故か、ずっと黙ったままのノイ。

「おい、ノイ。なんでお前……笑ってるんだ?」

 カツサムは、ふと視界に入ったノイの顔を見てしまったのだ。

「え? 私? え、笑ってないっすよ。はは、ヤダっすね先輩。こんな大変な時に笑う訳ないじゃないっすか〜」

 不思議と、取り繕う様な仕草だ。


「うん……?」

 他の者は、結局ノイの表情など見ていない。各々で視線を交わし、肩をすくめる。


 そして話は、有耶無耶になってしまい。この先どうするかの話に、移り変わってしまうのだった。

 

 

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