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第四部 1章 猫とエルフのはぐれブルース 009



 ◆

 

 親愛なるアルル=エルセフォイ殿。


  やぁ、元気かな。

  突然の手紙で失礼するよ。

  君の波長を追う様に掛けた魔法が

  無事、君の所に行き着くことを祈るばかりだ。

  そして、君の大事なエルフの子が

  見つかっている事を願う。

  首尾良く、保護できただろうか。


  さて、話は変わるが。

  端的に言って、想定を上回る程の

  事態になってしまった。

  戦争は避けられそうもない。

  悲しいかな、得てして不幸というのは時と場所を

  選んではくれないね。


  連邦議会に裏切り者がいる様だ。

  周到に用意されていたのか

  突発的に起こった事なのか。

  正直それすらも、確かめようもないのが現状だ。

  ただ明らかな事は、今。

  連邦議会は、すでに機能をしていない。


  ウシロロ政府は軍隊を

  ハーロ・ダートへ出立させる準備に入った。

  パエル・ダート北西部、サイ・ダートへまず進軍。

  そこで連隊を組み次第

  ハーロへの総攻撃が始まるだろう。

  今の所、敵だと分かっている国が

  イヤウア・ダート、パエル・ダート南東部、

  ハーロ・ダートだ。

  

  連邦を二分した大戦争になるだろう。

  かく言う僕も、これから小隊を率いて

  先遣隊として、前線を作る役目を担った。

  下記は、判明している情報だ。

  一応、君に開示しておく。


  ハーロ・ダートで小鬼(ゴブリン)を確認。

  国民の生死は不明。

  イヤウア・ダートの政府中枢は

  ハーロ・ダートに掌握された可能性大。

  他にもあるが、一応ここまでにしておこう。

  連邦内のあらゆる事件が、ここにきて

  不思議と収束している気がする。


  君には、この国をただ楽しんで欲しかったが。

  多分君の事だ、

  またぞろ厄介事に巻き込まれているかもしれないね。

  最後の助言になると思うが、

  できる事なら君は、大事な仲間達と共に

  すぐに連邦を出るんだ。

  

  首都ハーヴェより河川を越えて

  南に行けば聖王国がある。

  そこもそこで、厳しい状況だが

  君の隣にいる連邦捜査官の故郷が

  聖王国からさらに南西にあるらしい。

  そこは戦とは無縁の楽園と聞く。

  

  大きい戦争だ。誰も死なない事は難しい。

  だから、どうか。

  逃げてくれ。逃げていいんだよ。

  大事なもの以外は見捨てていいんだ。


   君の友人、ナーサ・ミ=ショーオより

 


 手紙は以上だ。

 鳥に模して折られた紙は、折り目がついて若干読みづらかった。 

 アルルは、読み終えた手紙を四つ折りにして懐にしまう。


「アハー、しっかりハーロに行く感じになってますネー、我々は。アハハー、さすが」

「えぇ、ナーサに俺の故郷の事を話した覚えなかったけどなぁ。え、ミカ話した?」

「え〜、話したかなぁ。話してないと思うけど〜」

 アルルが読み終わった後に、思い思いを口にしていく。


「ナーサさん、すみません。中々……思い通りにはならないですね」

 胸に手を当てて、自嘲気味に口角を上げる。そして、小さな英雄はこれからするべき事の確認をする。


「それじゃあ、エリス。ここを立つ準備をしよう。いいかな? アイーニャもいいかな? うん。で、カツさん。手紙にあった様に、このイヤウア・ダートが乗っ取られてるって事で、いいんでしょうか?」

「にゃ、分かったよアルル」

「はぁい、アルル様ぁ」

 エリスとアイーニャは、席を立ち荷物をまとめに部屋に戻る。


「ああ、待って〜。ミカも〜」

 いつの間にか眠りから覚めたらしいミカは、話の内容が分かっているのかいないのか。何も聞かずに、二人にくっついて食堂を出て行った。


「うーん、俄かには信じ難いが。ナーサが言うなら、その可能性を考慮しないとだな。確かにイヤウアに入る時に、俺らと逆方向に向かう馬車なり、商人団なりを見かけないのは気になってた」

 カツサムは腕を組み、難しそうな顔で唸った。

「じゃあ、私は本部に行ってみるっス」

 ノイはそう言って、すぐさま食堂を出ていく。


「くぅぅ、あいつ。結局、有耶無耶のうちに行きやがってぇ」

「カツさんは、本部で何を聞こうとしてたんですか?」

「ああ、いや。捜査官をあまりにもバラバラに配置してるからさ。それの文句でも、上の奴らに言ってやろうと思ってたんだ。明らかに異常……」

 カツサムは言葉を止め、深く考え込んだ。


「アハー、カツ。手紙にもあったけど、裏切り者がいるって。もしかしてサー」

「ああ、ルビー。ナーサは突発的なのか、計画的なのか分からないって言ってたが。あいつはもう、大体の推測はついてるんだ、きっと。だから、ウシロロ・ダートの軍隊を動かした……」


「エエ、エエ。連邦議会はすでに、敵の傀儡となってしまっているんでしょうヨー。だから、止めようが無くなっちゃったんですネー。エエー、でも。だとすると……」

 ルビーとカツサムで、話の骨子を組み上げていく。


「結構やばいですかね? ハーロ・ダートに行くのは」

 アルルは二人の話を聞いていて、細部は分からないが。とにかく悪い状態だという事は、なんとなくで察する。


「ああ、アルル。どうなっているかは、見るまでは分からないが。危険なのは間違いがないだろう。後、ハーロまでの移動手段だな」

「アハー、カツー。ノイちゃんは、大丈夫ですかネー。もし、連邦議会の中枢がもはやダメなら。イヤウアの捜査局本部も……」

「そう、なんだよな……でも、もうあいつ行っちゃったからな。ったく、おっちょこちょいめっ」

 カツサムは、素早い後輩を気にかける。


「まぁ、あいつの事なら多分、大丈夫だろう。あんなだが、腕は立つ。それよりも、この国から出る方が問題かもしれないぞ? こうなってくると、発出された戒厳令も怪しくなってくる」

「そう、ですか。うーん……」

「アハー、それはまぁ追い追い考えましょう。それよりも、この国の政府がもうダメなら、今こうしてるのも危ないかもしれないですヨー?」

 食堂には、他にも客はいるが。普段のこの食堂の賑わいは知らない。

 しかし、そんなルビーの言葉にアルルもカツサムも頷く。

 アイーニャ達を追って、部屋を早めに引き払った方が良さそうだと話し合う。


 と、席を立とうとした時である。

「先輩、先輩、先輩! やばいっス、やばいっス〜!」

 ノイ・ジーがもう本部から帰ってきたのか、食堂に現れたのだ。

 特に大変そうに見えない顔色に声色だが、言葉だけは剣呑な様子でばたばたとカツサムの前で、多少の息を切らす。


「お、おおノイ。大丈夫か! 何があった!?」

「いや、大変っス先輩。本部の人達が、虐殺されてたっス! みんな! 全員」

 それほど深刻そうな顔はしないで、深刻な報告をするノイ。そんなノイの対応に慣れているのか、カツサムはそこには特段疑問を持っていない様だ。

「まじかぁ〜! まじか……えぇ!? まじかぁ、やっぱりもう捜査局は……」

 カツサムは肩を落として、項垂れる。


「カツさん……」

 きっと、知り合いが居たであろうカツサムに、何と言葉を掛けたらいいのか分からず。カツサムの肩に、そっと手を置いた。

「なぁ、ノイ。お前、昨日本部に行ったよな? その時はどういう感じだったんだ?」


「えっ?」

 目の前の小柄な後輩に、目線を合わせて聞く。

 ノイは一瞬言葉に詰まり、それから間を持たせて口を開く。

「げ、元気そうでしたっス……こんな事になるとは思わなかったっス。ほんとにみんな、昨日までは笑ってたっス。う、うう……」


 涙は出ていない様に、アルルには見えるが。ノイは、小刻みに体を震わせてそう言った。下手な演技を見ている錯覚にも陥るが、こういう奴なのだろうとアルルは思う事にする。

 そして、ノイの言葉を聞いてカツサムは涙を流す。

「そう、そうだよな……ちきしょう。あそこには、俺の……俺の同期も居たんだ。くそぉ、ひと段落ついたら飲みに行く約束……してたんだよ。う、うう」

 カツサムは、ノイの肩に手を置いてただただ泣いた。

 ……

 …


 泣いたカツサムが落ち着いた頃、アイーニャが荷物をまとめたからと報告をしに、食堂まで降りてくる。

「ありがとう、アイーニャ。それじゃあ、一旦ここを出ますか」

 ルビーにカツサム、ノイは一様に頷く。

 と、そこで街中に、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。

 祝福などに使われる様な、安穏な音の響きではない。

 それは、何かの警報として使われる類の鐘の音だ。


「これは……外敵から襲撃された時の警鐘!?」

 まだ幾分、目が腫れ上がったカツサムは、眉間に皺を寄せて呟いた。

 アルルは言い知れない不安感を覚え、腰に差した長剣(ロングソード)の柄を自然と触ってしまう。


 戦はすでに始まっていたのだ。

 

 

  

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