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第4話 白波さんは良い人

「ごめん、気持ち悪かったよな」


 止まった空気をなんとかしようと絞り出した言葉。


「……ま、まあめっちゃびっくりはした」


 俺の言葉を聞いて、思い出したように口を開く白波さん。その表情は驚いたままだが、俺の能力では本音の部分ではどのように感じているかまでは読めない。

 ていうか、これ、絶対内心気持ち悪いって思ってるよな。ただでさえ、白波さんは俺のこと気持ち悪いって思ってるんだから。朝、はっきり「きもちわる!」って言われたしな。気持ち悪い相手に気持ち悪いことされたら、気持ち悪いだろ。

 だが、そんな俺のネガティブな考えを打ち切るように白波さんは照れたように笑って


「でも、まあ絵は、描いてもらうの結構嬉しいよ」と言った。


 白波さんの意外な言葉に驚く。


「え、マジで? ストーカーっぽくって気持ち悪くない?」

「まあ、確かに泉があたしのこと好きっていう理由で描いてたなら、ちょっと気持ち悪いって思ったかもね。でも、そうじゃないって分かってるから別に気持ち悪くない。なんていうか、ただモデルにしてただけでしょ?」

「……そういうもんなのか?」

「そういうもんだよ」


 なんか全然分からんがそういうもんらしい。ただ、確かに俺は白波さんのことを好きって気持ちで描いてたわけじゃないから、ストーカーとはまた違うかもしれん。

 というか、俺が白波さんのことを好きかそうじゃないかって、そんな簡単に分かるもんなのか? 俺一言も明言してないのに、雰囲気だけ分かるもんなの?


「俺が白波さんのこと好きとは思わないのか?」

「いや、ないでしょ」


 半笑いで即答されてしまった。いや、なんでそんなこと分かるの?

 俺の疑問を無視して白波さんは続ける。


「あたしだけじゃなくて、みんな自分の絵描いてもらうの嬉しいんじゃないかな。まあ出来れば一言断り入れてからの方がいいとは思うけどね」


 アドバイスまでされてしまった。ていうか、なんか白波さんの態度がかなり軟化している気がする。朝、俺に「きもちわる」って言ったときの雰囲気と全然違う。


「あ、ああ……そうしたいけど、ただ、俺女子に嫌われてるっぽいし」

「あー……まあね」


 そこでふと思いつく。今、この態度が軟化された白波さんなら……。なぜ軟化したのかは全然分からないが、とにかくアドバイスまでしてくれる白波さんなら。

 俺のどこが気持ち悪いのか教えてくれるんじゃないか?

 脳バグ状態の自分では、どこが気持ち悪いのか全く分からないんだから。そうなれば誰か他人、できれば俺のことを気持ち悪いとジャッジしてる人間に聞いた方がいい。

 妹に聞いてもいいが、妹は優しいので本当のことは教えてくれないかもしれない。


「なあ、白波さん。一個聞いていい?」

「え、なに?」

「俺の見た目って気持ち悪いだろ? どこが気持ち悪い?」

「へッ!?」


 白波さんの口から、めちゃくちゃ間抜けな声が発せられた。かなり焦ってる様子。


「……べ、別に気持ち悪くないんじゃない?」

「いやいや、今日朝俺に『きもちわる』って言ったじゃん」

「あ、あれは……なんていうか言葉の文っていうか」

「言葉の文……?」

「ほ、本気で気持ち悪いって思ってるわけじゃなくて、あんたのことが嫌いだから言っちゃったというか……」

「つまり、白波さんは俺のこと傷つけるためだけに『きもちわる』って言ったってことか?」

 俺がそういうと白波さんはピキッと固まってしまった。

「……そ、そういわれると私すごい嫌なやつじゃない?」

「まあ、嫌なやつか嫌なやつじゃないかっていえば、嫌なやつだとは思う。ただ、俺はこうやって白波さんと初めてちゃんと喋ってみて、白波さんがそこまで嫌なやつだとは思わない。きっと俺のことどこかで少しは気持ち悪いって思ってて、それをはっきりと教えてくれたんじゃないか?」


 そういえば……ふと思い出した。今日、色んな女子から陰口を言われたが、白波さんの声は一度も聞こえなかった。白波さんと同じグループっぽい女子が陰口を言っている間も、白波さんがそれに乗っかることはなかった。それどころか、女子たちが陰口を言っているとき、不満そうにぶすっとした顔をしていた。


「白波さんって、陰口とか嫌いなタイプだろ?」

「え? あ、う、うん。それはそうだけど……」

「やっぱり! 白波さんは、いつも俺に直接文句言ってたよな? それって、正面から向き合って、俺の悪いところを教えてくれてたってことだよ! つまり、白波さんは嫌なやつどころか、めちゃくちゃ良いやつってことだ!」


 白波さんの目はなぜか泳いでいるが、俺は話を続けた。


「正直、学校でこうやって話しかけてくれるのって白波さんだけだからさ。頼れるの、白波さんしかいないんだ。俺の見た目、どこが気持ち悪いか教えてほしい。白波さんならわかるだろ?」


 手を机に付けて、がばっと頭を下げ白波さんに頼み込む。

 もうこれ以上、女子たちに陰口言われたくない。つらい。なおせるところがあるなら、なおしたい。


「ちょ、ちょっと頭あげてよ」


 白波さんの声が頭上から聞こえるが、俺は頭を下げ続けた。


「頼む! 俺の気持ち悪いところ教えてくれ!」

「わ、分かった! 分かったから!」


 真剣な気持ちが通じたのか、白波さんは了承してくれた。俺は嬉しくて顔をあげる。少し困り顔の白波さんがそこにはいた。困った顔も可愛い。

 白波さんは「はあ……」とため息とついたあと、少し考えてから口を開いた。


「う、うーん。見た目の話だよね?」

「そうそう! 見た目の話」


 人が意味もなく人を嫌うとき、見た目しかありえないからな。俺の見た目がどこか悪いんだろう。


「まあ、ちょっと暗いかもね? 陰キャっぽいというか」

「陰キャっぽい?」


 陰キャ……。漫画で読んだことがある。その漫画では確かカーストがどうのこうのとか描かれてたのは覚えてる。

 でも、まさかそんなインドの奴隷制度みたいなことが本当に現実にあるっていうのか?

 いや、もし仮に本当にそれがあるとして、だとするならば、なぜそのカーストが起きるというんだ?


 俺は、クラスを見渡して見た。確かに、クラスメイト達はいくつかのグループを作って仲良くしているのは分かる。だが、そこに上下格差があるようには、どうしても思えなかった。だってみんな美男美女だし。


「白波さん、陰キャって見た目で決まるもんなの?」


「そ、そう言われると、どうかな。うーん……そうだね。もちろん、中身も関係してるとは思うけど、実は見た目の割り合いが大きいと私は思う」


「なるほど。だとしたらさ、俺には全員がイケメンと美女に見えるんだが。どこで線引きされるわけ?」

「え!?」


 白波さんは驚いた声をあげたあと、きょろきょろと周りを見渡した。多分、クラスのみんなの顔を確認したんだろう。


「泉はみんなが同じぐらいかっこよく、可愛く見えるの?」

「ああ」

「……泉、ほんとに今日どうしちゃったの? 頭でも打った?」


 白波さんの的確な推測にぎくりとした。ここでまた赤ちゃんレベルのコミュニケーション能力を発揮して本当のことを言ってしまったら、もしかしたら保健室に連れていかれるかもしれない。そこから病院に連れて行かれて、この脳のバグを修正されてしまっては困る。

 俺はない頭で必死に言い訳を考える。が、何も出てこない。俺が黙っているせいか、白浪さんの眉毛がだんだん八の字になっていく。

 やばい。とにかく何か言わないと。


「でも、ほんとにこのクラスのみんなイケメンだし、可愛いじゃんッ!」


 考えたすえ出た言葉がこれだった。焦ったせいで声が大きくなり、クラスの何人かは不思議そうな顔でこっちをちらちら見ている。

 白浪さんは目を丸くして驚いていた。

 やばい、やってしまったかもしれん。今度こそ気持ち悪いって言われるかも。

 だが、白浪さんはまたもや俺の想像とは違う言葉を発した。


「……ふふ、そうかも。泉の言う通り、みんな可愛いしかっこいいかもね?」

「え、そうなのか?」

「うん、よく考えるとそうかも。顔の造りっていうの? そういうのはそこまで変わんないのかも」

「じゃあどうして俺は陰キャっぽいんだ?」

「顔っていうか、雰囲気かな。たとえば、髪型とか服装に気を遣ってるかどうか。泉、髪セットしてる? ていうか、それ以前に最後に髪切ったのいつ?」


 そう言われて初めて気がつく。俺の髪の毛が肩までついていることに。前髪は鼻ぐらいまで伸びている。

 最後に散髪に行ったのなんて、まじで覚えてない。でもこの長さから言って3ヵ月ぐらい前か?

 そして、改めてクラスを見渡して見る。先ほどグループになっていると言ったが、顔でなく髪型や制服の着こなし方に着目して見てみると、グループごとに何やら雰囲気が全然違う。

 こうなんか、髪型とかきっちりすっきりしているグループとぼさぼさな感じのグループで分かれている。


「陰キャっぽいのが嫌なら、まずは髪でも切ってセットしてみたら? あ、床屋とかじゃなくてちゃんとした美容室で切ること」

「び、美容室?」

「うん、美容室」


 美容室ってなんだよ。人生で初めて口にした単語だわ。床屋と美容室どう違うんだよ。

 ていうか、どう見つければいいんだよ、美容室ってやつは。

 俺が困っていると、白波さんはからかうように「あ、もしかして美容室行くの怖い?」と言った。いや、それ以前の問題なんだが。


「ねえ、良かったらあたしが行ってるとこ紹介してあげよっか?」

「え、いいのか!?」


 天からの助け舟に飛びつく俺。やっぱり白波さんめちゃくちゃ良いやつじゃん。俺のこと嫌いなはずなのに、なんの見返りも求めずこんなに優しくしてくれるなんて。


「いいよ、でもひとつだけ条件っていうかお願いがあるの」


 と思いきや、やっぱなんか要求されるっぽい。そりゃ、そうだよな。美容室とかいう恐らく一部の選ばれた人間しか行けない場所を紹介してくれるっていうんだから。

 なんだ? 俺はなにを要求されるんだ? 金か?


「な、なにすればいいんだ?」

「あたしの似顔絵、色付きで描いてくれない?」


 え、そんなことでいいの? むしろ描かせてくださいって感じです。

 やっぱり白波さん、めちゃくちゃ良い人。

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